骸骨と高み


「いきなり頼まれて驚いたが、2人とも中々筋がいいじゃないか」


「ははは、筋はないがな」


「うむ。そうなんだがな、日に日に良くなっているぞ。組手をしてみようか、いつも通りにな」


ハンゾウはそう言って洞窟の奥へと進んでいく。俺とハルカもその後ろについて行き、奥にある少し広めの部屋に辿り着く。


なぜ俺たちがハンゾウと組手をすることになっているか、というのは1週間ほど、俺たちがハンゾウのステータスを見せてもらった日まで遡る。





「ハンゾウ、折り入って頼みがある」


「ん?いきなりなんだ。言ってみてくれ」


「俺を、鍛えてくれ」


頭を下げ、ハンゾウにそう頼んだ。


「ふむ……見た所、ムルト殿は私に勝らずとも劣らず、私に教えを請うほどの弱さだとは思わないが」


「美徳スキルと鑑定眼を持つハンゾウならば、俺がどういう力を持っているかも理解していると思う」


「あぁ。危険だが、しっかりと力を制御できているようだ。その力をうまく使えば、敵なしではないのか?」


「その通りかもしれない。だが、その力ばかりに頼るわけにはいかない。今の俺には、技術が必要だ」


「技術、か」


「ハンゾウの知っている技術を俺に教えてはくれないか?」


ハンゾウは腕を組み、しばし目を瞑り、また開いた。


「いいだろう……俺の技術、教えられるものは教えよう。だが俺は、何かを教える。というのがどうも下手らしくてな、実戦が多いかもしれないが、いいか?」


「あぁ!是非とも頼む!」


「よし、必死についてこい!」


「あぁ!」


俺とハンゾウは固い握手をし、その日から寝食を共にしながらハンゾウに鍛えてもらっている。





それから1週間、いろいろな技術を教えてもらった。ハルカも積極的に参加し、共に鍛えてもらっている。


「よし、こい」


ハンゾウは俺と少し距離をとり、手首をクイクイと動かし、俺に攻撃の隙を与えてくれている。


ハンゾウとの組手は、魔法や武器、身体強化無しの純粋な腕力と技を駆使して戦うものだ。


俺は姿勢を低くし走り込んでいく。

下から顎めがけて拳を叩き込む。


ハンゾウはそれを手の甲で受け、手首を捻り、俺の右腕を掴み、足払いをし、その勢いを利用し俺を横へと投げ飛ばす。


投げ飛ばされた俺は体を捻り、腕をバネにして跳ね回りながらも体勢を整える。

ハンゾウは間髪入れずに俺に迫っており、頭蓋骨へと膝が迫っていた。

俺はそれを両手のひらで受ける。後ろへと倒れこむ勢いを利用し、蹴り上げたが、その蹴りも楽々とハンゾウは力を流し、無傷だ。


「ふむ。いい動きと判断だ」


「これもハンゾウのおかげさ」


「よし、少し難易度を上げてみようか」


「あぁ」


「ムルト殿、俺の攻撃を全て受け流してみろ」


「わかった」


ハンゾウはすぐに距離を詰め、乱打を叩き込む。俺はその乱打を手首を捻ったり肘を使ったりなどして力を受け流し、その受け流した力を利用し攻撃に転じる。


ハンゾウはそれをさらに流すという技をしているようだ。


「掌底」


「ふんっ!」


ハンゾウがそう言うと、俺は流した力を腕に伝うようにし、足を開き、腰を捻り掌底をハンゾウに叩き込む。


ハンゾウはそれを両腕で受け、体を捻った。


「よし、いい攻撃だ。組手はこれにて終了!」


「ふぅ……ありがとう」


「次はハルカさんだ」


「はい!よろしくお願いします!」


俺はハルカと交代し、部屋の隅でその戦いを見守る。

ハルカも俺と同じようにハンゾウの攻撃を受け流したり、逆に受け流されたりしている。

ハルカはこの組手で自動操縦オートパイロットを使っていない。全てハルカの技術、腕力だ。

それでもハルカは覚えがよく、良い動きをしている。


それから少し時間が経った後、ハルカの組手も終了した。


「ありがとうございました!」


「あぁ。2人ともお疲れ、休憩の後、いつもの基礎をやる」


「はい!」


「あぁ」


小一時間ほど休憩を取り、次の鍛錬へと入る。

この1週間、俺とハルカがハンゾウから学んでいるのは体術だ。俺はそれに追加して剣術も教えてもらっている。


体術、ハルカはハンゾウの動きをカラテやアイキドーと言っていたが、厳密には違うらしい。

俺とハルカはその体術の型や体の使い方を教えてもらっている。

ハンゾウが言っていたように、体で覚えている感じだ。


「ハルカさんは体幹、ムルト殿は俺と剣の稽古だ」


「あぁ」


ここで鍛錬のメニューが変わってくる。

最初のうちは俺も体幹ということをやっていたのだが、鍛える筋肉がないのと、何時間やっても疲労することがなく、すぐに体幹はやめることとなった。

体のバランスはもともと悪いこともなく、体の使い方を教え込まれることとなった。


そしてそれはすぐに終わり、剣の使い方へとなっていく。


「ムルト殿は独学で剣の修行を?」


「あぁ。基本的には独学、よく人間の動きを見て日々研究している」


「ふむ。いろんな人間の動きを見て、か」


「あぁ」


「ムルト殿の剣には、見たところがない」


「己?」


「あぁ。簡単に言えば、動きが固まっていない。と言った具合だろうか」


「型が多すぎる。ということか?」


「そんなところだ。攻め方が多い印象だな」


「攻め方が多いのは良いことではないか?」


「悪いことではないかもしれないが、良いとも言えないな。攻め方が多くてどれも中途半端だ。決め手に欠けている」


「なるほど」


「ということで、今日はムルト殿が一番動きやすいと思う型を見つけてみよう」


「わかった」


「よし、自由に打ち込んでみろ」


「いくぞっ!」


そして今日もハンゾウとの鍛錬は続く。

俺はこの機会にさらに強くならなければない。自分のために、ハルカのために。

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