骸骨は雪山へ

白く染まった地面を歩き続け、やっと洞窟を見つけた。

天気はあまり良くなく、暗い雲が空を覆っていた。


「吹雪がきそうですね」


「吹雪、とはなんだ?ところでこの白いのはなんなんだ?」


色々あって気にしてはいなかったが、俺を抱えてハルカが歩いているところは、地面ではない。

白い何かが積もっているようで、ギュッ、ギュッと音を立てながら歩いている。


「これは雪というもので、雨が冷えてできたものなんですよ」


「雨が冷えると氷になるのではないのか?」


「そうなんですけど……説明するのは難しいですね」


そう言ってる間に、ひとまず洞窟に入った。


「ちょっと待っててくださいね」


ハルカは洞窟の中に俺を横たわらせた。

雑にではなく、ポーチを枕のようにし、別に寒くはないのだがローブを身体にかけてくれた。完全に白骨死体だ。


「お待たせしました!これが雪です!」


ハルカが持ってきたのは、白い、綿のようなもの、少し濡れているようだ。


「ハルカ、俺の手に乗せてくれないか?」


「はい!失礼します」


ローブをめくり、ハルカが雪を俺の手の平に乗せる。俺は変温のスキルを発動させて、温度を感じれるようにした。


「ほぉ、冷たいな」


「はい!雪は一粒一粒が小さな氷なんです!」


「無数の氷でできている。と」


「はい!」


またもや雪に夢中になっていて気にしなかったが、ここは恐ろしく寒いようだ。


「ハルカ、ここは寒いだろう」


「そう、ですね。少し」


「俺が寒いんだ。ハルカはもっと寒いだろう。俺の肋骨を3本外してくれ」


「?は、はい。失礼しますね」


ハルカは俺の肋骨を外した。

前にやったように、2本の骨は洞窟の入り口付近に置かせて、危険察知でモンスターを見つけられるように、そしてもう1本には、火魔法を応用して、魔力で温めた。


「どうだ?暖かいか?」


「はい。あったかいです。でも、私はこっちのほうが」


ハルカは「失礼します」と言って、俺の頭蓋骨を外し、抱きしめた


「こ、こっちのほうが、ムルト様と一緒に、近くにいれるので、う、嬉し、あったかいです!」


ハルカは暖まったからか、顔を赤くしていた。いや、寒すぎて赤くなっているのだろうか?俺はもう少しだけ温度を上げた。


「あったかいですね……」


「俺に温度はよくわからない。だがハルカ、無理はするな。何かあればすぐに言うんだ」


「はい。ありがとうございます」


「あぁ」


アイテムボックスから薪をだし、ハルカがそれに着火をする。

前までバーナーのような火を出していたのに、今では少し大きめなだけで、ちゃんとした種火だ。


「そういえば、ハルカは魔法が普通に使えるようになったのか?」


「普通に、ではありませんが、少しだけならコントロールできるようになりました」


「蓮華で、か」


「はい」


ハルカの蓮華は、0分咲きから満分咲きまであり、下から段々と威力を増していくらしい。0分咲きでは前と同じで超級魔法ほどの魔法になってしまうが、一分咲きにすればかなり魔力を絞れるようだ。

満分咲きでどこまで出せるかはあまり試していないらしい。


「聖天魔法の回復とか防御ならいいんですけど、攻撃魔法はやっぱり怖いので」


「いい判断だ。未知の力はあまり使わないほうがいい」


ハルカと共に、パチパチと音を立てる焚き火を見つめていると、外から大きな風の音が聞こえる。


「吹雪いてきましたね」


「これが、吹雪か」


ハルカは俺の頭蓋骨を抱きしめたまま、洞窟の出口へと向かう。洞窟の外を見ると大きな音を立てながら、雪と思われるものが降っているようだ。暗い雲が相変わらず空を覆っている。吹雪のせいで見通しは悪くなっているようだ。


「猛吹雪かはわかりませんが、あまり強くないですね」


「これより強いものがあるのか?」


「はい。多分……洞窟の出入り口は塞いじゃいますね」


そう言うと、ハルカは蓮華を三分咲きにし、氷雪魔法を使ったようだ。洞窟の目の前にある雪を操り、洞窟の入り口を密閉する。

埋めた後に上の方だけ、空気の出入りができるように穴を開けた。


「これで大丈夫ですかね……今は何時くらいでしょうか」


「そうだな、大体午後6時ほどだろうか」


「ムルト様の体内時計は正確ですからね。そろそろ晩御飯にしましょうか」


「そうだな。食材はあるのか?」


「はい。まだ残ってます」


「後どれくらいもつ?」


「そう、ですね……3日分でしょうか」


「俺が食べなかったら?」


「……1週間は大丈夫かと」


「そうか、なら俺の晩御飯は作らなくていいぞ。後どれくらいここにいるかわからないんだ。食料は大切だからな」


「ですが、ムルト様はご飯をいつも楽しみにしてるじゃないですか」


「俺は食べなくても死にはしないが、ハルカはそうではないだろう?体感だが、あと2.3日もすれば体が動くようになる。それまで食料を確保できるかわからないからな」


「……わかりました」


納得はしていないようだが、ハルカは俺の言うことを聞いてくれた。

1人分の食材を出し、調理していく、ハルカは完成した料理を1人でパクパクと食べる。時折、膝に挟んでいる俺をチラチラ見ているが、俺は別に腹は空いていない。

ハルカが倒れるほうが問題なのだ。


「ムルト様、一口だけでも、どうですか?」


「いや、大丈夫だ」


「ですが、なんか、その、1人で食べるのは悪くて……」


「何も悪いことなどない。しっかり食べるんだ。食料が追加で手に入るかはわからないからな」


「でも、その……1人で食べるのは、寂しくて……」


ハルカは目を伏せがちにそう言った。

そういえば、ハルカとは3日ほど離れていたのだ。食事をとっていたとしても、ワイトと共に、ワイトは食事を摂らないので、ずっと1人で食事をしていたのだろう。


寂しいという気持ちはよくわかる。

2人でいることには変わらないが、今ハルカは独りで食事を摂っているのだ


「そうか、うむ。わかった。一緒にご飯を食べよう」


「!……はい!!」


ハルカは俺の分をよそおうとしていたが、それを止める。ハルカの分を二口ほど分けてもらった。


外から聞こえる吹雪の音、目の前でパチパチと鳴る焚き火、その音を聞きながら、2人で楽しく食事をとる。離れ離れになっていた間何をしていたか、どんなことをしたか、2人でそれを話し合った。

ハルカは俺と離れても鍛錬を怠らず、俺と合流するための作戦をたてていたらしい。

俺のことが心配でたまらないと言っていた。


話をしていると、時間はすぐに過ぎていった。

吹雪の音は止んでいない。

今日の月は見れそうにもなかった。

俺は今、ハルカに抱きしめられている。

ハルカの世界でいう、カイロ、のようなものらしい。

ハルカが火傷せず、心地よいと思う温度を見極め、調整をする。

ローブを敷き、その上でハルカは横になる。その上からさらにローブを被り、その中に俺の頭蓋骨も入る。

ここは中々寒いらしい、俺は熱を少しだけあげた。


吹雪が止んだのは、朝4時頃だ。

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