骸骨と語る

「ここハ、私がコノ森の中で一番気ニ入っているとコロだ」


彼に案内され来たのは、開けた場所。

広くはなく、草原のような場所が円形に広がっていて、その周りを木々が包み込んでいる


「綺麗な場所だな」


「ワカルか?コノ、広くもナク、狭くもない感ジが」


「あぁ。休憩する場所としてはもってこいだな」


「あぁ。もう夜ダ、ここで眠ルといい」


「そうさせてもらおう」


俺とハルカはテキパキとテントと寝袋を完成させる。

綺麗な草のカーペットを汚さぬよう、焚き火は行わず、ライトを出す。


「初メテ見る魔法ダ」


「生活魔法というものだ。使えないのか?」


「うむ。私ガ使えるノハ暗黒魔法のみだ」


「そうなのか」


「……良ければ、他ノ魔法も見セテはクレぬか?」


「あぁ。良いとも」


ハルカが夕食を作っている間、俺は色々な魔法を彼に見せた。

それは生活魔法に始まり、水と風、灼熱魔法は危ないということで、使うのは控えた。

風魔法で空を飛んで見せると、大変驚いていた。


「私モ空を飛んでミタイな」


「飛べるぞ」


俺は彼の手を握り、風魔法で包み込む。

そして2人で共に宙を舞った。

高度を上げ、森を見渡せるほどの高さまで上がる。


「ほぉ……コレが、世界、か」


「あぁ。この森は、広いな」


見渡すと、森のみが広がっている。森は綺麗な円の形をしていた。遠くには、城のようなものや、小さい街、ここへ来る途中に見かけた湖まで見えた。


「美しいな」


「美シイ?」


「綺麗、ということだ、あの月を見てどう思う?」


空に浮かぶ月を指差し、彼に聞いた。


「良いモのだ」


「それが、美しい、ということだ」


「美シイ、美しい、か、わかっタ。この森は、美しいダロう?」


「あぁ。本当に美しい」


2人で森と月を眺めながら、周りを見渡す。雲ひとつない空に浮かぶ月が、緑の森を青白く照らす。森はそれに応えるように、ざわざわと揺れ、光り輝いている。


「ムルト様ー!ワイト様ー!ご飯の支度ができましたよー!」


下からハルカが大きな声で呼んでいた。


「行こう、食事だ」


「食事?」


2人でハルカの元へ戻り、折りたたみ式のテーブルを広げる。俺とハルカは地べたへ座り、ハルカがよそってくれる。


「今日は野菜のスープと、ホイコーローを作ってみました」


「ホイコーロー?ハルカの世界の食事か?」


「はい!この野菜が私の世界のキャベツに似ていたので買いました!調味料もありましたし、お肉はオークとボアのものですが、きっと大丈夫だと思います!」


「うむ。いただきます」


「いただきます」


ハルカと手を合わせ、食材に感謝をする。

俺は風魔法で胃袋を作り、スプーンで野菜とご飯を口へと運ぶ


(このソースが肉と野菜に絡み、旨味を引き出している。程よい甘みが野菜から溢れ、肉を引き立たせている。このソースはご飯にも合ってとてもうまい。この食事の肝はソース、ということだな)


「どうですか?ムルト様」


「あぁ。とても美味い。ありがとう、ハルカ」


「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」


首を傾け、恥ずかしいのか、笑顔で頭をかいている。


「ムルト、その食事、トイうもの、私モもらえヌか?」


「あぁ。食べるといい」


俺はスプーンに乗せ、それを彼の口の中へと運ぶ。彼は咀嚼をしたが、これといって反応はない。彼の体から落ちるご飯を風魔法で受け止め、巾着袋の中へと入れる。


「味ワ、しナいのだな」


「あぁ。私達には舌がないからな」


「だがムルトハ嬉しそうに食ベテイなかったか?」


「あぁ。私はな……」


黄金の泉の話をした。

その他にも、コットンや、今まで出会ってきた人間や、俺がここまでどうやって来たかの旅の話までしてしまった


「すまない、夢中になってしまった」


「いや、大変良イ話ダ。それにしても、黄金の泉、か。美しい、のだろう?」


「あぁ。とても美しい。ここを抜けたら、共に行こう」


「あぁ。是非頼ム」


ハルカは俺たちが話している中、食器や食べカスを片付けてくれていた。テントの中に寝袋も敷いていた。


その後は長かった。

俺とハルカの話、そして彼の話、月を見上げながら、涼しい風と、風と木々が織りなす自然の音楽を聴きながら、互いの話をした。

夜も更け、ハルカは先に寝てしまったが、

睡眠が不要な俺と彼は朝までずっと話をしていた。


彼は、この森で産まれたのだとか。

ポップしたのか、人間からモンスターになったのかはわからない、とのことだった。

この森で起きて、自分はワイトというモンスターだということしかわからず、ひたすらに過ごしてきた。

人間や、自分よりも強そうなモンスターからは逃げて、隠れてやり過ごしたという。

一歩もこの森から出たことはなく、人間に近づき始めたのも、その言語や行動に興味があったからだ。


「ワイトからワイトキングになったということは、やはり」


「あぁ。仲間オ殺してイタ」


レベル1のワイトが、何もせずにワイトキングにまで進化することはない。そしてこの森にはアンデッド族しか生息しておらず、レベル1のワイトが倒せるのは、同じワイトか、スケルトンといったところだろう。


「軽蔑スルか?」


「生きるためだ。仕方がない。俺でもそうしていただろう」


「生キルため、か。なぁ、ムルト、私たちは、生きて・・・いるのダロうか」


改めて、ゆっくりと空を見上げ、何もないところを見つめてそう言った。

俺はその問いにすぐに答えることはできなかった。


「俺たちは、生きているさ。死んでいたとしても、俺は生きたい」


「私たちノ体は、ハルカのように血も肉モナい。首がトレても死ぬことがない」


「頭を砕かれれば死ぬだろう?」


「あぁ。確カニ、体と意識はなクナルだろう。ダが、それを本当に死んダと言エルのか?私達は、元に戻った・・・・・だけなのではないか?」


彼は、悲しむように自分の手足を見つけ目ながら、そう言った。


「私タチは死体なのだ。人間から動く死体リビングデッドと呼ばれる存在。元々死ンデいる私タチが、生きテイル、などおかしいとはオモわないか?」


「それでも、俺は生きる。考え、行動し、自分のしたいことをやる。活力というものがある」


「活力、カ、私ハ……」


彼は俺を見て


「私モ、人間と共に生きテみタイなぁ……」


「できるさ、俺ができるんだ。死者も生者も関係ない。その気持ちがあれば、きっと共存できるさ、俺とハルカみたいに」


「そうダナ。私モ、生きる・・・活力が湧いたよ」


「あぁ。生きよう。死ぬまでな」


「ハハハ、そうだな、死ぬマデ生きよう」


その晩は、朝日が昇るまで2人で語り尽くした。同じ、自我を持つアンデッド族モンスターと話すのは初めてだ。色々共通するものがあった。


俺は1人で生きているわけではない。仲間も友もいる。きっと俺を快く思わない者もいるだろう。だがそれは乗り越えられるものだ。仲間と、友と、どんな壁もきっと乗り越えられる。


「ムルト、今日はお前と出会エテよかっタ」


「あぁ。俺もだ」


微かに昇る朝日が、俺たちの心を晴れさせてくれたように思えた。

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