骸骨と大きな問題
「すまないけど、ここで待っていてくれ、手紙を上の者に届けてくる」
「わかった」
男エルフはそう言って、目の前の門の中へ入っていく。
門の中へ入る前に、門番だと思われる者に、一言、二言、何かを言って行った。
俺たちがいるのは、エルフの里へ続く門だと思われる物の前にいる。
男エルフとあった場所からここまでは、あまり時間をかけずに到着することができた。
男エルフ曰く、人避けの魔法、というものを使っているらしく、許可のないものや、ただの人間は、通ってきた道へ寄り付かないらしい。
少しすると、門の中からイスとテーブルが運ばれてくる。
「どうぞお使いください」
目の前にテーブルと、二脚のイスが置かれる。飲み物と少量の食べ物も用意された。
「ふむ。感謝する」
俺とハルカはイスに座り、男エルフの帰りを待つ。
(それにしても……監視が多い)
目の前の門番2人、途中からついてきて、未だ森の中で身を隠している者が2人、そして門の上に3人だ。
全員で7人が俺たち2人のことを監視している。
過剰な気もするが、特に気にすることもないだろう。
「ここが、エルフの里、ですか」
「恐らくな、ここにいるもの全てがエルフだしな」
「エルフを見るのは初めてではありませんが、なんか、こう、感動しますね」
「そうか、それはよかった。もっとびっくりするものが見れるはずだ」
「世界樹、ですか?」
「あぁ、ハルナが言っていた、本物の世界樹があるらしい」
「大きな木なんでしょうね。楽しみです」
「あぁ。俺も楽しみだ」
雑談を楽しみながら待っていると、先ほどのエルフが帰ってきた。隣にはもう1人いる。
ハルナ達のエルフの里でのことを振り返ると、この者が村長みたいなものだろう
「初めまして、この国の外交官をしています。ミカイルと申します。紹介状は読ませていただきました。あなたの事情も、目的もわかりました。この国に少しだけ滞在することを了解しましょう。して、そちらのお嬢さんについては紹介状にないのですが、どなたでしょうか?」
「あぁ、こちらはハルカ、私の旅のお供をしてくれている。申し遅れたが、私の名はムルト、ハルナの紹介でこちらへ来た。滞在することへの許可、感謝する」
「えぇ。それでは、滞在する家と、決まりや案内についてお話がありますので、こちらへどうぞ」
ミカイルはそう言って、俺とハルカを門の中へと通してくれる
「これは……すごいな」
「ははは、びっくりするでしょう?」
「あ、あぁ」
目の前に広がるのは、エルフの里、なのだが、そこら中に俺の身の丈ほどはある木の根のようなものが広がり、その上には家や商店がある。
そして目の前には、その根を伸ばしているものと思われる巨大な木、先のほうは見えず、エルフの里を覆うほどの枝と葉がある。
その隙間からは太陽の光が漏れている。
「あれが世界樹ですよ」
「あぁ。一目でわかるな……あんなに巨大なものがここに入るまで見当たらなかったのは、魔法か?」
「えぇ。本来であれば、2つ山を越えたところからでも見えるほど大きいのですが、魔法で隠しているんです」
「なぜ?」
「エルフの国がここにあるのを知られるのを防ぐため、人間は誰もこの場所を知らない、というわけではないのですが」
「エルフは鎖国をしているのか?」
「いえいえ、私たちの国は鎖国ではありません。特産品などを輸出したり、人間の国にある嗜好品や食品なども輸入したりしています」
「良い協力関係を築けているのだな」
「えぇ、まぁ。あ、着きました。お二人にはこの小屋に滞在していただくことになります」
門から歩いて数十分、立派な小屋がある。
木で作られた小屋だ。小屋というには大きいが、2人で生活するぶんには十分な広さだ
「ログハウスですね」
「ログ?ハウス?」
「あ、私の世界にも、このような家がありまして」
「ほう、そうなのか」
「はい」
ハルカの世界では、この丸太でできた家もあったらしい。ハルカの世界にも本当に色々なものがある
「お二人とも、生活魔法は?」
「あぁ。使える」
「それでは大丈夫ですね。こちら、通信魔法が付与された木板です。こちらに魔力を流していただければ、私か、他の者に繋がります。不便なことや、困ったことがあればお使いください」
「あぁ。感謝する」
「いえいえ、それでは、今晩はこちらの小屋で寝てください。明日の朝10時に迎えに上がりますので、滞在期間などはその時にお話しましょう」
「わかった。世話になる」
俺は頭を下げ、感謝を述べた。
ミカイルもお辞儀をし、笑顔でログハウスを出て行った。
「すごく広いですね」
「あ、あぁ」
ハルカと小屋、大きさでいうと家なのだが、家の中を見て回った。
二階建てのログハウスで、一階にはリビング、キッチン、風呂とトイレがあり、二階には大部屋が1つ、小部屋が2つとトイレがあった。
「大人数で泊まるものだろうな……」
「2人なのに、贅沢ですね」
「あぁ」
ひとまず大部屋で寝ることを決め、荷物を置き、ハルカが晩御飯の用意をしてくれた。
リビングで食事をし、風呂に入り、ベッドへ横になる。
驚いたのは、ハルカが火と水の生活魔法をしっかり扱えていたことだ
「ムルト様、私も成長しているんですよ!」
ハルカは胸を張り、自慢気な顔でそう言った
「あぁ。ハルカは日々成長している。良い事だ」
俺はハルカの頭を撫でた。ハルカは嬉しそうに体を震わせ、笑顔になった。
俺は大部屋の窓に近寄り、あることに気づいて、急いで確認に回った。
(まさか……!)
大部屋を出て、他の部屋、そして一階のリビングにも行き、窓という窓を調べる。
俺が焦りながら家の中を走っていたのを見て、ハルカも慌てて一階へと降りてきた
「ムルト様!どうしたんですか?」
「ハルカ……重大な問題がある」
「え、そ、それはどういう……?」
心配そうな顔で俺を見つめるハルカ、俺は自分で気づいた事実を包み隠さずハルカに話す。
(この家は……)
俺は俯きつつも、顔を上げ、ハルカにはっきりと告げた
「ハルカ、この家は……どこの窓からも月が見えない!!」
「……え?」
ハルカは、呆気にとられたような顔をした
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