骸骨とモツ

「で、ムルト様、どこへ行くんですか?屍人の森へはもう行かなくても大丈夫なのでは?」


ハルカが質問をしてくる。

元々、屍人の森へは新しい体を求めて向かっていた。

仲間がいれば、その残骸の在り処を聞き、代わりの骨を手に入れようと思ったのだ。

だが、代わりの骨は洋館で手に入れた。

ならば屍人の森に用はもうないはずだ。と、ハルカは言いたいのだろう。

いい時間ということもあり、休憩を挟むことにした。


「ハルカ、これを見てくれ」


俺は一冊の本を広げる。




この森では、みんな死んで、みんな生きてる

死んでるみんなは生きたみんなを襲うけれど、それも理由があってのこと

死んだみんなが入れないところに、それはある。

青い花、赤い花、その二色の花が、そこを守るように咲き誇る。

誰かそこにいるのかな?誰がそこにいるのかな?

僕はお花畑を見渡しながら、その人を探した。




「これは、フォルの大冒険ですか?」


「あぁ。この森、というのはきっと屍人の森だろう」


「そう、ですかね。アンデッドばかりとは言ってましたが、アンデッド以外のモンスターもいるんですかね?」


「広域型ダンジョンだと言っていたからな。期待はできるだろう。今度はこの花畑というのを見に行きたいと思う」


「ムルト様が仰るのであれば、ついていきます!」


「あぁ。それと、途中に寄りたい場所がある」


休憩を終えた俺とハルカは、スケルトンホースを出し、その上へ跨る。

鞍へ座って手綱を握るのは俺だ。ハルカは俺の前に座っている。俺の肋骨が良い背もたれになると言っていた。


そして、寄りたいと言った場所へつく。

それは、洋館で見た湖だ。

月の光に反射し、青白く大きかった。

屍人の森へ行く途中にある街からは外れているが、街に寄らなくても別に良いだろう。


「大きいですね」


「あぁ。大きいな」


見渡す限りの湖。風が吹いていないので、波紋すら広がっていない。水深は浅く、スネの辺りまでしかない。


「そういえば、風呂に入っていないな」


「体も拭けてませんね……」


ハルカが横を向きながら言い、体の匂いを嗅ぐ。


「よし、水浴びでもするか」


「えっ、こんな広いところでですか?」


「あぁ。だが、俺はローブを脱げないしな……」


「私もムルト様以外に裸を見られるかもしれないのは……」


「どうしたものか」


ハルカも水浴びはしたいようだが、遮蔽物がないことから恥ずかしがっているようだ。


「やはり、街に寄ったほうがいいかもしれないな」


「是非……」


俺たちは街に向かって歩き始める。





「見えてきたな」


早朝、太陽が昇り始めた時に、街が見えてきた。

馬で歩いて5日ほどたったか、夜眠る時間は、休むことなく歩き続けた。ハルカには揺れる馬上で眠ってもらうことになってしまったが、ハルカも風呂や水浴びをしたいということで、少し無茶をした。


フッドンの言うことを信じるのであれば、屍人の森はここから近いらしい。この街で2泊ほどのんびりしてから向かおうと思う。


俺は、ハルカを揺すって起こす。


「ハルカ、ついたぞ」


「むにゃ、んぅ?ムルトしゃま?」


「ハルカは本当に、寝起きはボーッとしているな」


「もうしわけありましぇん……」


目をこすりながらハルカはそう言ったが、まだまだ頭は起きていないらしい。


俺は街の近くの森で馬を止め、馬鎧を外し、ハルカのアイテムボックスの中に収納し、スケルトホースを消した。

スケルトホースに乗ったまま街へ入れば、馬小屋などに馬を連れて行くことになってしまう。そうなると、馬鎧を外せず、その馬小屋の者へ任せることになってしまうので、いらぬ手間をかけるより、元より徒歩で来たことにしようということだ。

俺もハルカも馬鎧の着脱は覚えているので、手間ではない。


「ハルカ、歩くぞ」


「ひゃい……」


ハルカは未だ眠いようで、俺のローブに掴まりながら、後ろをとてとてと歩いている。まるで娘のようで、大変愛らしい。


早朝だからだろう。門の警備をしている若者は眠そうだ。


「朝からご苦労。入市税はいくらだ?」


「ん?あぁ、2人で銀貨2枚だ。身分証を出してくれ」


俺は懐から2人分のカードを出す。


「ん、Bランクか。通っていいぞ」


俺は銀貨を払い、ハルカを連れて街の中へと入った。


「まだみんな起きてない時間だ。適当な酒場でも見つけて時間でも潰してくれ」


「わかった。情報感謝する」


若者は手を振って返事をしてくれた。

とりあえず、朝飯を食べれるところにでも行こう。





まだ閉まっていない酒場を見つけた。

店の中は静かで、酔い潰れているものが多かった。

眠っている点で言えば、ハルカも一緒だ。

席に着かせたら腕を組んで机に突っ伏して寝てしまった。


「ほらよ。水だ。もう少しで店を閉めちまうが、酒を飲むわけじゃねぇだろ?」


(そういえば酒は飲んだことがないな)


と思ったが、あいにく胃袋がない。どこで購入すればいいかもわからず、外でものを食べることができなくなっている。


「あぁ。酒は飲まん。ここへは今朝ついたばかりでな、この子の朝ご飯を食べにきた」


「ほう?この娘か。冷めてもいいならもう作ってやるが」


「あぁ。それではこれを頼もう」


俺はメニューの適当なものを指で示し注文をした。店主は「あいよ」といい厨房へ引っ込んでいった。


(確かモンスターの胃袋から作ったんだったか)


俺は胃袋を自作できないかと考えている。留め金をどこにつければいいかは覚えている。だが、胃袋をどのように加工すれば良いかわからない。それに、留め金も持ち合わせてはいない。


(楽しみだった食事がとれないな)


腕を組み、別に良い方法がないかを考えていると、ハルカが目覚める。


「ムルト様、おはようごじゃいましゅ……」


まだまだ寝足りたいようだが、頑張って頭を起こしているようだ。

俺が水を勧めると、ハルカはそれを一生懸命飲んでいる。


「お、起きたのか、さっ、冷めないうちに食いな」


注文したのは、モンスターのモツを煮込んだものに、ご飯を入れたものだ。

湯気が上がっていて、それが今作られたものだと容易にわかる。


「そんじゃ、あんたらがそれを食い終わったら店は閉めちまうからよ。まぁゆっくり食っててくれ」


店主はそういいながら、酔っ払って寝てしまっている客たちの頭を叩きながら起こしていっていた。


「優しい方ですね」


「あぁ」


「ムルト様、ありがとうございます」


「む?何がだ?」


「その、色々です」


「ふむ、そうか、礼には及ばん」


「はい」


ハルカは朝ご飯をゆっくりと食べる。


「ハルカ、その、一口もらってもいいか?」


「全然いいですよ。はい、あ〜ん」


「む?あ〜ん」


俺は仮面を少しずらして、口を開ける。白米とモツ煮が口の中へ入る。


「どうですか?」


「少しヒリヒリするが、この歯応えは中々良いな。美味い」


「そのヒリヒリするのは、辛い、って言うんですよ」


「辛い?」


「はい。からい。です」


「そうか、辛い。か」


「はい」


新しい発見をしつつ、食事の時間は終わる。案の定、噛んだものは体の中に残ってしまったが、それを風魔法で腹の中でクルクルと回し、落とさないようにした。

ものの入っていない巾着へ、その中身を入れ、食事代を払い、その店を後にした。

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