骸骨の成果


「ところで、お前さんたちは行くところがあったんじゃないのか?」


休憩中に、ハンゾウが俺とハルカにそう尋ねてきた。

ハンゾウの洞窟に泊まり込んで早2週間、俺たちの滞在が長く、何かの用があるならばそちらへ行ってもいいという、心配をしてくれた。


「いや、当てもない旅だ。時間はたくさんある。それより、ハンゾウは俺たちが長く泊まっていて、迷惑ではないか?」


「はっ!そんなことないさ。ハルカちゃんは洗濯手伝ってくれるし、お前さんも獲物をとってきてくれるだろう?ありがたいことだ」


ハンゾウとは、寝食や狩りなどもやり、すぐに仲良くなった。ハルカとも元の世界が同じだったこともあり、意気投合してよくしてくれている。


「でも、お前さんたち、ここにずっといるわけじゃねぇだろ?絶景が見たいとかなんとか」


「あぁ。それが一番の目的だ。だが、強くなるのも必要なことだ」


「まぁ、力はあって悪いもんじゃないからな。それにしても、お前さんらは飲み込みが早い。極みとまではいかないが、それでも相当ものになってるはずだ」


「ハンゾウさんの教え方がうまいんですよ!」


「褒められると背中が痒くなっちまうな……さ、稽古の続きだ」


「あぁ。よろしく頼む」


剣を持ち、構える。

俺の戦い方は、剣だけではない。憤怒の戦斧や、怠惰の多節鞭、そして短刀と、様々だ。

ハンゾウの話では、どれか1つに絞った方がいいと言われた。俺としてはやはり月光剣として使うのが一番だが、それぞれの武器にそれぞれの特徴があり、戦う相手によってこちらも戦い方を変えようと思う。

特徴というのは、例えば憤怒の戦斧だとする。俺の背丈ほどもある大斧で、リーチもあり、憤怒の戦斧にすると、力や破壊力が増して、力押しで勝ちやすくなる。

そして怠惰の多節鞭、これは憤怒と逆で防御力が増すようだ。その他に魔力操作で多節鞭を伸ばしながら操ることができ、相手と距離を保ちながら戦え、魔法などで遠くからでも戦える。

この2つの種類の武器を使ってる間でも、憤怒や怠惰の魔力は使えるので双方の良いところを使えるが、同時に魔力操作するのが困難だ。


「結局、剣か?」


「あぁ。どれも均等に扱えるようになりたいが、やはり俺は元の月光剣が一番好きなんだ」


「好き、か。いいな。武器を大切にすれば、それだけ応えてくれる。剣っつっても、斧も鞭も大切にしてるんだろう?」


「あぁ。形はどうであれ、繋がりだ」


「繋がり……いい言葉だ。それじゃ、いくぞ?」


「胸を借りる」


ハンゾウは、腰にさしている忍者刀と、クナイという投擲武器を構える。

俺も改めて剣を構え、動きを見定める。


今日も激しい剣戟の音が、洞窟の中に響き渡る





「いやぁ、2人とも強くなったよ」


「ありがとう」


「ありがとうございます!」


囲炉裏というものを囲み、晩飯を食べながら話す。


「2人とも、ステータスはどうなってる?」


「俺たちのステータスは」



名前:ムルト

種族:月の骸ムーン・スケルトン


ランク:B

レベル:16/70 →17

HP7800/7800 →7920

MP2710/2710 →3200


固有スキル

月読

凶剛骨

下位召喚

下位使役

魔力操作

変温

味覚

欲器(憤怒・怠惰)

火事場の馬鹿力



スキル

剣技Lv4→10

拳闘術Lv3→8

戦斧術Lv2→6

鞭術Lv6 new

灼熱魔法Lv3

風魔法Lv6

水魔法Lv5

暗黒魔法Lv8

危険察知Lv10

打撃耐性Lv5→7

隠密Lv10

見切りLv6 new

身体強化Lv8

不意打ちLv8

カウンターLv4→6


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者、欲深き者、罪の器



名前:ハルカ

種族:魔人族


レベル:70/200 →73

HP10040/10040 →10560

MP12100/12100(+730) →14850


固有スキル

鑑定眼

氷獄の姫アイス・プリンセス

魔力操作

アイテムボックス

自動操縦オートパイロット

美食の徳(堅固)

限界突破



スキル

杖術Lv8→10

拳闘術Lv3→拳闘士Lv2

経験値UPLv10

火魔法Lv3→4

聖天魔法Lv1

氷雪魔法Lv10

闇魔法Lv5

打撃耐性Lv6

状態異常耐性Lv8

遊泳Lv7

気配遮断Lv2→5

潜水Lv5

突進Lv5→10

邪眼Lv1

家事Lv5 new

身体強化Lv5

器用Lv2→5

飛行制御Lv3 new

脚力Lv3 new

怪力Lv5 new



称号

転生者、転生神の加護、忌子、勇者、超人、限界を超えし者、救世主



こうなっている。ご飯にする獲物などを狩っていたらレベルも上がった。何よりハンゾウに稽古をつけてもらって戦闘スキルは中々スキルレベルがアップしているのではないだろうか。


「ハルカちゃんはやっぱりすごいな」


「えへへ……美食のスキルのおかげですよ」


何よりすごいのはハルカだ。飲み込みの良さから、戦闘スキルは大幅に上がっており、美食のスキルのおかげで、食べたもののスキルを吸収することができている。鳥や猪や熊などを狩って食べていたので、それに関するスキルが増えたりレベルアップしている。


「ハンゾウさんの節制の美徳は、どういった得があるんですか?」


「う〜ん、俺のは地味でな、何も食べなくても長く生活できたり、忍術……魔法を使う時のMPが極端に少なくなったり、か」


「極端に?」


「あぁ。例えば……影分身の術」


ハンゾウは手を様々な形に合わせた後、その魔法を発動させた。目の前のハンゾウが3人になる。


「こ、これが忍法ですかっ!」


「あぁ。って言っても、元々は煙玉使ったり」

「早く動いたりして、分身してるように見せてたんだが」

「こっちに来てから、本当に分身できるようになった」


3人のハンゾウが、それぞれそう喋った。


「す、すごいです……それで、MPはどれほど消費するんですか?」


「1人あたり10MPで」

「1週間以上は持つ。今は1MPだが」

「それでも1日は持つよ」


ボフン、と煙りを放ちながら2人のハンゾウが消えた。


「しかも思考も目も共有できて、それぞれが自由に動ける。他にも火遁とか水遁もMPをほとんど消費しないで使える」


「節制、恐るべしですねっ」


「あぁ。長く動けるってのは、それだけで武器だ」


「すごいな」


「ムルトの大罪スキルも強いんだろ?」


「あぁ。憤怒は力の増強、怠惰は防御の増強、どちらも上手く扱えば、デメリットはない」


「デメリットはない。か、不安定なようだが」


「完璧に使いこなせているわけではない。憤怒と怠惰は、1人ではないのだ」


「1人ではない。か」


「あぁ。色々な者が、入り混じっている」


「1つでも危険なのに、それを2つ持てるのは、その胸についてる宝玉のおかげか」


「あぁ。元々は憤怒のみを体に宿していたが、この器を譲り受けてから、憤怒と怠惰は安定しているよ」


「大罪ってのは七つあるんだろ?それをムルトが2つ、普通じゃありえないことだ」


「そうかもしれないな。たまたま2つ手に入れられたんだ」


「ハルカちゃんも暴食を持ってたし、その、強欲ってやつに襲われたんだろ?それにお前の仮面からも、大罪スキルと同じく、嫌な、不穏なものを感じる」


「たまたま、だ」


「たまたま?本当にそう思うか?俺は、

お前に集まっている・・・・・・ように感じる」


「だが、大罪は残り5つ、他の者が持っている」


「お前が憤怒と怠惰、強欲のやつが暴食を持っているんだろう?お前と同じくスケルトンが」


「……」


「そのスケルトンは、お前と真逆、人に害をなしている。いや、本当は」


「わかっている」


俺は話の腰を折った。ハンゾウの言いたいことはわかっている。

エルトと俺は真逆ではなく、本当は同じ・・なのかもしれない。聖国で感じた黒い心、あれは殺戮衝動だった。


「だが、俺はやつとは違う」


「……あぁ。違う。そうだ。すまん」


ハンゾウは俺に頭を下げた。


「いや、気にしないでくれ、俺も少し強く言ってしまった。すまない……俺も所詮モンスター、人に害をなすはずの者だ」


「だがお前は自分がある。目的がある。立派な人間だと思うぞ」


「ははは、ありがとう。さて、俺は月を見てから寝るとするよ」


「あ、あぁ。俺は明日の分の薪を少し割ってから寝る。また明日」


「あぁ、明日も頼む」


「あ、えと、私はお先におやすみしますね」


俺は洞窟の入り口に立ち、月を見上げた。


(やはり、モンスターは、モンスターでしかないのだろうか)


青く光る月は、何も答えない。

静寂に響く、ざわざわとした木の葉の音だけが、あたりを包んでいた。

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