もう1つの戦い3/5
ゴンが、仙人掌とも言える、串の球体の中から出てくる。
「痛いのは、あまり好きじゃないんだ」
そう言いながら、手を横に広げる。
すると、その動きに連動するかのように、ドーム状の形をしていた、串で出来た仙人掌が、切っ先をハルカに向けながら、横に広がっていく。
「私も、痛いのは苦手ですよ」
ハルカはそう笑いながら言い放つ。ゴンはその言葉を聞いて、微かに笑ったが、すぐに仕事人の顔に戻った。互いに顔を見あって、次にどう動くかを考える。
(自動操縦でも、さすがにあの数は避けきれませんね……)
避けずとも、ハルカに手はあるのだろうが、それしてしまえば、ワイト同様、聖国に向かった時、MP切れを起こしてしまうだろう。
(体術でなんとかするしか……ありませんかね……)
ハルカは考える。蓮華な魔力を纏わせながら、三分咲きから、一分咲きにする。
そして、ゴンへ向かって駆けた。
「いいなぁ、諦めないってのは、大事なことだ」
ゴンは手を挙げ、狙いを定める。
「だが、諦めなければいけない状況ってのは、絶対にある」
そう言いながら、手を振り下ろす。
「それが、今だ」
無数の串が、ハルカに向かって射出された。端から1本ずつ、等間隔で射出される
「一分咲きーアイスプレートー」
ハルカが唯一使える最上級魔法である。
氷雪魔法。
一分咲きでMPを節約しつつ、氷の板を作る。厚さ5cm程もある氷のプレートが、ゴンの串を受け止める。それでも、2本目、3本目がハルカへ向かってくる。
幸いにも、全本が一斉にハルカを襲うわけではなく、一定の間隔で1本ずつ射出される。
ハルカはそれをアイスプレートを使いながら止め、蓮華でも撃ち落とし、ゴンへと肉薄する。
「んっ!」
力を込め、蓮華でゴンの側頭部を狙う。ゴンは避けることをせず、それを数十本もの串の塊で受けた。
「中々筋はいい。が、俺の方が上だな」
ゴンはそう言って、ハルカの腹を蹴り上げた。
「かはっ」
体勢が崩れ、頭が下がってきたところに、続けざまに、横から顎へと掌底を放たれ、脳を揺らしてしまう。ゴンはまた腹を蹴飛ばし、ハルカは後方へと倒れこむように吹き飛ばされた。
(あっ、うっ。これは、脳震盪……?)
ハルカの目には、ゴンが3人に見え、世界の全てがゆっくりに見えていた。ゆっくりと立ち上がり、ゴンへ向かって一歩踏み出す。
一歩踏み出したはずなのに、目の前には地面。土の味がする。一瞬の出来事だった。
「脳を揺らされてるんだ。数分はまともに歩けねぇだろう」
ゴンの声が、近いような、遠いような、ハルカの耳に届く。
(自分ではまともに歩けない……自分では……ね)
ハルカは真っ直ぐに立ち上がる。
「立つことはできても、満足に武器を振るうことはできないだろう」
やれやれ、とでも言いたげなゴンがいる。
ハルカは目を閉じ、自分のスキルを再確認し、本来の使い方を思い出す。これならば、力を入れなくても、動ける。と
「ー
蓮華を握り締め、改めて身体強化を施し、魔力を纏い、ゴンへと肉薄する。
「なっ」
ゴンは、ハルカがまともに歩けるとも、武器を振れるとも思っておらず、
同じようにゴンの側頭部を狙われたが、これまた同じように、串の塊で防ぐ。
「なんでそこまで動けるんだ」
ゴンがそう問いかけても、ハルカはすぐに答えず、ゴンの側頭部を守っている串の塊に右足のつま先を引っ掛け、右足を折り、縮こまる。
左膝がゴンの顔面めがけ繰り出されるが、側頭部と同じように串の塊で止められてしまう。
ハルカは蓮華を手放し、ゴンの串を支えとし、逆さまの状態でゴンの腹部へと拳を数発叩き込んだ
通常ならば、ありえない挙動。ゴンはそれに対応しきれず、攻撃を受け、数歩下がってしまう。ハルカはそれに合わせ、地面に落ちる前に蓮華を取り、体を転がすようにして距離をとる。
「氷獄の姫さんは、体を"自由"に"動かせる"から自動、と言っていましたが、その説明には、まだ足りないものがあるんです」
ハルカは姿勢を正し、ゴンに向き直って続ける
「
ハルカの言う通り、自動操縦は、考えるだけで体が動く。右足を出す、と考えれば右足が出て、左足を出す、と考えれば左足が出て、歩くことができる。
さらにすごいのは、あの木のあの高さまで登りたい、と思えば、最適解を探し、自動でその高さまで登ることができるのだ。もっとも、これができるのは美徳を持っているハルカだからこそ、なのだが。
「私はあなたを倒して、ワイトさんに助太刀します!」
「はっはっは、面白い。面白くなってきたな。言われずともな!!」
再び2人は、互いの力をぶつけ合う。
★
「な、な、な、なんで、なんで、ち、力、が、い、一緒、なの」
今マンモスとワイトは、互いに手を組みながら、力比べをしている。
マンモスの壁のような手を握っているのは、これまた、壁のような骨で
「まだマダ増やすコトワできるゾ」
先ほど、ワイトが腕を開き、広げていた魔力は、下位使役の魔法だ。
今ワイト達がいるのは、屍人の森でも、GやFランクのモンスターが多い場所、ワイトはそれらのモンスターを使役するため、魔力を広げていた。そしてその魔法で使役した下位のスケルトンやワイトを集め、自分の腕と融合していた。
無数の骨が絡み合い、1つの巨大な手となっている。それが2つ、マンモスの両手と絡み合っている。
「ぬ、ぬ、んんんんんん!!!!」
マンモスが力を込め、ワイトを押す。ワイトは地面を削りながら、その圧倒的なパワーに押し負けてしまう。
(ぐっ、まダこれホドまでの力ガあるカ……)
正直なところ、ワイトはこれ以上、下位使役を使って自分を強化することができなかった。
その理由は、下位使役し、融合しているモンスターの数にある。
機械的に動くスケルトンであっても、モンスター、生き物の1つであり、魂がある。ワイトにも魂があり、ワイトの中ではワイト以外のモンスターの魂が、無数に入り乱れている。これ以上は自分の魂と他のモンスターとの魂が混ざり合い、自分を見失ってしまうかもしれないのだ。
(だガ、ここデ負けルわけにワ……)
ワイトは、聖国で待っているであろう、初めて出来たモンスターの友人を思い出し、決意を固めた。
さらに多くのスケルトン達と、融合をする。
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