【書籍発売中】スケルトンは月を見た

もう1つの戦い4/5

ワイトが融合させているのは、腕だけではなくなった。腕、足、体、それぞれの部位を融合させ、巨大な姿になっていく。それはまるで、エルトのようだった。

「ま、ま、まけ、負け、ない」

マンモスはその変貌を見ても、驚きはせず、それでもなお、ワイトを押し続ける。

(長くワ持タない……早くナントカせネば……)

ワイトはマンモスの手と絡めていた骨の手をバラし、素早く距離をとった。

「に、に、逃さない、よ」

マンモスもすぐさまその手を離し、ワイトへと迫るべく、身を低くし、突進の構えをとった。ワイトはそれが狙いだ。

「来イ！！」

挑発でもするかのように、ワイトは両手を広げ、マンモスを待ち構える。見れば、ワイトは元の体になっている。周りには骨の残骸があるが、マンモスはMPが切れて使えなくなったのだろう。と判断した。

「し、死ね！」

身を低くし、腕を組み、肘をワイトに向け走り出す。戦車とも言えるほどの大きな巨体が、物凄い速さで突っ込んでくる

「ふっ！」

ワイトは膝をつき、近くの残骸に手を伸ばし、魔力を流した。その瞬間、マンモスの左右にあった骨の残骸が、先ほどと同じような巨大な手になった。高速で迫るマンモスを、その両手で捕まえる。

「な、な、なんだ、こ、これ」

大きな両手でがっちりと捕まえられたマンモスは動けない。ワイトは、マンモスを捕らえた骨を固定し立ち上がる。ゆっくりとマンモスに近づいていき、腰を低く、そして右足を引き、力の乗った拳をマンモスへと叩きんだ。

「ふんっ！」

「がふっ」

ワイトの腕が砕ける。が、その砕けた骨がマンモスの顔を傷つけたようで、顔が真っ赤に染まっていた。

「なんトイう硬さダ……」

ワイトは、ムルト程ではないが骨を丈夫にするスキルを持っている。しかもワイトはSランク。Sランクの攻撃をまともに受けても頭が砕けず、逆に腕を砕かれた。マンモスはそれだけでも十分強かった。

「ふぅ。トりあエずは終ワリ、か」

マンモスは、今の一撃で意識を奪われたようだ。ワイトは、融合していた骨と魂を解放する。骨と骨を繋いでいき、元の状態にしなければ、融合をしていたモンスター達は元に戻らない。骨を繋げるだけで元の動く骨に戻るのもおかしいのだが、ワイトにはそれができる。

「そうダ、ソの前ニ」

忘れていたわけではないのだが、ワイトはハルカの方を見やる。ハルカの姿が見えない。

見えるのは、ワイトも良く知る男、ゴン

そしてその目の前にある、銀色の卵のようなもの、その一本一本が串で、全てが内側を向いているのは明らかだった

「ま、まさカ、ハルカ！！」

ワイトは、我が友に預けられた大切なものを守れなかった不甲斐なさに、自分を責めた。

ゴンの目は、恐ろしく冷めている。一仕事を終え、次のことに移らなければならない。そんな顔だ。

「んんんんんんぅがぁあぁぁあぁ！！！！」

怪獣のような雄叫びが、ワイトの後ろから聞こえる。振り向いて、ソレはすぐに目に入る。大きく膨れた筋肉が、マンモスの先ほどの姿よりも、さらに巨大にしていた。

「があぁあぁぁあ」

マンモスは、白目を剥き、言葉にならない音だけを吐き出している。

どうやら、意識はなく、本能だけで動いているようだ。身体強化が発動し、その力、速さは格段に上昇しているだろう。

目にも留まらぬ速さでワイトを羽交い締めにする。

大人が子供を捕まえているように見える。両手をワイトの脇に入れ、拘束した

(クッ、トドメをサすべきダった)

ワイトにそれはできなかった。彼の優しさ故に、約束故に。

(だが、こレは)

マンモスの力は、さほど強くなかった。万力のように固く締まっているのだが、ワイトの骨が粉砕するほどの力ではない。意識がない状態で力をこめているので、思ったよりも力が入っていないのだろう。ワイトは体に力を込め、どうにか脱出できないか試みる。

(クッ、早く、早クハルカの助けニ)

もがくワイトをよそに、その怪獣は言葉を紡ぐ。

「ティィッキーィィィィ！！！！」

2人の視線の先、白髪に赤い髪の混じっている初老の男、ティッキーが、こちらに顔を向け、すぐに走り出した。

「よくやった！」

その顔は、今すべきことを理解している顔。

串を指に挟み、すぐにワイトに接近し、その腹部に腕を捻り入れた。

★

ハルカとゴンの力は、拮抗していた。

ハルカが自由なら、ゴンは堅実

ハルカの四方八方から迫り来る攻撃を、ゴンはあの手この手で防いでいく。

ゴンは力も、技もハルカを上回っている。だがハルカはゴンに敗れず、その力と技を逃しながら立ち回り、致命の一撃は避けている。

「ちょこまかとっ！！」

「避けなければ痛いじゃないですか！！」

「あぁ！ちげぇねぇ！」

蓮華と串がぶつかり、甲高い音を上げた。

(蓮華を串一本で防がれるだなんて、ショックですね……)

そう、先程からゴンは、人差し指と中指に挟んだ串一本でハルカの猛攻を受け止めているのだ。すきあらば左手の串で顔を狙われる

「ふっ！」

真下から打ち上げられる蹴りも、今では避けられるようになった。

ハルカが早く気づけるから？違う。格段にゴンのスピードが落ちてきている。

「なんのつもりですか？」

「何がだ？」

「先ほどから、殺意のない攻撃ばかりが……」

「そうか？俺はしっかりお嬢さんを殺そうとしているぞ！」

「嘘ですね」

「どうかな？」

不敵な笑みを浮かべ、両手を広げる。先ほどと同じように串が広がり、その先端全てをハルカへと向けている。

「時間がないようなんでな、そろそろ終わらせようと思う。あっちも決着がつきそうだ」

ゴンは、チラリとワイトとマンモスの戦いを見る。マンモスが身を低くし、ワイトに突進をしようとしている。身体強化はしていないようだが、あのタックルを喰らえば、人の形をしたものがどうなるかは知っている。

ゴンはすぐにハルカを始末しようとした。

「少しだけ、待っててくれよ……ー手中葬串ー」

ゴンは、横に並べた串を全本射出した。

「なっ！」

先ほどとは違い、一本一本ではやなく、その全てがハルカを襲った。

避けれる隙間、逃げれる距離、打ち落とせる数などではない。ハルカは成すすべもなくその技に敗れそうだった。

「ー氷結の……」

「遅いぜ」

数千本という針が、まるで何者かも寄せ付けないよう、針を外側に向け、ぎっしりと詰まっていく

「ー針閃本ー」

その速さは、まさに閃光、軌跡ともいえるものを描き、ハルカをその中に閉じ込め、勝利を確信する

「ティィッキィィィィー！！！！」

マンモスの、爆音とも言えるような声が聞こえた。ゴンはすぐに声のする方向へ顔を向けると、マンモスがワイトを羽交い絞めにしていた。

「よくやった！」

ゴンはすぐにコートから串を取り出し、指の間に挟み、走り出し、ワイトの腹部にその拳を捻り込んだ。

「がはっ」

赤い鮮血が、地に流れた。