強欲の罪
少年はずっと独り。
親はなく、食べ物も、寝る場所もなかった。
それでも少年は生きた。
食べ物を取り、寝床も手に入れた。
当然、少年にとってそれは、危険なことだった。
だが少年は、それが危険なことだとは知らなかったのだ。
少年はまず、食べ物を求めた。
高い木に登った。動物を殺した。
獲物を横取りしようとするモンスターとも少年は戦い、勝った。
寝床だってそうだ。そこに住んでいた大きな熊を殺して奪った。
そしてある日、少年はあるものを求めた。
それは、『愛』だ。ずっと独りで生きていた少年には、愛が欠如していた。
少年は、適当な家族を攫って、愛を手に入れることにした。
家族の一員になろうとしたのだ。
父や母の代わりに獲物をとってきたり、妹のために野犬を殺したりもした。
それでも、『優しさ』をかけられることはなかった。
家族は常に何かに怯えているようで、口数も少なかった。少年は何に怯えているのかわからなかったが、それをなんとかしようと頑張って頑張って考えていた。
ある日、獲物をとって帰ってくると、家族は洞窟から姿を消していた。逃げたのだ。
だが少年は、そのことがわからず、心配になってその家族を探した。足跡を見つけ、臭いを辿り、そしてやっと見つけることができた。
そこでは、妹がモンスターに襲われ、死んでいた。父と母は抵抗しなかったのか、無傷だった。少年は思った。
ーーこの家族に、愛はなかったんだ
少年は、妹を殺したモンスターの首を一瞬で砕き、頭を潰した。モンスターの口元から落ちた妹の手足を拾い、父と母に返す。
少年を見て、二人は怯えきっていた。
少年は、もう諦めていた。この家族から愛は手に入らないのだと。
少年は、二人を娘のいる場所へと送ってあげた。
★
玉座に座る大きな存在が、目を覚ます。
頭にはボロボロの王冠をかぶり、顔は少し砕けていた。
『久しく、夢を見たな』
くたびれたローブを纏い、その玉座に座しているのは、巨大なスケルトン。
寂れた居城で、なにやら体を休めているようだ。
『……僕は、なにを求めているのだろう』
未だ全てを手に入れていない。
欲しいものはなんでも手に入れてきた。
それでもまだ、心の渇きが潤うことはなかったのだ。
もう一度、スケルトンは目を瞑る。
★
少年はほとんどを手に入れていた。
金も、女も、土地も、家も
いつしか少年は優しさを覚え、健全に生きていた。
少年は世界を渡り歩き、様々な絶景スポットや、集落、様々な人種や、亜人にも出会った。
少年はその体験を本に残し、後世に伝えることにした。
出した本の名は、【フォルの大冒険】少年の夢や希望の詰まった大切な一冊だ。
少年は、老衰し、段々と命の灯火が弱くなる。
ーー辛くはないけど、死にたくもないな
少年は、最期に求めた。生を
その願いは、幸か不幸か叶うこととなったのだ。アンデッドとなった少年は、その身で世界を渡り歩いた。だが、誰もがその体に恐怖した。
腐り落ちていく肉に、悪臭を放つ腐肉に。
かつて巡ってきた地で出会った者たちは、そんな彼を出迎えてはくれなかった。
彼は悲しんだ。彼の心に、暗い炎が灯ってしまった。
彼は求めた。命を、国を、自分を認めてくれる人々を
彼は殺され、封印されてしまう。
2度目の死だった。
だが、その絶望は、またここへ戻ってくる
★
『……ふむ』
巨大なスケルトンは、また昔の夢を見ていた。それは、自分がまだ生きていた頃の、生前の記憶だった。
良い事ばかりをしていたわけではない。悪い事もそれなりにしてきた。だが、人に嫌われることはなかった。自分を嫌った者は、この世から消しているからだ。
『フォル……この名は、もう』
既に捨てている。
彼は遠い記憶を呼び覚まし、それを今の自分へ重ねている。
『もう2度死んでいる。死などは怖くない。怖いのは』
ーー人を愛せない僕自身だ
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