骸骨の馬

そして翌日、ハルカはイメルテと共に買い物に行くことにしたのだが。


「ムルト様も一緒じゃないと嫌です!」


と言われ、頭蓋骨を持ったままギャバンの家を出ようとしたので、さすがに待ったをかけた。


少女が髑髏を持って街中を歩く光景など、目に毒だ。俺は袋にいれてもらうように言い、そうすれば一緒に連れていっても良いと言った。

ハルカは嫌々ながらも、俺を巾着の中に入れ、外が見れるよう穴を開けてもらった。


「まずは鞍ですかね」


「馬を売っているお店はこちらですね」


頭蓋骨のみの状態なので、極力声は出さないようにしている。

機械都市マキナで買い物をするのだが、なかなか面白いものが多い。


ハルカが言うには、ドライヤーや、ストーブ、シャワーヘッドなんてものがある。

機械についてはあまり詳しくないので、知識としてだけ頭にいれている。


イメルテの紹介で、鞍を売っている店にくる。


「いらっしゃい」


青年と思われるドワーフが店番をしていた。


「こんにちわ。鞍は売っていますか?」


「あぁ!あるぜ。馬か?地竜か?」


「馬です」


「それなら……」


青年は、店の中を歩いて、鞍を2つ見つけてくる。


「こっちは、スタンダードなタイプだが、サスペンションがついてる。足腰への負担を減らして、馬上でもリラックスすることができる。こっちは、掘り出し物でな、少々高いが、馬の体型によって、形を変えるマジックアイテムだ」


「ムルト様」


ハルカは小声で俺に語りかける。

一緒についてきて、声を発しはしないが、最終的な判断はしてほしいと頼まれている。


サスペンション、というのがよくはわからないが、良さそうなものではあるようだ。

だが、俺の召喚するスケルトンホースは、個体の大きさが違うことがあるかもしれない。もしかしたら、別に新しい馬を買うかもしれないことを考え、2番目に紹介された鞍にしようと思う。


「右はいくらだ?」


「右はいくらですか?」


俺は小声でハルカに言って、値段を聞く。


「大金貨2枚でどうだ?」


「高いな」


「高いですね」


「マジックアイテムだからな。ダンジョンで手に入れたらしいものだ」


「お値段をまけてくれたりは?」


「いくらなら出せる?」


「大金貨1枚です」


「大金貨1枚と金貨5枚」


「金貨3枚」


「大金貨1枚と金貨4だ」


「買います!」


「はぁ〜。金はもってそうだが……ま、いいだろ」


鞍を買い、店を後にした。

次は、旅に用の携帯食料などを買うのだが、

ハルカのアイテムボックス内では時間が止まり、鮮度や温度が下がることはない。

ハルカは野菜や果物、肉などを買い込む。

金には余裕があるので、余分に買っておく。


「これからはムルト様のご飯も作りますからね!」


「あぁ、ありがたい。もっと味を知ってみたい」


「はい!オムライスを作りますね!」


知らない料理の名前を出されたが、ハルカが作るのだから、きっと美味しいのだろう。

黄金の泉で食べたステーキはとても美味しかった。昨日の晩も。食事というものが、俺の新しい楽しみとなっていた


その後も、ローブやテント、寝巻き袋など、旅に役に立つと思われるものを買い込んだ。


「ムルト様、こちらに入りますか?」


ハルカが見せてきたのは、腰につけるタイプのランタン、だが、まぁまぁ大きい。俺の頭をこちらにいれてはどうか、ということらしい。

確かに、今の巾着では、ハルカが歩くごとに布が擦れ、外を見るための穴の位置が離れていったりしてしてしまった。


「本当は、抱えながら旅をしたいんですけど」


それはダメだ。ハルカが人の骨を持った頭の狂った女だと思われてしまう。

ランタンに頭蓋骨を入れていても、それはそれで不気味だとは思うが、俺の目が青く光ることから、趣味の悪いランタンとして使えるかもしれない。

視界を遮るものもないし、悪くないとは思っている。


「はい!じゃあ買いますね!」


ということで、俺の頭をいれるための、ランタンのようなものを買った。

体が元に戻れば、普通にランタンとして使おうと思っている。ついでに蝋燭も買っておいた。


ハルカは俺を巾着から出し、そのランタンに俺の頭蓋骨をいれ、胸の前で抱えた。いつもの目線より、かなり低いが、世界を見れるだけ嬉しいというものだ。


「イメルテ、はたから見てどう思う」


「ローブを着た少女が人骨を持っているというのは、かなり危ない絵面ではありますね」


「私は気にしませんよ!」


ハルカは元気にそう言ったが、気にするのは人々だ。巾着から頭蓋骨を出した時点で、相当周りが引いていた。


「私はムルト様がちゃんと外を見れるように……」


「いいんだハルカ、気を落とすことはない。俺もとても嬉しいからな!」


ハルカを慰めるように俺は大きな声でそう言ったら


「ムルトさん、あまり喋らないほうがいいですよ……すごく、顎がカタカタ言っています」


周りの人間が皆、俺に注目している。

俺は固まってしまったが、すぐに口を動かした


「ふ、腹話術……だ」


確か、口を動かさずに人形を操る大道芸があったはずだ。俺はそれの真似をする。

多分、うまくいったはずだ。


「ムルトさん、あまり喋らないほうがよさそうですね……」


「あぁ……」


俺は街中を歩いている間、発言は控えめにした。




その晩、フッドンが来た


「よぉ!完成したぜ!」


「おぉ、早いな」


「まぁな!って……何やってんだ?」


俺は、昼に買ったランタンの中にそのまま入っていて、机の上に置かれている


「ランタンか?ハルカちゃんはそれを片手に持って旅するのか?」


「はい!」


「うーん、ちょっと待ってろ」


フッドンはそう言うと、ランタンから俺を出し、魔法を使いランタンを熱し、ポーチから鉄と皮を出し、槌と糸を使って何やら作っているようだ


「ほら、これでどうだ?つけてみろ」


ハルカは、フッドンに手渡されたランタンを見る。何かを通すようなものがついていた


「ここにベルトを通すんだ」


フッドンがそう言い、試しに自分でやって見せた。フッドンの腰のあたりにランタンがぶら下がっている。ベルトをランタンの横に通し、腰に固定できるようになっている。

多少の揺れはあるだろうが、これで両手が空いた。戦闘もできる。


ハルカもフッドンに習い、ベルトを通し、俺をランタンの中に入れ、部屋の中を歩く


「どうですか?」


「揺れはするが、気になる程でもない」


「そうか、そりゃよかった。って、本題はこっちだ」


フッドンはそう言い、ポーチから鎧のようなものを出した。フッドンのポーチはアイテムボックスになっているようだ。それでも容量は少ないらしいが。


「これは?」


「馬鎧だ。馬を出してくれねぇか?」


「あぁ」


俺はスケルトンホースを召喚する。


「しっかり覚えろよ」


そう言ってフッドンは、そのスケルトンホースの体に、布のようなものを被せ、カチカチと鎧をつけていく。

頭は完全に隠れる兜のようになっており、首には何枚も繋がっている鉄板がつけられる。体もがっちりとした鎧だ。

4本の足にも、留め具をつけた鎧をはめていく。


「こんなもんだ。下から見られれば骨が目に入るが、好き好んで馬の腹の下に入るやつなんていねぇだろ」


スケルトンホースは、まるで黒い甲冑を着た軍馬のようだ。フッドンが言うには、布を被せたのは骨の大部分を隠すため、その布ごと鎧を着せることで、布がずれないということらしい。


「さぁ、やってみてくれ」


フッドンは、鎧を脱がす時も見せるように外した。

ハルカはフッドンに促され、馬鎧をひとつひとつ手に持ち、つけていく。


「ほぉ?1発で覚えたか」


「えへへ、スキルのおかげです」


ハルカ曰く、自動操縦で出来てしまったらしい。一生懸命見て覚えたので、自動操縦がなくても繰り返せばできる。とのことだった。


これで、旅の準備が完了した。

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