骸骨と荒稼ぎ

次に来たダンジョンは、【銀鉱脈】。そこには既にたくさんの冒険者パーティがいた。


「すごい人ですね」


「あぁ……」


ダンジョンの入り口には、俺たちを合わせ、すでに7組のパーティがいた。乗合馬車まである。


銀鉱脈が銅鉱脈に比べて人気なのには、理由がある。

剣を作る過程で、鋼の剣を作ろうと思った時、鋼と、それに混ぜる銀が必要になる。

ミスリルに比べてしまうと数段劣るが、ミスリル以外に魔力を通しやすい鉱石は、銀なのだ。だが、銀単体で作ってしまうと、魔力の通りはまぁまぁあるのだが、頑丈な武器は作れない。そのため、銀を銅や鋼、ミスリルに混ぜることがある。

銀はたくさん必要なのだ。


「狩りが目的ではないからな。俺たちは俺たちのことをしよう」


「は、はい」


ここにいる冒険者は、皆Bランク以上だ。シルバーゴーレムとの戦いで事故が起きることも少ないだろう。俺たちは壁や通路をくまなく調べる。


が、ここでも特に気になった点はなかった。


「特に何もありませんね……」


「そうだな」


手がかりがなかったどころか、ゴーレムすら倒していない。そこかしこから戦いの音は聞こえていた。が、俺たちの前に現れるゴーレムは、一体もいなかったのだ


銅鉱脈でも、銀鉱脈でも戦闘をしなかったおかげか、陽はまだまだ沈んでいない。


「Aランクダンジョンにでも行ってみるか?」


「そうしてみましょう!」


黄金の泉の居場所を今日だけで見つけられるとは思っていない。とりあえずは受けた依頼だけはこなしたいと思っている


(あと9体……いけるだろうか)


そんな心配をしながら、俺たちはここから近いAランクダンジョンへと向かった。




幸い、冒険者パーティは少なかった。

ここは、【多鉱脈】というダンジョンになっている。Aランクダンジョンでは、上から2番目の難易度となっている。

その理由は、ゴーレムの数だ。銅鉱脈や、銀鉱脈のように、1体ずつの戦闘というわけではなくなる。そして、多鉱脈ということから、カッパーゴーレム、シルバーゴーレム、ゴールドゴーレム、稀にクリスタルゴーレムもいるらしい。

これを少なくとも3体同時に相手取らなければいけない。パーティの役職を細かく決めていなければ、苦戦を強いられることだろう。


「覚悟はいいか?」


「はい!任せてください!」


「それでは、いくぞ」


ダンジョンの入り口で、許可証を見せ、さっそく中へと入っていく。


さっそくゴーレムがいた。シルバーとカッパー、2体ずつだ。


「ハルカ、いけるか?」


「任せてください!」


「それでは、先ほど楽に斬り伏せたカッパー2体は俺が処理しよう。ハルカはシルバーを抑えていてくれ」


「かしこまりました!」


軽い打ち合わせをすませ、さっそく突っ込んでいく。

俺は身体強化をし、月欠へ魔力を纏わせ、隠密を使い、気配を完全に消し去る。

ハルカが真正面から向かっていってくれているので、俺に気づくことは絶対にないだろう。

ハルカが交戦する前に、カッパーゴーレムの背後に到達し、1体を切り刻んだ。


(ふむ。カッパーはいけるようだ)


カッパーゴーレムは脅威ではないだろう。

例え攻撃をされたとしても、月欠をその場所へ置いておくだけで、相手が勝手に自爆する。


俺はすぐにもう1体のカッパーゴーレムも切り刻み、コアを破壊する。ハルカは未だ交戦に入っていない。


「ハルカ!1体は俺が相手する!」


「はい!」


その大声で、2体とも俺の存在に気づいたようだ。だが遅い。


(初撃はもらおう。さて、どれほど……)


俺は自分に近いほうのゴーレムを、先ほどのカッパーゴーレムと同じような力で攻撃する。カッパーゴーレムと同じように、楽に切ることが出来た。

体半分を失ったゴーレムは立つことができず、そのまま倒れてしまう。

俺はそれをさらに切り刻み、コアを破壊する


「ムルト様、すごいですね!」


ハルカのほうも片付いているようだ。

聞こえた音は1発のみだった。メイスの一振りでゴーレムの内部のコアを粉砕したのだろう


「ハルカもすごいな」


「自動操縦のおかげです!敵の弱点がたまにわかるんですよ!」


俺たちは、その後もそのダンジョンで狩りをしながらダンジョンの中を確かめていく。

またしてもこれといった成果は得られなかったが、ゴーレムだけはたくさん狩ることができた。

正直、ゴーレムが多すぎて探索があまり進まなかっただけなのだが……


ここには、俺たちの他に冒険者はいなかった。そして今日踏破したのは、5階層のうちの地下3階までだ。狩りの効率もいい。明日はここの探索を終わらせてしまおう。





「ムルトさん、すごいですね」


「あぁ」


結果、ゴーレムは合計36体狩ることができた。

内訳は、カッパー21体、シルバー13体、ゴールド2体だ。


Bランク冒険者であれば、やろうと思えばこの数以上は1日で討伐できるらしい。俺たちがすごいと言われたのは、別の意味でだ。


「ゴーレム36体、全部・・持ち帰ってくるだなんて……」


そう、俺たちは狩ったゴーレムを全て持ち帰ったのだ。ゴーレムの大きさは、縦2m横1mないぐらいの、筋骨隆々のような見た目をしている。その全身は鉱石でできているし、重さもとてつもない。それを俺たちは36体分持って帰ってきた。

もちろん、ハルカのアイテムボックスを使ってだが。


イメルテには、俺がモンスターであること、ハルカが転生者ということを話してある。

素材を出すとき、『アイテムボックスが付与されている袋から出すフリをしてくださいね』と言われた。出したのはゴーレム36体だ。


「てっきり私は、前みたいに両手に抱えてくると思ったのですが」


イメルテが苦笑をしながらそんなことを言ってくる。俺の初めての依頼で、パワフルボアを両手で持ってきたことを言っているのだろう。


「懐かしいな。そうして欲しいなら、両手で持ってくるが?」


「えへ、冗談です。いっぱい持って帰ったほうがいいですからね」


「ははは。わかっているさ」


「それでは、内訳を伝えますね。

カッパーゴーレム1体銀貨1枚。21枚になります。

シルバーゴーレム1体銀貨3枚。39枚になります。

ゴールドゴーレムはカッパーと同じで、銀貨1枚、2枚ですね。

そして依頼達成報酬ですが、7枚分達成として、銀貨35枚

締めて銀貨97枚になります。お支払いは金貨に致しましょうか?」


「あぁ。これで、大金貨1枚にしてくれ」


俺は銀貨を3枚イメルテに渡し、大金貨1枚を受け取った。今日1日だけでこれだけの稼ぎだ。懐はだいぶ温まっている。しばらくは稼がなくてもよさそうだ。


「成果はありましたか?」


イメルテはそう尋ねてきた。狩りの成果ではなく、黄金の泉のことだとすぐにわかる。


「全くない」


「そうですか……私も気になっているんですけど、黄金の泉というものは」


「その響きだけで心が踊るというものだ。是非とも目にしたい」


「ムルトさん、頑張ってくださいね!」


「あぁ。見つけたらイメルテにも報せよう。期待して待っていてくれ」


「はい!本日はお疲れ様でした!」


「あぁ」


そう短く返事をし、ギルドを後にする。

晩飯をハルカとともに摂り、真っ直ぐに宿へと戻る。

宿へと戻った後は、湯を使って体を拭いた。

体を綺麗にした頃には、もうすっかり夜だった。ハルカは早々に寝てしまい、俺はしばらく月を眺めていた。


(最近は、順調だな)


特に問題という問題もなく、冒険者のランクも上がっている。イメルテとも再会し、改めて話をできた。

今日は金を稼ぐこともできたし、いいことばかりだ。


(ずっとこうだと、いいのだがな)


俺はそう考えながら、静かにただただ月を見ている。今日の月は、雲と建物に隠れていて、見辛かった。

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