強欲の罪


少年はずっと独り。

親はなく、食べ物も、寝る場所もなかった。


それでも少年は生きた。

食べ物を取り、寝床も手に入れた。

当然、少年にとってそれは、危険なことだった。

だが少年は、それが危険なことだとは知らなかったのだ。


少年はまず、食べ物を求めた。

高い木に登った。動物を殺した。

獲物を横取りしようとするモンスターとも少年は戦い、勝った。

寝床だってそうだ。そこに住んでいた大きな熊を殺して奪った。


そしてある日、少年はあるものを求めた。

それは、『愛』だ。ずっと独りで生きていた少年には、愛が欠如していた。

少年は、適当な家族を攫って、愛を手に入れることにした。

家族の一員になろうとしたのだ。

父や母の代わりに獲物をとってきたり、妹のために野犬を殺したりもした。

それでも、『優しさ』をかけられることはなかった。


家族は常に何かに怯えているようで、口数も少なかった。少年は何に怯えているのかわからなかったが、それをなんとかしようと頑張って頑張って考えていた。


ある日、獲物をとって帰ってくると、家族は洞窟から姿を消していた。逃げたのだ。

だが少年は、そのことがわからず、心配になってその家族を探した。足跡を見つけ、臭いを辿り、そしてやっと見つけることができた。

そこでは、妹がモンスターに襲われ、死んでいた。父と母は抵抗しなかったのか、無傷だった。少年は思った。


ーーこの家族に、愛はなかったんだ


少年は、妹を殺したモンスターの首を一瞬で砕き、頭を潰した。モンスターの口元から落ちた妹の手足を拾い、父と母に返す。

少年を見て、二人は怯えきっていた。

少年は、もう諦めていた。この家族から愛は手に入らないのだと。

少年は、二人を娘のいる場所へと送ってあげた。





玉座に座る大きな存在が、目を覚ます。

頭にはボロボロの王冠をかぶり、顔は少し砕けていた。


『久しく、夢を見たな』


くたびれたローブを纏い、その玉座に座しているのは、巨大なスケルトン。

寂れた居城で、なにやら体を休めているようだ。


『……僕は、なにを求めているのだろう』


未だ全てを手に入れていない。

欲しいものはなんでも手に入れてきた。

それでもまだ、心の渇きが潤うことはなかったのだ。

もう一度、スケルトンは目を瞑る。





少年はほとんどを手に入れていた。

金も、女も、土地も、家も

いつしか少年は優しさを覚え、健全に生きていた。

少年は世界を渡り歩き、様々な絶景スポットや、集落、様々な人種や、亜人にも出会った。

少年はその体験を本に残し、後世に伝えることにした。

出した本の名は、【フォルの大冒険】少年の夢や希望の詰まった大切な一冊だ。


少年は、老衰し、段々と命の灯火が弱くなる。


ーー辛くはないけど、死にたくもないな


少年は、最期に求めた。生を

その願いは、幸か不幸か叶うこととなったのだ。アンデッドとなった少年は、その身で世界を渡り歩いた。だが、誰もがその体に恐怖した。

腐り落ちていく肉に、悪臭を放つ腐肉に。

かつて巡ってきた地で出会った者たちは、そんな彼を出迎えてはくれなかった。


彼は悲しんだ。彼の心に、暗い炎が灯ってしまった。


彼は求めた。命を、国を、自分を認めてくれる人々を

彼は殺され、封印されてしまう。

2度目の死だった。


だが、その絶望は、またここへ戻ってくる





『……ふむ』


巨大なスケルトンは、また昔の夢を見ていた。それは、自分がまだ生きていた頃の、生前の記憶だった。

良い事ばかりをしていたわけではない。悪い事もそれなりにしてきた。だが、人に嫌われることはなかった。自分を嫌った者は、この世から消しているからだ。


『フォル……この名は、もう』


既に捨てている。

彼は遠い記憶を呼び覚まし、それを今の自分へ重ねている。


『もう2度死んでいる。死などは怖くない。怖いのは』


ーー人を愛せない僕自身だ

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