骸骨と黒い骸骨

「まぁ、またなんかありゃ、声かけてくれ。俺たちはもうダチだからな!」


「あぁ。感謝する」


「で、本当にお前はいいのか?」


「あぁ。俺にはコイツがいる」


俺は腰の月欠を示し、都市に向かって歩いていく。


ハルカのメイスを作ってもらい、食事をしてから、俺たちは少し休んだ後、都市に帰っていた。城壁はもう目の前、見慣れた大きな門が見えていた。


その門の脇で、門を警備している男が槍を高く持ち、こちらに向かって振っている。


「あれは何をしているんだ?」


「危険信号みたいなもんだな。後ろには……なんもいねぇ。街でなんかあったようだ。急ぐぞ」


フッドンが小走りになり、俺たちはそれについていった。

門に着くと、門兵の男は俺たちの方へ走り寄り、大きくはっきりとした声で、今起こっていることを教えてくれた。


「東の門にて、集団暴走スタンピードです!詳しくは冒険者ギルドで聞いてください!それでは、皆様急いでください!」


すぐに門が開かれ、中へと通される.


「行こう」


「あぁ。ただごとじゃねぇ」


「はい!」


街の中は騒がしかった。俺の知る賑わいではなく、商品を家の中に入れ、窓やドアを塞ぎ、避難の準備を進めていた。


俺たちは人がすくなくなった道を全速力で走り、すぐにギルドに到着することができた。


「何が起きていやがる!」


フッドンはギルドに入るなり、第一声にそう言った。


「ムルトさん!」


職員や冒険者に忙しく指示を出していたイメルテが俺たちに気づく。

職員に指示を出し、ひと段落ついたのか、こちらに寄ってくる。

ギャバンも一緒だ。


「ムルトさん、またいなくなってしまったと思って心配したんですよ!依頼を受けて2日戻らないなんて初めてのことなんですから!」


「連絡を入れなかったのには謝罪しよう。ところで、集団暴走というのは?」


「それは」


「それは俺が説明しよう」


ギャバンが一歩前に出て手を打つ。


「テメェらももう1度よーく聞け!今、東門のほうで、ゴーレム、ゴブリン、スケルトン、オーガ、オーク、サイクロプスまで確認されてる!どうやら、森の中からどんどん溢れてるようだ。森の中に脅威が現れたか、ダンジョン内で異常なポップが起きて、溢れ出てきたかのどちらかだ。Sランクどもは俺と一緒に最前線に出てもらう。Aは最前線手前、Bは都市まわりの警戒、Cは街中での警戒だ。わかったか!」


「「「おう!!!」」」


「近くのギルドにも救援要請は送ってある。俺たちだけでなんとかするのが一番いいが、最悪の事態もありえる!心してかかれ!」


「「「おう!!!」」」


皆が皆、返事をし、準備を進めていく。


「フッドン、お前は俺と最前線だ」


「マジかよ?善良なドワーフの鍛冶師を最前線に送りこむたぁ、人間のやることじゃねぇな?」


「おふざけは時と場所を選べよ?今は時間がない。黙ってついてこい」


「はいはい」


ギャバンは困った顔をして肩を竦めながら歩き出す。いつの間にかギャバンの周りに、いい装備をした冒険者が集まっていて、ギャバン達の後ろをついて歩く。

この冒険者達がSランク冒険者なのだろう。


「ハルカ、俺たちは都市の周りの警備だ。油断せずいくぞ」


「はい!」


俺とハルカが、ともに東門へ向かおうとすると。


「あ?お前らは最前線だ。ついてこい」


ギャバンは俺たちを振り向き、そう言った。


「私たちはBランク、きっと足手まといになる」


「俺が認めてんだ。お前らは十分戦えるさ。無理だと思ったら、お前らの前線は下げてやるよ」


「そういうこった!逃がさんぞ!ムルト!」


フッドンがそう言い、肩に腕を回し、連れて行かれる。ハルカは俺の隣を静かについてくる。向かうのは東門、森の中、大量のモンスターがその姿を見せた。





東門を抜け、ギャバンを先頭にした精鋭が、目の前のモンスターを切り倒しながら道を作っていく。Aランクの冒険者は、その道を後ろからついていき、森の前で立ち止まる。


「Aランクはここでモンスターの迎撃だ!

囲むように広がれ!討ち漏らしに注意しろ!お前らが討ち漏らしたモンスターは後ろのBが相手することになる!討ち漏らしても大丈夫なやつ、絶対に討ち漏らしたらダメなやつ、考えて戦え!」


「「おう!!」」


「よし!前進だ!」


Aランク冒険者を森の入り口へ残し、俺たちは森の中をかけていく。


「囲まれている。気をつけろ」


「あ?索敵持ちか?なら、逃げ道なんかは確保できるな?」


森の奥へと入っていく。オーガやオーク、スケルトンやゴブリンを次々に殺していく。


「ここらで殲滅だ!散開して1匹でも多く討て!」


Sランク冒険者は各々で散り散りになる。ソロが3人、パーティが2組だ。

Sランクにふさわしく、森の中でも軽快に進んで行き、その姿は見えなくなったが、次々と開戦の音が聞こえてくる。


「ムルトとフッドンは俺に続け。大元を探す」


「わかった」


モンスターが大量にいる場所へと向かっていく。


「馬だ!」


横から馬が駆けてきて、その上にいる者が剣を振ってくる。俺はその動きを月読で見る。少しだけ遅く見えたその攻撃を、月欠で難なく流した。


「これは……デュラハン?」


首なし騎士だ。乗っているのはスケルトンホースという、骨のみでできた馬だ。だが、その体には馬鎧がつけられている。


「アンデッドか。おかしいな」


ギャバンは飛び上がり、目にも留まらぬ速さで馬の頭を足で砕き、そのまま回し蹴りを繰り出し、デュラハンの鎧ごと、その体を粉々にした。


「おかしい、とは?」


周りのオーガや、オークを迎撃しながら、俺は聞いた。


「このあたりにアンデッドの生息しているダンジョンはない。あってもスケルトンぐらいのものだ。デュラハンはAランクモンスター。こんなところにいるのはおかしい」


「誰かが意図的に引き連れてきたってことか?」


「その可能性がある。ハルカ嬢は、光魔法を使えるか?」


「は、はい!」


自動操縦で、体を風のように自由に動かし、美しくモンスターを屠っていたハルカが答える。


「聖天魔法を持っています。が、コントロールがきかなくて……」


「聖天魔法?!なかなかすげぇもん持ってんじゃねぇか!使えんのか?」


「いえ!使ったことは!それに、ムルト様が……」


「あぁ、確かに、ムルトにまで被弾したらな」



モンスターを屠りながら、話を進めていた。


「まぁ、アンデッドは頭が弱点だ!潰していけ!ムルト!見分けがつくように、ローブと仮面は外すなよ!」


「言われなくとも!」


ギャバンが冗談交じりにそう言った。

俺は迫ってくるオーガの背後に飛び、首を切り落とす。

後ろに迫っていたデュラハンに手を向け、炎を放つ。


「獄炎魔法、ダークフレイム」


手のひらから黒い炎の塊が出て、デュラハンに当たり、燃える。黒い炎はデュラハンとスケルトンホースを包み込み、その全てを燃やしきると、その禍々しい姿を消す。灼熱魔法と暗黒魔法の複合魔法だ。


「すげぇもん使ってんな!それならヒヒイロも削れたんじゃねぇか?!」


「削る前に燃やし尽くしてしまう!」


「かもなぁ!」


デュラハンやハイスケルトン、ジャイアントスケルトンや、レイスまでいる。

そして、目の前にローブを纏った少し大きいスケルトンが現れた。


「あれは、エルダーリッチだ!」


ギャバンがそういい、身構える。

エルダーリッチは目の前に3体、同じような反応があたりからもする。


エルダーリッチは、俺たちを前にしても、気にすることなく次々とモンスターを召喚している。ハイスケルトンソルジャーや、ジャイアントスケルトンが次々と現れる。


「ムルト!ハルカ!雑魚は頼む!」


「どこが雑魚なものか!」


ハイスケルトンはCランク、ソルジャーとジャイアントはB、どちらもスケルトンだからあまり強くはないが、数も多い、雑魚というには語弊がある。俺とハルカは連携をしつつ、モンスター達を殺していく。


ギャバンとフッドンはエルダーリッチへ飛び込み、1体1体を殺していく。頭を完全に砕き、腕も折る。5体いたエルダーリッチはすぐにその数を0にした。


「これが神匠とギルドマスターの強さか」


「すごいですね」


2人ともSランク以上の強さを持っている。きっと、ミナミやジャック、セルシアンやロンドもこれほどの強さを持っているのだろう。


「よし、元凶のエルダーリッチは殺した。あとは召喚されてた奴らを殲滅するだけだ」


「おうよ!」


目に見えるジャイアントやデュラハンを倒し、一息ついた時、奴は姿を現した。


『これほどまでに我が軍勢がやられるとは、まだその時ではなかったか』


それは、木々ほどの大きさもある骸骨。ジャイアントスケルトンよりも大きく、異様な存在だった。

エルダーリッチのように、ボロボロの黒いローブを纏い、ジャイアントスケルトンのように、巨大な体を持ち、ソルジャーやメイジのように無数の剣や杖を持っている。

肋骨だと思われる部分は、無数の骨が詰まっており、足や腕も、無数の生き物の骨がそれを形作っていた。その全ては黒く、まさしく漆黒、闇を具現化したような存在だった。


その闇は、俺たちが倒したジャイアントやエルダーリッチの骨を拾い、腹内へ納める。

白かった骨は漆黒に染まり、その闇の一部となる。


黒色こくしょくの、スケルトン……」


フッドンの口から、その言葉が漏れる。

フッドンだけではなく、俺も、ハルカも、ギャバンですら固まり、その異形を見つめている。


(俺と、どこか似ている?)


俺は心のどこかで、そんなことを感じていた。

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