聖国ノースブラン

聖国ノースブラン


人族至上主義をかかげ、多種多様の信仰が許されている宗教国家である。

国民の全てと言える人間が、モンスターを、魔族を、獣人を、エルフを、人ならざるモノを嫌い、容赦なく駆除している。


国民達が信仰している宗教は、大きく分けて2つある。

1つめは、勇英教

勇者や、英雄と呼ばれる、人々の希望を願っている者達。ミナミやジャック、サキなどが今は信仰対象になっている。


2つめは、聖教

これは、国教に定められている宗教で、この国の聖王を信仰するものになっている。

聖王は、聖なる力で人々を癒し、魔を退けると言われている。

現に、聖天魔法を獲得しているものが代々王になっているのだ。


その他にも、戦の神や、愛の神、それぞれの神などを信仰している宗教があるが、信者は皆、人族至上主義を持っている。


その中でも、異端と言われている宗教があった。その宗教を信仰している者は、皆、モンスターや魔族に理解を持っている者ばかりだ。

聖国に罰されることもなく、慎ましく少人数で教会を運営していた


その晩も、皆で祈りを捧げていた。


「皆さんは、モンスターや魔族を、どう思いますか?」


巫女服を着ている女性が、そう質問をした。

ここにいるのは、皆が皆、巫女服を着込み、正座をしている。


「私は、悪いものだと思っています。が、例外はあります」


「はい。その通りですね」


「人を襲わないモンスター、物分りのいい魔族はいると思っています」


「私もそう思ってます!」


「私も!」


「私もです!」


その場にいる皆が同意する。

この宗教では、モンスターや魔族を一方的に敵対視することはない。

人間同様、モンスターや魔族にも、個体差はあると信じているからだ。

実際に、ここには魔族やモンスター、獣人などに助けられた者がいる。

元々人族至上主義だった者達が疑問を感じ、改宗し、ここを知り、今に至る。


「当然、モンスターや魔族、エルフにも悪いものがいれば、いい人もいます。それは、我々人間にも言えることなのです」


互いの顔を見合わせ、静かに頷く。


このやり取りは、毎日続けているものだ。

モンスターや、エルフや魔族などの亜人に悪い者はいる。が、それだけではない、と忘れないために。


「カグヤ様、今日はあまり元気がありませんね」


「……そう、思いますか、そうかも、しれませんね」


カグヤと呼ばれた女性は、空を見上げる。

そこには、いつも世界を優しい光で包み込む月が上がっていた。

その月は、欠けていた


「半月、ですね」


「そう、なのですが、私には」


カグヤは悲しそうな顔をし、自分と同じ巫女服を着ている彼女達を見て、小さく、弱々しい、皆には聞こえない声で呟いた。


「私には、本当に欠けてしまっているように感じるのです」


はたから見れば半月だが、月は確かに欠けている。


★★★


名前:カグヤ

種族:人族


レベル:1/100

HP260/260

MP1850/1850


固有スキル

月ノ眼

魔力操作

慈愛の美徳



スキル

聖天魔法Lv5


称号

月の巫女、月の女神の祝福、慈愛、救済者



★★★


ノースブランの西には、【屍人しびとの森】という、広域型ダンジョンがある。

その森全体がダンジョンであり、モンスターが無限にポップする。そこにいるモンスターは、そのほとんどがアンデッド族。

スケルトンからレイス、リッチまで、多種の、高ランクのモンスターまでいる。

ボスはいないが、Sランクのモンスターは一定数いる。


ノースブランは、人族至上主義にして、宗教国家である。アンデッド族は死者への、命への冒涜だということで、一番に嫌われているものだ。

そのため、集団暴走を抑止するためにも、冒険者ギルドにより、定期的に間引きも行われている。

そして、この森では、背信者の間引きなども、行われていた。


「や、やめてくれ!!俺には女房と子供がっ」


「人族こそ優れている。それ以外のモノを認めることはできない」


今晩も、それは行われていた。淡い月が森を照らす中、2人の男がいた。

鎧を着込んだ男と、普通の服を着た男。鎧を着ている男は、その男に剣を突きつけ、問い詰めていた。


「お、俺は人族です!お、お願いします!許してください!」


普通の服を着た男は、頭を地面に擦り付け、命乞いをしている。


「貴様、出先で獣人を助けたそうだな?」


「は、はい……で、ですが!すぐに捨てました!」


「隣街に送り届けるのが、お前の中では捨てるという行為なのか?」


「そ、それは……」


「妻は反対していたそうだな?」


「は、はい。で、でも、やはり困っている人を見捨てるのは……」


「人と亜人を一緒にするな!」


「す、すいません!!ですが!怪我した動物を保護するのは当然のことではありませんか!!」


「ふむ。一理ある。確かに、生きている命を助けることは良いことだ」


「で、ですよね!でしたら」


「だが、人の姿を真似たケダモノを助けるのは少々頭にくるものがあるのではないか?」


「そ、そ」


「ケダモノを馬車に乗せ、街まで送り届けた。という話は、お前の妻から洗いざらい聞いている」


「そ、そんな……まさか無理やりっ!」


「人聞きが悪いな。彼女は自分から私に相談してきたのだ。夫が勇英教に背いている。とな、お腹の子供も堕したと言っていたぞ」


「そ、そんな……な、なんで」


「人族以外のモノに手を差し伸べるなど信じられない。あの人の子供なんて、身の毛もよだつ。とな」


「は、はは、ははは……」


男は口を開け、涙を流しながら笑っていた。その目は、既に死んでいた。鎧を着た男は、力なく笑う男の口の中へ、剣を突き刺した。


「あっ、あが、あばっ」


口の中からとめどなく血が流れだす。首にも穴が空き、そこからも流れ出す


「悲しい男だ」


人族至上主義を犯したモノでも、元は人間、命尽きれば、その後の追い討ちは死者への冒涜となる。鎧を着た男は、剣の血を拭って、死体をそのままにし、国へと帰る。


殺された男の死体は、森に、ダンジョンに取り込まれる。取り込まれるといっても、それは全てではない。肉と皮膚のみだ。


屍人の森で死んだモノは、モンスターになる。それがスケルトンなのか、ゾンビなのか、はたまたデュラハンなのか、それは全く異なるが、どうやらこの男はスケルトンになったようだ。


記憶もなく、生きる希望も指針もない。が、その顔は、確かに生者への憎悪に歪んでいる。そして、その一部始終を見ていたモノがその場には1人いた。


鎧の男が完全にいなくなったことを確認してから、木の隙間から出てくる。

その巨大なモノは紫色のローブを纏っているだけだった。


「憎しみハ、憎しみしかウマない」


新しくスケルトンになった男にそう語りかけるが、当然、返答など返ってくることはなかった。


「なぜ。なぜ人は、コンナにも……」


独り言を漏らすそれの顔を、月は平等に包み込む。紫色のローブから見える顔は、真っ白だった。頭蓋骨のみが、青白く、月に照らされていた。


そのモノは、人々にこう呼ばれている存在だ。


ワイトキング


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