骸骨と煌めきの森


「日蝕、綺麗ですね」


ハルカが、横にいる俺に向かってそう言った。


「日本にもあったのか?」


「はい。ありましたけど、何十年に一度、何百年に一度とか、あと、月蝕っていうのもありましたよ」


「ほう。月か」


「月、ですけど、月ではないらしいんですよ」


「ぬ?それはまたおかしな話だ」


「はい。おかしいんです」


屈託のない笑みをこぼしながら、ハルカが言った。

俺とハルカはクリスマスパーティを終え、宿へと戻ってきている。

時間はまだ深夜1時ほどだ。2人でベッドに入り、窓の外の月を眺めている。


「ムルト様の体は、冷たいですね」


「そうらしい。ハルカは、あたたかい」


俺は布の一枚も羽織っていないハルカの肩を触り、抱き寄せる。


「これが、人か」


ハルカの柔らかい体を感じ、温かさを感じ、人を感じる。


「はい……ずっと、こうしていたいです」


ハルカは嫌がることなく、俺の胸の中でそう呟いた。段々と、ハルカの顔が俺の体の中へと埋もれていく。


「終わり、か」


よくよく見れば、ハルカは俺の肋骨の中に入っている。肩を抱いている腕は、白く細い骨に変わり、頰のあった場所には穴が空いていた。


夢のひと時は、終わってしまった。


「私は、どんなムルト様でも好きですよ」


「俺も、ハルカが好きだ」


「えへへ、ありがとうございます」


俺とハルカは1つのベッドで、肌と骨を重ね、眠りについた。





いつものように、小鳥の声と、優しい朝日が部屋の中に入ってくる。俺は窓辺の椅子に座り、静かにハルカが起きるのを待っている。

ハルカは静かに目を覚まし、こう言った。


「何も……なかった」


「おはようハルカ、どうかしたか?」


「おはようございますムルト様。どうかしたかっといいますか、どうもしなかったといいますか……」


「む?おかしな話だな」


「はい……おかしな話です」


ハルカはゆっくりとベッドから起き出し、下着や衣服を身に纏い始める。


「ムルト様、何もしてませんよね?」


「む?何もしてないぞ」


「ですよねぇ〜……」


ハルカが何を求めているのかわからない。

そういえば昨日からおかしかった。

「同じベッドで寝ましょう」「裸で」

「抱き合いましょう」

と、いろいろなことを言っていたが、なんだったのだろうか。

今はすでに骨の姿に戻っている。

屋敷から去る時に見たリーナの姿を思い出してしまう。

なんと悲しそうな目だっただろうか。それでも俺は、ハルカを選んだ。


「さて、今日はどうするか」


「そうですねぇ。この街は特に見るものもないんですよね?」


「あぁ。だからもう出て行ってもいいと思ってな」


「それは私もそう思いますが、それでしたら次はどこへ行きましょうか?」


「ふむ。そこも合わせて、聞き込みと行こうではないか」


「そうですね」


時間もなかなかよく、聞き込みを行うには良い時間帯だ。早速着替え、仮面を装着し、外へと出る。

食料などを買い込みながら、話を聞いて回る。

近くに観光名所となっているところはないか、美しい景色が見えるところはどこか、といろんな人物に聞いていった。


「みなさん、同じことを言いますね」


「あぁ。だが、きっとそこが有名なのだろう。俺も行きたいと思っていたしな」


「でも、見れる人は全然いないって言ってましたね」


「幻惑魔法というものは初めて聞いた」


「きっと闇と光の複合魔法だと思います」


「そんなことができるものなのか?」


エルフ・・・は精霊魔法を使うと言われていますから、全属性使えるのでしょう」


「モンタナもそんなことを言っていた気がする」


「それでは、決まりですね!」


「あぁ。次に向かうのは、エルフの森だ」


遠くの空を見ながら、かつて立ち寄ったエルフの集落でもらった木札を固く握り締めた。

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