初顔合わせ

これは、ムルト達が聖国から脱出した少し先の話。


「ほんっと頭にくるわ!!」


「どうした?ラマよ」


「どうしたもこうしたも、セルシアンを殺した異色の骸骨が聖国に出たのよ!!」


「ほぉ、聖国に……これまたどうしてだ」


「そんなの知らないわよ!」


「で、お前さんがそこまで怒っているということは、取り逃がした。ということか?」


「逃がされたのよ」


ラマは乱暴に席につき、足をテーブルの上に乗せ、腕を組む。まるでセルシアンのように。


「逃がされた?」


「えぇ。言葉を喋るワイトキングにね」


「言葉を……そいつは珍しい」


「ま、そいつの頭蓋骨はかち割ってやったけどね!」


「ほう。ワイトキングを討伐したか、お前さんには造作もないことだとは思うが」


「まぁね。本気を出せばこんなもんよ」


偉そうに語るラマはその時のことを思い出し、笑顔になっていた。

そこへ、隅の席に座っている赤と黒の仮面を被り、腕を組んで、眠っているのか起きているのかわからない男が、声をかけた。


「そいつは本当にスケルトンだったのか?」


「えぇ」


「俺のように骨人族だったのではなく?」


その男は自分の羽織っているローブの前を開け、その下の姿を見せる。一糸纏わぬ、骨が剥き出しにされた身だ。


バチンッ!!


爆発にも似た大きな音、それは鞭だった。

ラマの手からは大きな塊がついた鞭が放たれており、それは赤と黒の仮面をした骨人族へと向かっている。

それは骨人族に到達することなく、先ほどまでラマと話していた老人が先端を掴んでいた。


「あなたが新しく入ったっていう骨人族ね。

骨の体にはうんざりしてるの、私の前ではローブをはだけさせないでちょうだい」


「わかった。注意しておくよ。初めてお会いする。【粉砕骨】コットンという。これからよろしく頼むよ」


「【黒蝶】ラマよ。よろしく、バリオも悪かったわね」


「はっはっは、2人が仲直りしたならよかったよかった」


朗らかに笑っていたが、その顔は真剣そのもの、微塵の油断も隙もない。先ほどラマと話をしていたときでも常に警戒をしていた。


「話を戻すが、そのスケルトンには、俺のような核はなかったのか?」


「あったわ。でも、あれは骨人族じゃないと思うのよね」


「骨人族として断言するが、核を持つスケルトンなどいない」


「……そう、わかったわよ」


言葉ではそう返事したラマだったが、心の内ではあれは確実にスケルトンだと確信している。コットンのいう通り、核のもつスケルトンなど前例がない。ならば本当に骨人族なのかもしれないのだ。ラマは己の勘を信じているが、少しだけ骨人族だと思わなくもない。


「ところで、今日は人が少ないわね」


「別に招集はしていないからなぁ。各々美徳スキル持ちを探しているよ」


「そう。聖国には慈愛の美徳がいるわよ」


「ほう。そうかそうか、それは報告書としてあげてもらえるか?」


「えぇ」


「ついでに、今回聖国を襲ったモンスターの軍団がなんだったのか、もな」


「……」


ラマは鋭い目でバリオを睨んだ。それに怯むことなく、朗らかに、だが目は笑っていないバリオが見つめ返す。

実はラマは、聖国で起きた一件を聖国外には漏らしていないし、王国に報告もしていない。

聖国の情報を王都に漏らすわけにもいかないし、何より聖国の失態を外へ広めることになる。だがそんなことはバリオに関係ない。

今は大変な時期、何がいつどこで起こるかわからない。

バリオはその人脈を使って国内外へ自分の部下を向かわせ、情報を持ち帰らせていた。


「チッ、わかったわよ」


「はっはっは、よろしく頼むよ」


「はいはい」


ラマはひらひらと手を振り、部屋を後にする。円卓のある部屋に残ったのは、バリオとコットンだけだ。


「……異色のスケルトンの仕業だと思うかい?」


「そうであって、そうではない」


「その心は?」


「異色のスケルトンは2体いる。心優しい私の友と、悪しき力を持つ悪夢、聖国を襲ったのは悪夢のほうでまず間違いないだろう」


「ふむ。お前さんの友人が敵になりうることは?」


「ない。とは言えない。あいつも生きている。考えがある。だが敵になりうることはきっとないだろう」


「敵になったとして、戦えるか?」


「戦える。だが、それはあいつが道を外していたらだ。無理矢理にでも戦わせるならば、俺はお前達と敵同士になるだろう」


「はっはっはっは!言いよるわい!!

…………お主ら如きが儂に勝てると思っとるんか?」


濃密な殺気。

油断も隙も、きっと敵と認めた者には容赦や優しさの欠片もないだろう。そんな殺気をバリオは放っていた。

コットンは圧倒的な力の差に、驚きと恐怖を隠せない。が、すぐに自分の武器を部屋の半分ほどの大きさまで巨大化させて言った。


「勝てるとは思っていないさ、足止めは必ずするがな」


負けじとそう言い放つ。少しの間、2人は睨み合ったが、ニカッとバリオが笑い、その殺気を霧散させた。

コットンはそれにホッとしながら武器を仕舞う。


「命令に囚われず、信念を持ってるのはいいことだ。いいか、自分の見たもの、自分が感じたものを信じろ」


指を二本立てながら、バリオはそう言った。


「あぁ」


「ま!俺はこの国を裏切る気はないがな!

俺はこの国を信じてる。ここの国民を、守るために生きている」


「そうか」


「あぁ」


和解のような形にはなったが、将来的には敵になるかもしれない。

それでもコットンはムルトのためになるならば、敵対することも止むを得ないと思っている。そして、ムルトが敵になったとしても、自らの手で友を葬ろうと思っている


(ムルト、信じているぞ)


少し前に再開した、首だけの友人を思い出しながら、コットンは窓の外を見つめていた。

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