骸骨と黒剣
「ムルト!」
勢いよく扉を開け、フッドンが飛び込んできた。
「すまねぇ!」
膝を降り、頭を下げる。土下座、というものだ。何に対してのすまない。なのか、俺もハルカもわかっていなかった。
「……ノックをしなかったぐらいで、怒りはしないぞ」
「い、いや、ノックのことじゃねぇが、そうだな、ノックもしないですまねぇ」
俺はそう言ったが、どうやらそのことではないらしい。
「って!ちげぇよ!これだ!」
フッドンは、鞘に収まっている月欠を両手で差し出してきた。月欠を手渡したのは、昨日、フッドンは2、3日時間をくれと言っていたが、1日で戻ってきた。さすが、神匠と呼ばれているだけのことはある。
「おぉ、早いな。すまないが、こんな体でな、剣を振るうことはできないこと、謝ろう」
今の俺は机の上に置かれている。頭蓋骨のみの状態だ。脊椎から宝玉をとることはできなかったが、頭蓋骨を取り外すことができた。
脊椎と宝玉はハルカのアイテムボックスの中に入っている。それでも、宝玉の力は使えるようで、赤と青の魔力の出し入れも可能だ。
「いや、それがよぉ」
フッドンは月欠を鞘から引き抜く。刀身は半ばで折れている。昨日と同じ状態だ
「手は尽くした。ミスリルも、アダマンタイトも、この剣には癒着しなくてな。どんなに火力を上げても、刀身は溶けねぇし、ミスリルとアダマンタイトを混ぜて焼き入れしても、くっつかねぇんだ」
「ふむ」
「そ、それでな、代わりに使えるように剣を、作ってきた」
フッドンはそう言い、黒色の鞘のロングソードを出してくる
「ミスリルとアダマンタイト、少量だがダマスカス鋼も混ぜた。最高傑作と言っても過言ではないほどだ」
フッドンはそう言い、剣を引き抜く。鞘と比べ、刀身は完全に真っ黒だ。部屋の光に反射し、黒光りをしているが、その姿もとても美しい。
月欠を、夜空に浮かぶ月と例えるなら、この剣は、夜そのもの、と言えるだろう。
「ほぉ……なんと美しい、その剣の名は、なんというのだ?」
「名はまだつけてねぇ。が、これはお前に譲るための剣だ。名前はお前がつけてやってくれ、俺の銘は打ってある」
「私が名をつけてもいいのか?」
「あぁ。今日からお前の剣になるんだ。お前がつけてやってくれ。これは、俺の頼みでもある」
「私が……」
俺はハルカに抱えられ、その黒剣を間近で見る。美しい刀身は、俺の姿を反射し、骸骨の顔を見せた。
「名か……そうだな」
俺は真上にいるハルカに話しかける
「ハルカ、お前がつけてやってはくれないか?」
「えっ、わ、私がですか?!」
俺と同じく、黒剣に見惚れていたハルカは、俺の突然の提案に驚いているようだ。
「あぁ。フッドン、いいか?」
「お前がいいと言うなら、俺は別に構わねぇよ」
「本当に、私でいいんですか?」
「あぁ。俺の剣は、お前を、皆を守るためにある。守るべき者が名をつけてくれれば、それに勝るものはない」
「……」
ハルカは黙って、俺と黒剣をじっと見る。
「……それでは、黒剣ー宵闇ーというのはどうでしょう?」
「よいやみ……か、あぁ。良い響きだ……意味などはあるのか?」
「はい。月が出ていない夜のことです」
「そうか。俺もこの剣は夜空そのものだと思っていたんだ」
剣の名前が決まった。黒剣ー
「よし!今日からこいつはお前の剣だ!大切にしてれよな?」
「あぁ!当然だとも。今から楽しみだ」
今の俺は頭蓋骨のみなので、剣を振るうことは到底できない。早く体を元に戻したいものだ。
「ところでフッドン、近くにスケルトンのいるダンジョンか洞窟はないか?」
「あぁ?そうだなぁ……ここいらにはなかった気がするが」
「そうなのか?」
「あぁ。この辺は、アンデッド族が極端に少ねぇんだ。新しい体が欲しいのか?」
「もちろんだ」
「ふむ……あまりオススメはしねぇが、ここから馬車で2週間ほど行ったところに街があるんだが、そこから近い【屍人の森】ってところは、広域型ダンジョンでな、アンデッド族しかいないらしい」
「ほう?」
「スケルトンも、ゾンビもいるし、エルダーリッチなんてのもいるって、ちょいちょい聞くな」
「ならば、そこに行くのが手っ取り早いな」
「そうなんだが、オススメできない理由がある」
「それは?」
「それはなぁ……」
フッドンは腕を組んで考えるが、すぐに答えはでたようだ。
「森を抜けたところに、ノースブランって国があるんだが、そこは聖国でな。宗教国家なんだ」
宗教といえば、聖都市ボロガンだ。俺がイメルテと初めて会い、アルテミス様とも会えた街、いろいろな宗教を認め、いろいろなものが信仰されていた。
「ほう。ボロガンのような街か」
俺がそう呟くと、静かに話を聞いていたイメルテが補足をしてくれる。
「いえ、聖国ノースブランは、確かに宗教を許していますが、ボロガンと違い、邪教や、獣神などの信仰を禁じています」
「ふむ?」
俺は疑問形で返す。なぜフッドンとイメルテが言い淀んでいるのかがわからないが、まだ、何かあるようだ。
「それで、何か私たちに不利なことがあるのですか?」
「ノースブランは、人族至上主義なんです。もしも、ムルトさんが、ハルカさんが人族でないと知られれば、すぐに殺されてしまいます」
「ふむ」
イメルテは細かく教えてくれた。
ノースブランは人族のみで構成された王国で、獣人、魔族、モンスター、エルフまでもが迫害の対象になっているらしい。
人族以外ならば殺しも認められており、亜人の奴隷を聖国に連れて行こうものならば、過激な国民が、その場で奴隷を殺してしまうらしい。ハルカは、角がなくとも魔族だ。俺やハルカのように、相手のステータスを見れるものがあればすぐにバレてしまう。
「そうか。わかった。ノースブランには近づかないようにしておこう。では、その屍人の森の近くに綺麗なものはあるか?」
「ん?う〜んそういった話は聞かねぇなぁ」
「そうか。ならそれで大丈夫だ。ハルカ、次は屍人の森に行こうと思うのだが」
「私はどこまででもついていきますよ」
にっこりと笑い、俺を軽く抱きしめた。
俺はこの笑顔を守りきったのだ。だが、体を取り戻すまでは、ハルカに守ってもらうことになってしまう。
屍人の森までは馬車で2週間。歩けばさらにかかるのだろう
「よし、んじゃ、近くの街までの馬車はとってきてやるよ。いつ出発する?」
「早ければいいが、俺がこんな状態でな、準備に時間がかかるかもしれない。2日後で頼む」
「あぁわかった。今度こそ、任せてくれ!」
フッドンは宵闇を机に立てかけ、馬車をとりに走って部屋を出て行く。
「それでは、私はギルドで屍人の森についての資料を持ってきますね。ハルカさん、ムルトさんを見ていてくださいね」
「はい!いつまででも見てます!」
イメルテは、俺たちのために、ギルドへ行ってくれたようだ。
部屋には、俺とハルカだけが残った。
「ふむ。とりあえず、ステータスの確認をするか」
「はい!」
この部屋には鏡がない。どう頑張っても、俺は俺自身の体を見れない。
ステータスを見ることができないのだ。
俺がハルカの、ハルカが俺のステータスを見て、それぞれ発表することにする。
俺は机の上に置かれ、ハルカのことを見る。
ハルカも、机の上の俺を見た。
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