骸骨と骸の王
そして街に来て2日、特に変わったことはなかった。
食材を買い足し、体を拭き、休んでいただけだった。特に依頼も受けてはおらず、黒剣ー宵闇ーの素振りを行なっていた。
月欠と全く同じ重さと長さだということがわかる。さすがはフッドン、俺がすぐ使用しても違和感がないよう、月欠に合わせてくれたようだ。
装備品や食材を確認し、荷物を全てまとめる。
「よし、それでは向かおうか」
「はい!」
俺たちは来た門とは真逆の門から外へ出る。
ここから5時間ほど歩いたところから、屍人の森に入るらしい。
そして、屍人の森の規模は、半径20kmほどの広さらしい。
俺たちが森に入る場所から北西へ向かうと、聖国ノースブランがあるという。
そこには近づかないよう、気をつけることにした。
休憩を挟みつつ、6時間と少し、屍人の森に差し掛かる。
「む、看板があるぞ」
「この先、屍人の森。簡潔ですね」
「あぁ。そうだな。花畑を探しながら、こちらに抜けていこう」
俺は地図を広げ、指で行き先を説明する。
屍人の森は、森の中央にいけばいくほど、出てくるモンスターが強くなるらしい。
Sランクのエルダーリッチや、ワイトキングも発見されているらしい。
俺たちは中央部分とノースブランの近くを避け、大きく周りながら東へ抜けることにした。
「はい!」
「よし、行くぞ」
腰の宵闇に手をかけながら、ゆっくりと歩いていく。
★
森の中は、案外綺麗だった。
アンデッドが多いという話から、沼や、腐ったものが多いと思っていたが、そういうわけでもなく、草木は青々と茂り、青い空もしっかりと見えている。
木々の匂いや、心地の良い風が吹いている。
「けっこう、綺麗な場所ですね」
「あぁ。思っていた感じとは全く違う」
まだ森に入ってすぐだからなのか、モンスターにも遭遇していない。鳥や、動物の鳴き声も聞こえないが、不思議ではないだろう。
「ムルト様!スケルトンです!」
ハルカが大きな声を出す。前方には、普通の白いスケルトンがいた。ランクはG。俺もハルカも苦戦などしない。
スケルトンはこちら気づき、ハルカへと近づいてきた。俺は下位使役を発動し、そのスケルトンに魔法をかける。
スケルトンには「俺たちに攻撃をするな」という命令を出し、解放した。
屍人の森は、俺にとって相性がよかった。
Cランクまでのスケルトンモンスターならば、下位使役を使うことで戦闘を回避することができる。
スケルトンには仲間意識を持っている。
倒すのも嫌なので、大変有り難い。
「ムルト様がいれば安心ですね」
「あぁ。少し、奥に行ってみるか」
俺たちは身を低くし、隠れながら中心の方へ向かっていく。
中心に向かうほど、モンスターのランクも数も増えている。
スケルトンメイジやファイター、ハイスケルトンなどを見かけた。
俺は隠密スキルがLv10に達しているから、見つかることはなかったが、ハルカはそういかず、度々見つかってしまう。俺はその度に下位使役をし、戦闘を避けていた。
「ふむ、花畑らしきところはないな」
「ですね。フォルの大冒険にはもっと詳しい場所はないのですか?」
「うむ。恐らくアンデッドが進入できない所があるのだろう。例えばハルカの使った魔法、聖域に俺が入った時、ダメージを受けていただろう?あのような場所があるはずだ」
「私の魔法のような?そうしたらムルト様は入れないのでは?」
「あ、あぁ。そうかもしれないな……だが、俺がダメージを負う場所、それがきっと花畑のある場所だ。探しやすいだろう?」
「それはそうですが、ムルト様はそれでよろしいのでしょうか?」
「あぁいいさ。ハルカの感想を楽しみにしているよ」
「はい!見つけたらこの目に焼き付けてきますね!」
「そんな危ないこと、しなくていいさ」
ハルカと談笑をしながら、休憩をとる。
少し早めの昼飯を食べていた頃、ガサガサと後ろの茂みが揺れる。
俺とハルカはすぐに武器を構え、迎撃できるようにした。
茂みから現れたのは、一体のスケルトンだった。その瞳には、赤い炎が灯っていた。その瞳から、スケルトンの心を覗けた
『憎イ、憎イ、憎イ、憎イ、憎イ、憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ』
それは、異常なほどまでの生者への憎しみ、そのスケルトンは俺に目もくれず、ハルカへと真っ直ぐ向かっている。
俺はその憎しみに当てられ、動きを止めてしまった。ハルカは俺が下位使役を使うと思っているので、すぐには攻撃をしない。
その瞬間にもスケルトンがハルカへ近づいていく
(ぐっ……)
ハルカが意を決して、メイスを固く握り締めた。その瞬間、スケルトンの動きが止まった。
「ムルト様、ありがとうございます」
俺は憎しみに当てられながらも、ハルカへと手を伸ばしていた。
スケルトンは、動きを止めた後、体を来た方向へと向け、森の中へと帰って行った。
「いや、今のは俺では……」
「コノ先は危ない、引き返シタほうがイイだろう」
木々の間から、紫色のローブを身に纏った何者かが現れる。その体は大変大きく、2m以上は優に越えるだろう。ローブは頭から足まで全てを隠すように羽織っており、顔は見えない。が、俺は直感的にわかった
「ハルカ、人間ではないが、悪い奴でもなさそうだ」
俺は腰の宵闇に手をかけながら言った。悪い者に見えなくとも、警戒を怠ることはない。
「フハハ、警戒するコトは悪いコトではない。私にもワカルぞ。お前は私と同ジだ」
そう言うと、フードをとり、その顔を見せる。予想した通りか、そいつはアンデッド、骸骨だった。
「ジャイアントスケルトン、か?」
「いヤ、私はワイトキングという種族ダ」
「ワイトキング、か」
「お主ハ?」
ワイトキングに問われ、俺は仮面とフードを外し、同じく骸骨の顔を見せる。
「我が名はムルト、
「ふむ。ムルト、よろシクだ」
ワイトキングは右手を伸ばし、握手を求めてくる。俺はその手をすぐにはとらず、固まってしまっていた。
「人間はこうヤッテ友好な関係オ築くのでハナイのか?」
ハルカをチラリと見たようだ。
俺は宵闇にかけていた手を離し、ワイトキングの手を握った。
「すまない。よろしく頼む」
「ハッハ、よろしく頼ム。ここから先ヘハ立ち入らない方ガイイ」
「む?なぜだ?」
「私ト同等、それ以上のモンスターがイル」
「そうなのか、わかった」
このワイトキングが言っているのは、きっとエルダーリッチや、他のワイトキングなどのことを言っているのだろう
「情報感謝する。それでは、私たちはこれで」
「あ、あぁ……良イ旅オ……」
俺たちが引き返すと、ワイトキングは寂しそうに手を振っていた。俺はその気持ちを知っていた。人と関われた喜び、もっと話したい、色々な話をしたい。同じ気持ちを抱いた時がある。
俺は立ち止まり、後ろを振り向いた。
「ムルト様?」
俺はワイトキングの元に戻り、彼を見上げる。
「ム?どうしたノダ」
少し嬉しそうな、そんな声色をしていた。
「できればで良いのだが、この森を案内してはくれないか?」
彼は少し驚いたように口を開けた。
すぐに顎をカタカタと鳴らしながら
「あァ、もちろんだ!私で良けレバ、この森のナカを案内シヨう」
喜んでいるようだった。
俺とハルカは彼に連れられ、森の中を歩く。
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