骸骨と昇格試験4/4

ギャバンに向けられた視線と問いに、思わず固まってしまう。


「どうなんだ?」


「……あぁ。私は人間ではない」


「だろうと思ったぜぇ。骨人族か?」


予想外の言葉だった。モンスターだとは思われてないようだ。だが、骨である部分までは合っている。


「なぜそう思う?」


「お前みたいなやつと、前に会ったことがあってな。確か、コットンってやつだ」


「コットン?」


「あぁ。骨人族のコットンだ」


「そいつは、大きな槌を持っていたか?」


「あぁ!そうだ。お前さん、コットンのことを知ってるのか?」


「あぁ。良き友だ」


「やっぱりな!初めにお前を殴った時、あいつと同じ感触を感じてよぉ」


ギャバンはコットンとの話をしてくれた。

昔、コットンが駆け出しの頃、俺と同じように素性を隠して、人間のギルドで昇格試験を受けたらしい。ギャバンはその時の試験官で、コットンの相手をしたらしい。


俺は仮面を外し、この顔を見せた


「俺には骨人族の見分けがつかねぇから、見たところで覚えられねぇが……お前の顔は覚えておく。よし、んじゃぁ、模擬戦といこうか」


「あぁ。よろしく頼む」


俺は仮面をつけ直し、剣を構える。


「コットンの奴は中々に強かった。お前も、全力で来てくれよ?」


「あぁ!」


俺は身体強化と危険察知を発動した。

ギャバンは例に漏れず、殺気を俺に放つ。が、俺はそれを無視し最高速度でギャバンの懐へと飛び込んでいった。

ギャバンはそれに驚きもせず、冷静に俺の突進を避けた。


「まだまだ鈍いぜ?」


ギャバンは体を捻り、その力を使って、抉るように拳を繰り出す。俺はそれを危険察知で感じ、月読で見て、カウンターに繋げる。


「なにっ!」


真っ直ぐに飛び込んだのは、作戦の内だ。

俺は月欠を手放し、左腕でギャバンの拳を逸らし、右腕でギャバンの顔に攻撃する


「迷わず顔面たぁ、いい狙いだな。だがっ」


ギャバンは空いた手で俺の拳を受け止め、そのまま回転し、俺を投げ飛ばした。


「ふっ!」


俺は投げ飛ばされながら、懐から短剣を取り、それを投げる


「はっ!遅いね!」


ギャバンはそれを拳で跳ね返した。

ギャバンの戦闘方は、拳闘術だ。穴あきのグローブをし、刃物などは手の甲にある鋼でできた部分で受け止めている。

俺の手持ちは全て使ってしまった。

剣と短剣はギャバンの後ろにある。

だが、ギャバンの後ろに、2つの人影が浮かび上がる


「んっ!」


ギャバンはそれに気づき、裏拳で、俺の仲間・・を粉砕した。スケルトンだ。スケルトンは壊される前に、剣を俺に向かって投げていた。俺はそれに合わせ、走り出し、剣を受け取る。


「魔法も使えるんだなぁ!」


「あぁ!出し惜しみはしない!」


俺は左手を前に出し、魔法を使った


「ダイダルウェーブ!」


大きな波を作る。


「な、なにぃ?!」


その津波は、訓練場の半分ほどの大きさをしている。俺はその波の上を走っていた。ダゴンからもらったブーツのおかげだ。


俺はそのまま頭上からギャバンに近づき、剣を構える。


「はっはっは!やるなぁ!だがっ!!」


ギャバンは肩幅に足を開き、腰を落とし、拳を作る。俺は月読でその先の動きを予測した。


(正拳突き、か?)


予測した動きは、捻りのきいた正拳突きだ。


「海面割りぃぃ!!」


月読で見た通り、ギャバンは正拳突きを放つ。俺は思わず驚いてしまった。

俺の作り出した、訓練場を覆うほどの津波を、ギャバンは吹き飛ばした。

俺の走っていた波は、消え飛び、俺は宙に放り出される。


(しまった!)


俺は空中で体勢を整えるため、風魔法を操り、空を飛ぼうとする。


「遅いな」


俺のすぐ後ろから、その声は聞こえた。先ほどまでギャバンがいたところには、地面に2つのヒビが入っており、ギャバン本人の姿はなかった。それも当然だ。ギャバンは今、俺の後ろにいるのだから


「作戦はよかったぞ?掌底っ!」


ギャバンの掌が、俺の背骨に叩き込まれたようだ。踏ん張ることのできない俺は、そのまま地面へと転がされていく。


ギャバンが吹き飛ばした波が、無数の雨粒になって、降り注いでいた。


「勝負、あったな」


地面に転がる俺を、ギャバンが上から見下ろしてくる。


「あぁ。俺の負けだな」


「敗因はなんだと思う?」


「……剣を手放したこと、か」


「いや、違う。手を凝らしすぎたことだ」


「手を凝らしすぎた?」


「あぁ。お前は出し惜しみをしない、と言って、魔法やら剣やら短剣やら、色々手を尽くしたが、俺はこの拳ひとつで、お前に勝った」


「それが?」


「確かに、手数は大事だ。だがな、こだわりを持った方がいい。剣を使うなら、剣を中心にした攻め方、魔法なら魔法を中心に置いた攻め方、だな」


「そう、か」


「んま、試験はこれで終わりだ。2人とも、上に上がっててくれ」


「あ、あぁ」


ギャバンに言われるがまま、俺とハルカはギルドのロビーへと上がっていく。


(こだわり、か)


俺のこだわりとはなんだろうか?剣か?魔法か?それとも斧か、わからないことが増えてしまった。

ハルカは考え込む俺に話しかけず、じっと後をついてきてくれる。


ロビーに上がると、まだ合格者発表はされていないみたいで、先ほど訓練場で戦っていた冒険者たちが、休憩しているのを確認できた。

俺たちも合格発表を待つために、手短な席に着く。


「ハルカのこだわりとは、なんだ?」


「私の、ですか?」


「あぁ」


「そうですね……ムルト様のお役に立つことでしょうか」


「俺の?」


「はい。いつもの依頼でもそうですが、ムルト様のお役に立つために、モンスターを倒します。今日の試験だって、ムルト様のお役に立つために、ランクを上げるのですから、それだけで頑張れましたよ」


「そうなのか」


「はい!」


「では、俺のこだわりとはなんだと思う?」


「私ではそれはわかりません……ムルト様はムルト様ですから」


「俺は俺、か」


「はい!」


「ありがとう。何かわかった気がする」


「お役に立てて何よりです!」


ハルカの笑顔が、とても輝いて見える。ハルカのこの顔を見るために、頑張っているのかもしれない。


ハルカとしばらく今後の予定について話していると、掲示板に張り紙がされた。


「あ、合格者が張り出されるようですよ!」


俺たちの他にも、受験者たちが続々とその掲示板に集まり、喜んだり悔しがったりしている。


「受験番号で合格者が発表されてるみたいですね」


俺たちの番号は、7と8だ。掲示板に張り出されている番号を、上から順に見ていく


1.2.4.6.10.14.15


7と8番は載っていなかった。合格者は7名、俺たちはその中に入っていなかったようだ。


「俺たちの番号は入ってないみたいだな」


「そう、ですね……」


ギャバンに負けた俺が落ちているのならばわかるが、ハルカは試験官に勝っていたのだ。なぜハルカは合格していないのか、疑問が浮かぶ


「ハルカが落ちてるのは腑に落ちないな」


「勝ってしまったのが悪いんでしょうか」


「勝ちに悪いもないと思うがな」


俺たちはプレートを返却するために、受付へと向かった。受付をしていたのは、またしてもイメルテだった。


(この娘とは、何かと縁があるようだ)


ただの偶然だとは思うが、イメルテが受付にいるのを久しぶりに見た。ボロガンで2度ほど世話になっただけだが。


「ムルト様とハルカ様ですね。そのプレートを持って、ギルド長の部屋にお越しくださいとのことです。私がご案内致します」


イメルテはそう言うと、もう1人の職員に引き継ぎをし、書類等を持って俺たちを先導した。


「何か、悪いことしちゃったんですかね……」


「ハルカが試験官を倒したのがダメだったんじゃないのか?」


「えぇっ!私のせいですかっ!ムルト様、手間をかけさせてしまって申し訳ありません……」


「冗談だ、冗談。きっと別の話だろう」


イメルテに連れられ、ギャバンが待っているという部屋に入る。

殺風景な部屋だった。長テーブルがひとつに、それを挟むようにソファーがふたつ、

執務用の机と本棚がひとつという、機能性だけを求めた部屋。


「おぉ、来たか、とりあえず座れ」


そう勧められ、俺とハルカはソファーへと腰を下ろす。ギャバンはその対面に座り、イメルテから書類を受け取り、それに目を通す。

イメルテは俺とハルカにお茶を差し出し、後ろに立っていた。


「ふむ。これはお前らが今まで受けた依頼の達成記録だ。底ランクからコツコツ討伐やらなんやらしているが、最近はC、時々Bランクのモンスターを仕留めているようだな」


そう言ってギャバンが見せたのは、俺たちの討伐記録。ギルドカードの裏面に浮かび上がる、今まで狩っていたモンスターの一覧だ。


「これに何か問題が?」


少し高圧的になってしまっただろうか、俺はギャバンに問いかける。


「いやいや!全くないね。下の合格発表はもう見たよな?」


「あぁ。俺とハルカの番号はなかった。俺はともかく、ハルカの番号がのっていないのはおかしな話ではないか?」


俺はついつい正直にそう言ってしまった。


「あぁ、そうだな。下の合格者は、DからCランクへの合格だ。Aランク冒険者を負かしたその娘と、負けはしたが俺にスキルを使わせたお前、2人とも強さには全くもって不満はない」


「なら、なぜ不合格なのだ?」


「俺は一言も不合格だなんて言ってないぜ?

お前らは、Bランク合格だ」


俺たちは耳を疑った。ギャバンは確かに言ったのだ。


「お前らは飛び級、今日からBランクとして活動をしてもらう」

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