もう1つの戦い5/5

一瞬の静寂、2人とも何が起きたのかわからないといったふうに、固まっていた。

ゴンが、悲痛な声をあげた。


「……すまない」


「ティ、ティッキー、な、んで……」


マンモスの腹部に穴が空いている。

ゴンはその中から手を引き抜いた。引き抜いた手には、赤黒い塊、マンモスのものだと思われる心臓が握られている。串が数本刺さっていた。


「なんでなんでなんでなんでぇぇぇぇ!!!!」


マンモスは癇癪を起こしたように大きな声で怒鳴り、両腕を広げ、その手を打ち鳴らそうとした。その両手が重なるのは、ちょうどワイトの頭の位置だった


「あぁああぁあぁぁぁぁあああ!!!!」


大砲が撃たれたのかと思うほどの衝撃、甲高い音が辺りを包む。


「まダ、死ぬワケにはいかないノデな」


ワイトの声が聞こえたのは、マンモスの頭上、最期の力を振り絞り見上げた空には、恐ろしい顔の頭蓋骨が宙を舞っていた。

マンモスには、それが自分を迎えに来た死神に見えた。


空を見上げるために顔をあげたマンモスは、そのまま後ろに倒れる。拘束から解放されたワイトの体は前へと力なく倒れこみ、ワイトの頭は地面に当たる前に、ゴンがキャッチした。


「無茶しやがるぜ」


「お前コソ」


2人で笑い合う顔は、友人同士の者だったが、ゴンはすぐに顔を元に戻し、話を切り出す。


「ワイトキング、時間がない。この森から逃げろ」


「お前が部下を連レて出張って来タコトからソウだとは思ったガ、それはできない」


「なんでだ!」


「その話ワ移動しなガラしよう。私の体に頭をつけてくれ。そしてハルカオ解放してクレ」


「わかった」


ゴンは倒れ込んでからピクリとも動かないワイトの体に、ワイトの頭蓋骨を嵌めた。コキコキと音が鳴った後、ワイトは両手を使い、体を起こした。ゴンはその間に、両手で串を操作し、ハルカに繰り出した攻撃を解除する。

中からは、無傷のハルカが。混乱したような顔で辺りを見渡す。

先ほどまでの騒音が止んだこと、自分を閉じ込めていた魔法が解除され、ゴンは攻撃の意思を感じさせず、自分の串をコートに仕舞い、ワイトはマンモスの体に手をつき魔法を発動させている。


「え、えっと……これはどういう?」


「私ガしテいるのワ、アンデッドの作成だな。恨みを持ってアンデッド化し、襲わレテは2度手間だ。今の内ニ魔法オかけ、誓約を組み込んでオカネばな」


「あ、あなたは?」


「武器の回収だ。俺はこの串を主に使うからな。それと、旅支度」


ゴンは、腰につけていた巾着から、どこにそんなものが入っていたのか、というほどの量の荷物を出す。ゴンの腰巾着は、アイテムボックスになっていることがわかる。


「え、えぇと、あなた」


「ティ、いや、ゴンって呼んでくれ、ただのゴンだ」


「はい。ゴンさんは、なぜこのようなことを?」


「まぁ色々あるが、ここを離れてから話をしよう。ワイトキング、この荷物を持っていけ」


「ゴン、そレワまだ仕舞ってオクのだ。私達はコレカラ聖国に向かわなケレばならない」


「なぜだ?お前が行くメリットなんぞどこにもないが」


「我が友が、今聖国にイルのだ」


「友……まさか、仮面をしてるっていうスケルトンか?」


「知ってるんですか!」


ハルカはその話に食いついた。

だが、ゴンは神妙な面持ちで続きを話す。


「あァ。だが、そのスケルトンは月光教に捕まって、殺されたと聞いた。お前らの仲間はもういないだろう」


「ムルトがそのヨウなヘマはおかさないと思ウガ……」


「ムルト様は必ず生きていますよ!!」


「確認はしてこよう。そしたらすぐに戻ってくる」


「あぁ。ダガ、聖国には先ほどボーン・スケイルドラゴン、そシてその背に乗っていた3体が暴レテいるノデワないか?」


「かもしれないな。まぁ、聖国には五暴聖が3人残ってる。その内の1人はラマだ。怪我はしても、死にはしないはずだ」


「その自信の根拠はなんですか?」


ここまでの強さを持つゴンがそこまで言うのだ。ハルカは疑問を口にする。


「ラマは恐ろしく強い。俺よりも数段に、そして、聖国の聖職者の多くは光魔法や聖魔法を使える。アンデッド相手に遅れはとらないだろう」


「もしモ、があるだロウ。急いで聖国に向カオウ」


「あぁ、わかったよ。ラマに見つかる前に逃げるんだぞ?」


「……逃げるとイッテモ、どこに?」


「ここじゃない何処かに、だ。今回の俺の仕事が失敗に終わったと分かれば、今度はラマがお前を殺しにくる。さすがのお前でも勝てない」


「だからココを去レと?」


「あぁ」


「ここ以外ニ、私の居場所ワない」


「旅をすればいい」


「旅、か」


「この森じゃない森を見たり、アンデッド以外のモンスターを見たり、新鮮なものがたくさんあるはずだ」


「行くあてはアルノだろウか」


「旅の準備は俺がしてきた。逃げる時にまとめて渡す」


「あぁ」


「あの、ワイトさん」


「何だ、ハルカ」


「よければ、私達と一緒に旅をしませんか?」


「……いいのか?」


「はい!ムルト様もきっと喜びます」


「黄金の泉を共に見よウト、話していたな」


「あそこはすっごく綺麗で、すっごく美味しかったです!ワイトさんも味がわかるようになるかも!!」


「それは、楽しミダ」


「はい!ムルト様を迎えに行ったら話をして、一緒に見にいきましょう!」


「あぁ。必ず」


「話はもういいか?そろそろ気を引き締めてくれ」


3人は、ワイトの召喚した馬で走りながら、そんな話をしていた。

まだ見ぬ景色に、ワイトは心を躍らせて。

新しい旅の仲間に、ハルカは気持ちを弾ませて。

この2人がラマに見つかればどうなるか、ゴンは肝を冷やしながら。


3人は、聖国から響く喧騒を耳にしながら、壊れた門を目の当たりにした。

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