もう1つの戦い2/5


先に動いたのは、マンモスだ。

その巨体からは想像もできないようなスピード、聖国からの爆発音に、ハルカ、ワイト、ゴンの3人は、一瞬反応してしまった。

それに反応しなかったのはマンモスのみだった。


マンモスにとって聖国は、遊び場だ。

好きな女と、子供と、大人と好きなことをして遊べる。国がなくなれば遊び場がなくなってしまうし、悲しむだろう。だが、それだけ。マンモスは今、自分が最も好意を寄せている相手に受けた命令を、上司と共に取り組んでいる。

今集中すべきは目の前の敵のみ、マンモスはワイトが、聖国から響く爆発音に一瞬気を取られたのを見た瞬間、マンモスは何も考えずワイトへ飛びかかっていた。


「あ、あ、あた、あたま」


マンモスは、プレス機のような巨大な両手でワイトの頭を潰そうとする。

爆発音に気を取られたワイトは、その攻撃にも驚いていた。


(アの巨体デ、コノ速さカ。油断はできぬな)


それでも、ワイトにとってその攻撃は、避けれないほどのものでもなかった。

自分の頭を潰すために左右から迫る壁のような手、ワイトはそれをしゃがむことで避ける。


「ぺ、ぺ、ペシャンコ」


ワイトは、頭の上で起こった爆発音、それがマンモスの両手が、自分の頭を潰そうとしたところで、手の平と手の平が合わさったことで起きたのだと理解する。


(なんといウ、力ダ)


マンモスも、ワイトがそれを避けたことを理解する。打ち合わせた手の平を組み、それをさらに地面に向かって打ち付けた。


ワイトはその動きを予想し、それを避けることに成功している。横に飛び避け、マンモスとの距離をとる。マンモスが腕をあげると、ワイトが先ほどまでいた場所には、小さなクレーターができていた。

マンモスはそのクレーターの中にワイトがいないことを確認すると、横を向き、ワイトを確認する。


「な、な、な、なんで、し、死なない」


「ハハは、私はモウ死んデイルよ」


ワイトは立ち上がり、そんなことを言っているが、内心気が気ではなかった。


(あノ速さト、コノ巨人の如き力で、身体強化無し・・か)


そう、マンモスはまだ身体強化を使っていない。そもそも、マンモスにはMPも魔力もほとんどない。身体強化を使えなくもないが、それは短い間しか使えない。そして、身体強化を使わなくても、今までなんとかしてきていた。


アンデッドでも、ワイトは魔術師の端くれ、相手の魔力の保有量、どんな魔法を使うかは大体わかる。

そしてワイトは考える。

マンモスに勝てるだけの力は持っている。だが、ここで使えば聖国に向かう時、MPが足りるかがわからない。聖国には、自分でも恐怖するほどの化け物が向かっていたし、五暴聖もいる。ここで如何にしてMPを節約しマンモスを倒すか、考える。


(フむ。これは中々骨ガ折れソウだ)


その考えに、ワイトは自嘲する。


(言い得て妙だ。私ガコンなにも、他の者ノ心配をスルとは)


ワイトには勝算がある。

万一にも、本気を出せばマンモスは倒せる。

ワイトは、もう1人の友を見る。


「本当に、骨ガ折れるヨ」


白髪に赤い髪が混じった初老の男、ゴンだ。

ゴンは今、ハルカと戦っている。

ゴンの戦い方をワイトは知っている。

だが、ゴンの今の戦い方には少々違和感がある。ワイトはそれを見て、疑惑を確信へと変える。


「フム……サァ、やるとするカ」


ワイトは両腕を広げ、魔力を広げる。

マンモスはその様子を見て、足の拘束具を取り外した。





「始まったか」


聖国から聞こえた爆発音に気を取られた瞬間、マンモスが動き出した。ゴンはそれに気づき、すぐに意識を聖国から戻した。


「お嬢さんは、本当に・・・誘拐されていない。ということでいいのだな?」


「はい」


「そう言え、と言われたのではないのか?」


「はい」


「ふむ。わかった」


「お心遣い感謝します。が、私はワイトさんと共に聖国へ急がないといけません。手加減はしませんよ」


ハルカは、先ほどゴンが助け舟を出したことに気づいていた。だが、ワイトを残しムルトに合流しようとは思っていなかった。

ハルカから見ても、マンモスとゴンは強い。

ハルカはこの2日間、ワイトと模擬戦をしており、切り札も見せてもらっていた。

ワイトの強さはわかっている。だが、この2人を同時に相手にすれば、骨が折れるどころではすまないだろう。ハルカは、ワイトと2人でムルトと合流するため、ここへ残り、少しでも力になろうと考えていたのだ。


「そうか、手加減は苦手なんだが……行くぞ」


ゴンは走り出す。マンモスに比べれば遅いが、それでも一般人に比べれば数段に早かった。ハルカはそれを目で追う。

ゴンの腕が動く。両手の指に挟んでいる合計6本の串をハルカに向かって投擲したようだ。


ハルカは自分に向かって飛んでくる串を、自動操縦でひらりと交わす


ー自動操縦は、”自由”に”動ける”から、自動なのよー


ハルカは前、氷獄の姫に言われた言葉を思い出す。

ハルカはイメージをした。


(別に、氷獄の姫を使っていなくても、自由に動ける)


ハルカはゴンが投擲してきた串を交わしながら飛ぶ、ゴンの串を踏み台にして


「なにっ」


ゴンはその姿を見て驚いてしまう。

ゴンの串は、敵を刺すために鋭く作られ、また、遠くに投げて距離を稼げるよう、大量に持ち運べるよう、軽量化されているのだ。

出店などで売られている串焼きの串よりは少し重い程度だろうか、それでも、人が1人乗るには軽すぎる。


ハルカはその串の上に乗り、鳥の羽根のように宙を舞った。


「ちっ」


ハルカはそのまま、身体強化をし、魔力を纏わせた蓮華でゴンへと殴りかかる。

ゴンはいつの間にか両手に出していた串で、その攻撃を受け止めた。


「ぬぐっ」


真上から真下へと向かって突き抜ける攻撃に、ゴンは固まってしまう。両足で踏ん張らなければ、体勢を崩してしまう。


ハルカはその一撃を加えた後、体を前に回転させながらゴンの真後ろへと着地し、蓮華を前に出す。


「三分咲き、ーファイアボールー!」


ハルカは、火の下級魔法、ファイアボールを発動する。

ハルカの蓮華は三分咲き、ファイアボールは上級魔法ほどの威力となる。通常ならば拳ほどの大きさのファイアボールだが、ハルカの放ったファイアボールはスイカのような大きさをしていた。


大きな炎がゴンへと着弾する。小さな爆発を起こし、ゴンはさらに巻き込まれてしまう。


「やった……?」


ハルカも、自分の魔法の威力には自信がある。それに加え、真後ろからの攻撃、先ほどした攻撃で、ゴンはその場から動けなかったはず、ハルカは勝ちを確信していた。が、油断はしない


「ふっ……なかなかの才能だ。恐ろしい」


爆炎の中から聞こえたのは、ゴンの落ち着いた声。


「ど、どうやって」


爆炎が晴れた場所には、銀の塊があった。

よく見れば、その1つ1つがゴンの使っていた串だということがわかる。


串が1本1本、意思を持ったかのように動き、銀の塊が開く。中からは無傷のゴンが出てくる。


「俺じゃなければ大怪我していたかもな。ま、俺みたいなことができるやつは確かにいるんだが」


ゴンは思い出すかのように虚空を見上げている。かつて所属していた組織で、今所属している組織でも、自分のトップに立っている女性を思い出して。


「少しは手加減してくれよな、お嬢さん」


ゴンはそう言って不敵に笑う。


暗殺者として所属していた組織で、トップ3

暗殺者を辞めた後で入っている五暴聖ではトップ2


ゴンは、その戦い方から、仲間内からはこう呼ばれている。


血の仙人掌


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