骸骨は拘束する


「一応、教えることは教えたが、まだまだ中の上、基礎と応用ぐらいだろう。これからは自分で研鑽することになる」


「あぁ。ハンゾウ、本当に世話になった。ありがとう」


「いいさ、俺もなかなか楽しかった。また会ったらよろしくな」


「こちらこそよろしく頼む」


ハンゾウと固い握手をする。

ここへ来て3週間、ハンゾウに体術、剣術、その他諸々を教え込まれた。

俺たちは筋が良かったらしく、ハンゾウの教えたいと思ったことは大体ものにしたらしいが、ハンゾウが言うには「上には上がいる」

その言葉は俺も知っている言葉で、己の力に慢心しないよう、ハンゾウが釘を打ってくれたのだ。

強くなったことを自分でも実感しているが、それにあぐらをかかず、これからも鍛錬をこなしていこうと思う。


「それじゃあな、ムルト」


「本当に、一緒に来ないのか?」


「……あぁ。俺はやっぱり1人で生きていくのがいいのかね。ってな、何かあれば駆けつけるぞ」


「そうか。わかった。それでは」


「あぁ!またな!」


「また!」


ハンゾウに手を振り、俺とハルカはそこを後にする。

元々の目的地のエルフの森へと俺たちは向かう。影も形も見えない世界樹を探しながら、森の中を彷徨った。





「森しかないな」


「そうですね。モンスターの気配も全然しません」


「あぁ。いたとしてもGやFのモンスターだったな。意図的に間引きされている?」


「どうでしょう……戦闘の跡が全くないのでわかりませんね」


「そうだな」


ハルカと森を彷徨って2時間ほど、モンスターの気配は少なく、遭遇したとしても、ゴブリンやスライムといった、弱いモンスターだった。

1匹だけCランクモンスターのストライプディアーを見かけたが、それっきりだ。

俺の考えでは、エルフがモンスターの間引きや狩りをしているのではと思ったが、そうだとしても剣の傷跡や、地面が荒れていたりなどのことは一切なかった。


「このままエルフの森を抜けてしまうのではないか?」


「エルフの森の先には何があるんですか?」


「確か、迷宮都市の【ラビリス】というところだった気がする」


「迷宮、ですか?」


「ダンジョンのことらしい。その都市の周りにはダンジョンが多数あり、その都市の中にもダンジョンがあるらしい」


「ダンジョンの都市、ですか」


「闘技場などもあって、実力派の冒険者が多いらしい。見学してみたいと思っている」


「私も見てみたいですね。どんな戦い方をしているかなどを勉強したいです」


「うむ。良いことだ。世界樹を見られなかったら、そのまま迷宮都市を探しに行こうか」


「はい!」


そのまま森の中を進んでいると、不意に人の気配がする。

俺は咄嗟に右手を低くあげ、ハルカに指示を出す。


(気配遮断だ)


俺は隠密と危険察知を発動し、周りの木々へと神経を研ぎ澄ませる。


俺もハルカも人の気配も、一向に動く気配がない。


「いるのはわかっている!!姿を現せ!」


一瞬の静寂、風切り音がした瞬間、俺のフードを掠めるように矢が飛んできて、横の地面へと突き刺さった。


「そこか!ウィンドカッター!」


俺は手を前に出し、矢が飛んできた方向へと魔法を放つ。何かが木から木へと移動した姿が見えた


「ハルカ」


「はい!3分咲き、アイスマシンガン!」


拳ほどの大きさもある氷の塊が、ハルカの周りに出現し、目にも留まらぬ早さで射出される。

木々を砕き、何者かが逃げた方向へと撃ち続ける。


「ハルカ、もういい」


アイスマシンガンを止めさせ、少し遠くで膝をついている人物に近づく


「なぜ俺たちを狙った。お前は何者だ」


「……」


「お前を捕まえるために手荒になってしまったが、そちらが危害を加えなければ、こちらも危害を加えるつもりはない」


俺もハルカも武器を構えてはいるが、それはこの人物が矢を射ってきたからであり、敵対行動ともいえることをしたからだ。


「お前らは、何をしにこの森へ来た」


動きを見せることなく数分、目の前の人物が初めて口を開いた。

声の高さからして男だろうか、俺はその男の質問に正直に答える。


「エルフの里を、世界樹を見に来た」


「世界樹?あんな大きいもの、見あたらないだろう?本当にこの森にあると思っているのか?この森に来たのは無駄足だったな。帰った方がいい」


そう言ってその男は立ち上がり、俺たちに背を向けたまま歩きだす。


「確かにあんな途方もなく大きな木が見えないとは不思議だ……お前、世界樹が大きいことを知っているな?エルフの里に行ったことがあるな?」


その言葉に反応し、立ち止まった。


「あ、あぁ。そ、そうだ。エルフの国に行ったことがあ、ある」


「よければエルフの森へと案内してはくれないか?礼はする」


「い、いや、場所がわからなくてな」


「大体の場所でもいい」


「……そう、だな、確か、あっちのほうだ」


その男はそう言い、指をさした。

こういう怪しい人間は、嘘をつく。指をさされた方向とは逆に歩き始めると


「あ!ちっ!くそ!」


男は俺たちに向き直り、矢を番い、弓を引きしぼる。

俺はその動きを月読予測し、素早く動いた。手首に手刀をくらわせ、その衝撃に驚いて放たれた矢を掴み、へし折る。

足を払い体勢を崩し、うつ伏せに倒し、肩の関節をきめた。


「い、いててて!いてぇ!いてぇよ!」


「言っただろう。そちらが危害を加えなければ、こちらも加えないと、つまり、そちらが危害を加えれば、こちらも危害を加える」


「く、くそぉ!」


一連の動きで、男がしていたフードがとれて、端正な顔立ちが見える。気になったのは、耳だ


「その耳、お前はエルフか?」


「ちっ、だったらなんだよ!捕まえるのか!」


「今捕まえている最中だ」


「うるせぇ!くそ、殺せ!」


「殺しはしない。エルフの里がどこにあるか聞きたいのだ」


「仲間を売るくらいなら、今ここで死んでやる!」


「紹介状も持っている」


「絶対に教えてやら、ね、え?紹介状?」


「あぁ」


「う、嘘つくな!誰が人間なんかに紹介状を書いたっていうんだ!」


「そのことについても書いてあるらしい。長に書いてもらったぞ」


「ほ、本当かよ」


「あぁ本当だ。今見せてやろう」


俺はそのエルフの男の拘束を解き、皮袋の中から1枚の木の板を取り出す。


「こ、これはまさか世界樹の……」


男は板の裏を見て、少し触った後、文面がある方を見ずに俺に返した。


「紹介状は本物のようだ……俺が読むわけにはいかない。これは……くそ、わかった。案内する。ついてこい」


「おぉ、本当か、それはありがたい」


男は悪態をつきながらも歩きだす。俺とハルカはその後ろをただついていくだけだったが、やっと見ることができる世界樹に心を躍らせている。


ハルナが勧めた本物の世界樹、エルフが信仰する母神ともいえるものだ。

きっと、あの里にあった世界樹よりも立派なのだろう。


ハルナやハナとの思い出や里を思い出しながら、男エルフの背中を追い続けた。

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