骸骨の壁
『どれ、退く前に、若い芽は潰しておかねばな』
低い声が、お腹に重く響いた。
黒色のスケルトンは、無数の骨が混ざり合ってる大きな手を前に出して、魔法を唱えた。
『
大きな手の平からは、私たちを包み込むように煙のようなものが溢れ出た。
(危ない……!)
誰もが動けない中、誰もが思っていた。
死ぬ。と
その時、1つの単語が、頭の中に浮かんだ。
ー|癒しの聖域《ライト・サンクチュアリ》ー
「
私はメイスを前に出し、頭に浮かぶ単語を唱えた。
★
まばゆい光が俺たちを包み込み、目の前の黒い瘴気から逃れることができた。
「うぐぁっ!」
だが、俺は聖域に拒まれたようだ。全身に痛みが走る。
「はぁ、はぁ。ムルト様!」
「くそっ!」
俺はギャバンの回し蹴りを食らってしまう。が、相当手加減をしてくれたようで、ダメージはないようだ。俺は聖域の外に出てしまい、黒い瘴気を一身に浴びてしまう
「ムルト様ぁぁぁぁ!!」
「落ち着け!」
「嫌です!!ムルト様!!」
「大丈夫だ!!」
大声で俺を呼ぶハルカに、声をかける。
「ムルト、様?」
「大丈夫だ。なんともない」
俺は二本の足でしっかりと立ち、ハルカの方へ顔を向けた
『なんともない……とはおかしな話だ。お主、何者だ?人間ではあるまい?』
黒色の異形は、俺に向き直り、そう言い放つ。
「お前と同じ、スケルトンだよ」
俺は仮面を外し、その顔を晒すが、大きなスケルトンは、それに驚かず、笑っていた。
『はっはっは!そうかそうか、お主が我と同じ、もう1つの器だな』
「器?なんのことだ?」
『なんだ?クラーケンのところで話を聞いたのではないのか?怠惰がなくなっていると思ったが、お主が持っているのだな』
「クラーケン?ダゴンのことか?」
『はて?そんな名だったか?少し待て』
大きなスケルトンは、無数の骨が入り混じっている腹内に腕を突っ込み、かき混ぜるように、何かを探しているようだった。
俺は、悪い予感を感じる。
『おぉ。あったあった。これだ。クラーケンのくせに、骨のあるやつだった』
その大きなスケルトンが出してきたのは、何者かの頭蓋骨。眼球が入っていたはずの眼窩は小さく、触手のような骨が、ヒゲのように顎骨にくっついていた。
俺の中の2つの大罪が、顔を出す。憤怒と怠惰だ。
「まさか……それは海の底の神殿で?」
『あぁ、そうだそうだ。大きなところだったよ。いやぁ、あれらはなかなかに骨が折れたな』
「それは、冗談か?」
『皮肉だよ』
俺は月欠に魔力を通す。憤怒と怠惰の魔力が、とめどなく溢れ、俺の魔力と混ざり、月欠に宿る。青く透き通った刀身は、赤と青が混ざり、濃い紫といった、毒々しい色となっている。
「旋風脚!!」
ギャバンが体を回転させ、聖域の中で竜巻を起こす。黒い瘴気は、その竜巻に吸い込まれ、空へと舞っていく。空を飛んでいた生き物たちが次々へと地面へと墜落する。
「ムルト!フッドン!こいつは今倒さなけりゃぁやばい!」
「当然だ!!」
「わかってらぁ!」
黒い瘴気を払い、ギャバンとフッドンは大きなスケルトンの前に立ちはだかった。
ハルカは肩で息をしていた。癒しの聖域はそれだけでMP消費が凄まじかったのだろう。
対峙するのは俺たち3人、各々が武器を、拳を構え、動きに注意をしている。
「いくぞっ!」
ギャバンは目にも留まらぬ速さでスケルトンへ向かい、飛び上がる。
「地殻砕き!」
ギャバンは、グローブに魔力を込め、空中で体勢を整え、スケルトンの腹部へ、渾身の拳を捻りを入れて叩き込む。
だが、スケルトンはよろめきもしなかった。
「アースブレイドォォォォ!!!」
フッドンが、どこからか出した、巨大な剣で、兜割りをスケルトンへ繰り出す。大きなスケルトンはその攻撃を避けることすらせず、その脳天に大きな剣を受けた。
が、頭蓋骨にヒビが入ることはない。
『他愛ない』
大きなスケルトンは、2人の攻撃を一身に受けても、ビクともしなかった。
大きなスケルトンは、丸太のような巨大な腕を、目にも留まらぬ速さで振り回し、ギャバンとフッドンを吹き飛ばす。
「うごぁっ!!」
「がはっ!!」
2人は、真っ直ぐにどこかへ吹き飛ばされる。2人の生死はわからない。が、あの2人がそうそうくたばることなどないだろう。
『さて、第2の器よ。お主はどう我を楽しませる?』
大きなスケルトンは、俺へ向き直り、面白そうに俺を見つめる。
俺は既に月欠の形を変え、戦斧にしている。
憤怒の魔力で、戦斧を強化し、怠惰の魔力を上乗せし、俺は渾身の攻撃を繰り出す。
「ラース・ブレイク!!」
大きなスケルトンは、その攻撃を避けず、人差し指と中指の間に挟むだけで、止めたのだ
『ふむ。まともに喰らえば、擦り傷を負ってしまうな』
バカにするように、スケルトンは笑う。
戦斧を掴み、それを軽々と粉々に砕く。
「なっ?!」
『他愛なし』
大きなスケルトンは、親指で人差し指を抑え、そのまま俺を弾いた。俺は月欠を手放し、木に衝突し、全身がバラバラに砕け散った。
『さて、次は……』
大きなスケルトンは、ハルカが入っている聖域へと目をつけた。ハルカは未だ肩で息をしているが、聖域の中でメイスを構え、スケルトンを見ていた。
『ふむ。まだまだのようだな』
大きなスケルトンは、ハンマーを振り下ろす。聖域は、その大きな腕を受け止める。
1発、2発、3発打ち込まれた時には、聖域は耐えることができず、その姿を消してしまった。無防備なハルカが露わになってしまう。
『む?お主、大罪所持者か?これは運がいい』
大きなスケルトンは、顎をさすり、ハルカを見下ろす。
「えっ」
『だがおかしい。何か、不純物が。これは、まさか……』
大きなスケルトンが動く。ハルカは動けなかった。為すすべもなく、スケルトンの巨大な手の中へと収まってしまう。
『やはりな。これは、暴食の罪……そして、ふむ、お主、美徳の持ち主か、なぜ魔族が美徳のスキルを獲得しているのだ?』
「えっ!な、なぜ……」
『はっはっは。隠せぬよ。我の強欲の前ではな。お主の暴食は、我がもらっておこう』
黒い魔力のようなものが、ハルカを包み込み、黒みに黄色が加わる。その色の混じった魔力が、大きなスケルトンの元へと戻っていく。
『生者でなければ強欲を使えぬのが、不便なところよ。まぁ、死ぬことに変わりはないのだがな』
大きなスケルトンは、親指をハルカの頭部へと押し当て、力を込める
「ハルカァァァァァ!!」
俺は腕を動かし地面を這い、半ばで折れている月欠を拾い、大きなスケルトンへ投げつけた
『はっはっは!間に合うわけがなかろう!』
俺は、これから起きるであろう絶望に、思わず目を瞑ってしまう。鈍い音が、脳裏に響く。
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