骸骨と孤高の男
「それにしても、すっかり雪がなくなってしまいましたね」
「あぁ。そのようだな」
俺たちは雪の街、シュネシュロスを出て南へと向かっている。辺りは雪ばかりだったが、南へ向かうほどに雪は減っていき、今ではほとんど見なくなった。
「まだ肌寒いですけどね」
「それでも、暖かくはなってきているのだろう?」
「そうですね」
ハルカはカイロ代わりに俺の骨を使っていたが、今は全て俺に返している。
シュネシュロスを出てから、だんだんと暖かくなっていき、今ではポカポカ陽気というものらしい。
「それにしても、どこにあるんでしょうね、エルフの森というのは」
「世界樹が見えると思うのだが、そのようなものは見当たらないな」
そうなのだ。エルフの森には世界樹があるはずなのだが、それが見えない。
モンタナのところで見た世界樹の子供は、それはそれは大きかった。本物の世界樹はあの木よりさらに巨大なのだろう。見落とすことなどないと思うのだが。
(そういえば、モンタナ達の世界樹も向かっている時は気がつかなかったな……)
それでもひたすら南に向かって歩いていく。
「止まれハルカ」
「はい」
森の真ん中で立ち止まる。俺とハルカの呼吸以外に、風の音、そして微かに揺れる木の葉の音がする。
「気のせいか?」
「いえ、私も感じました」
ハルカがそう答える。誰かが近くにいる。そして今も俺たちのことを見ているのだ。
「姿を現せ!」
俺は大きな声で叫んだが、帰ってくるのは木々の笑い声だけだ。
「あちらから視線を感じます」
ハルカはその一点を見つめる。
すると、頭上から声がかけられた。
「よく私の視線に気がつきましたね。いやはや、すごいことだ」
木の上を見上げると、黒い服で全身を固めている男が現れた。頭巾を被っているようで、どんな顔をしているかはわからない。
「何の用だ?」
俺がそう問いかけると、男は首をかしげた。
「私の家の近くに大きな力を感じたものですから、参ったのですが……どうやら見当違いのようです」
「む?」
「いや、というのがですね、モンスターの気配を感じまして、完成はしていないが、なんとも強大な、そんな力をね。そしてそれはあなたから感じます」
そう言うと男は木の上から降りてきて、俺へと近づいてくる。
頭巾を脱ぐと、眉目秀麗な青年の顔があった。
「申し遅れました。私の名はハンゾウ、あなたの名前は?」
「私はムルト、こちらはハルカだ」
「ムルトとハルカ……狐口面、ハルカさん、ですか」
ハンゾウは顎に手を当てて何かを考えているようだ。改めて俺に向き直り
「私は頭巾を脱いで顔を見せたんです。ムルトさんも仮面を脱いで顔を見せるのが筋、というものではありませんか?」
「筋?」
「あぁ、そうするのが当たり前、ではないでしょうか?」
「ふむ……確かにそうだが。私は顔に大怪我をしていてな、見るに堪えないものなんだ。ここは許してはくれないか?」
「ダメです」
「私からもお願いします。ムルト様は、その、顔が……」
そんな押し問答をしていると、ハンゾウが腰の剣に手をかける。
俺とハルカもすかさず武器に手をかけて構えた。
「あなたがモンスターだということはわかっています。そしてとても理知的だ。きっと物事の分別がつくのでしょう。仮面を脱げばあなたを襲わないと約束いたしましょう」
ハンゾウにはすでに俺の正体がわかっているらしい。仮面を脱がなければ攻撃を仕掛けてくるというのは本気なのだろう。
俺とハルカ、2人で相手をすれば負けることはないかもしれない。だが、致命傷を受けるかもしれない。俺は意を決して仮面とフードを脱ぐことにした。
「……わかった。約束を破るなよ」
「わかっていますよ」
俺はそう言い仮面とフードに手をかける。ハンゾウはそれを見て、武器にかけていた手を放した。
俺は仮面とフードをとり、頭蓋骨の顔を見せた。
ハンゾウはそれを見て、驚きもせず、納得したような顔を見せる。何度も頷き、俺を観察しているようだ。
「胸を見せてもらっても?」
「……あぁ」
ハンゾウが見たいのは、胸にある宝玉のことだろう。俺が骨人族かどうかを見るために。
「ふむ……2つ、いや3つか?ありがとう」
ハンゾウはまた考えるそぶりをし、背中を見せて歩き出す。
「とりあえず時間も遅いですし、私の家に案内しよう」
謎の男、ハンゾウはそう言った。俺たちは、その後ろをついていくことを選んだ。
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