骸骨と昇格試験3/4
俺たちの出番はまだだ。
ハルカは照れた少し後、すぐにギャバンを射殺すような目つきに戻っていたが、それはそれで良しとした。
(ふむ。またか)
今、11人目の受験者がAランク冒険者と対峙している。
Aランク冒険者が明確な殺気を受験者へと放つ。受験者をその殺気を感じ、体を震わせ、少し間をあけ、武器を手にかかっていく。
Aランク冒険者はそれを余裕を持って躱し、受け止め、軽い打ち返しをする。
(やはりな……)
俺は、ギャバンを合わせた3人の戦い方を観察し、2つの共通点を見つけることができた。
まずひとつめは、最初に殺気を当てることがある。
ギャバンに殺気を当てられたものは、2人ほどすぐに降参をしていた。それは残りのAランク冒険者にも言えることで、殺気を当てたり、当てなかったりだ。
そしてもうひとつは、3人共、全く隙がないこと。
模擬戦を始める前、ギャバンは
『わざと隙を作るように指示してある!お前らはその隙を見極め、攻撃をすりゃいい』
と言っていたはずだ。だが、俺が見ている限り、3人とも、隙という隙を作っていないのだ。
「ハルカ、何かおかしいと思わないか?」
ハルカにそう声をかけるが、ハルカには俺の言葉が聞こえていないようだ。
ギャバンを食い入るように見ている。
(俺が殴られたことが、よっぽど腹立たしいのだな)
「あの、すいません、少しお話いいですか?」
不意に声をかけられる。受付嬢だ。
「あの、お名前を聞いても?」
「……名乗る必要がない」
俺は片手を挙げ、素っ気なく答える。だがその受付嬢は引き下がらなかった。
「あの、私、イメルテと言います。前まで聖都市ボロガンのギルドで働いていました。聞き覚えはありませんか?」
「……ないな」
「そう、ですか……もしかしてなのですが、あなたのお名前は」
「次!えぇっと、そこの口に面をつけた女の子!」
受験者を軽くいなしたAランク冒険者が、ハルカを指差しながら言った。
「ギャバンさんとやりたかったのですが……ムルト様!私の戦い、見ててくださいね!」
「あ、あぁ」
ハルカは俺の名前を呼び、やる気満々の笑みを浮かべながら、俺たちに背を向け歩いていく
「やっぱりあなたは……」
(気づかれたか……)
「すまないが、身内の成長を近くで見たいのでな。話ならばまた別の機会に聞こう」
俺はイメルテにそう返事をしながら、ハルカの後を追うように歩く。
(あの娘とはもう道を違えたのだ。今更話すこともない)
思い出すのは、ボロガンでの一件だ。命を賭して少女を助けた。結果、少女は助かることができた。が、俺は追われる身となったのだ。最後に見た、受付嬢、イメルテのあの目。
(悲しみと憎悪、俺に向けられたあの目)
とうに立ち直ったと思ったが、どうしても、人に嫌われるというものには慣れない。良い行いをしたはずなのだが、その代わりに帰ってきたのは、敵を見る目だったのだ。
(さて、ハルカは)
物思いに耽るのをやめ、ハルカの方を見る。
模擬戦直後、殺気がハルカに向かって放たれている。が、ハルカはそれをものともせず、メイスを片手に踏み込んでいた。
俺が見た、Aランク冒険者の初めての隙だった。Aランク冒険者が今まで相手をしていた者たちは、全員が殺気に当てられ、怯み、一瞬の間を作っていた。
だがハルカは違う。殺気を無視し、真っ直ぐに懐に飛び込んでいったのだ。その予想外の動きが、相手を動揺させた。。
さすがAランクというべきか、その一瞬の動揺はすぐに消え、冷静にハルカの攻撃を見て、剣の腹で防御した。
ハルカは自動操縦によって、体を自在に操っている。腕をしならせ、破壊力のある攻撃をAランク冒険者へと叩きつける。
相手はそれを紙一重で避けたと思えば、逃がさないと言わんばかりに、足払いを仕掛けている。Aランク冒険者はそれを後ろに飛びながら避け、距離をとって体勢を整える。
これも初めてのことだった。Aランク冒険者が、攻めに転じたのだ。今までは防御のみをしていたのに、だ。
ハルカも、その攻撃を受け止めつつ、躱し、攻める。2人の攻防戦は、とてもレベルが高かった。
Aランク冒険者の動きは、先ほどまでの動きとは全く違った。恐らく、身体強化などを使い、自力の底上げをしているのだろう。
「くっ!
魔法を使った。
ハルカはそれを確認し、メイスでそれを横殴りにし、打ち返した。
「なっ!!」
相手はそれに面をくらい、明確な隙が出来てしまった。
(勝負あったな)
ハルカの攻撃に体勢を崩してしまった冒険者は、尻餅をついてしまう。ハルカはそれを見逃さず、メイスで相手の頭を狙った。
「参った!!」
尻餅をついているAランク冒険者は、腕を前に伸ばし、そう宣言した。
2人の戦いに注目していた他の受験者達も、各々関心したように声を漏らしたり、控えめの拍手している者もいた。
ハルカの相手をしていたAランク冒険者の顔の横には、ハルカのメイスが寸前で止められていたのだ。
「やったー!ムルト様!やりました!」
メイスを両手で抱え、飛び跳ねて喜ぶハルカには、大変愛嬌があった。
ハルカはこちらに走り込み、抱きついてくる。俺はそれを受け止め、頭を撫でてやる。
「あぁ。よくやった」
「えへへー」
ハルカは、幼さを残した顔で、満面の笑みを浮かべている。
「とんだルーキーがいたもんだな……俺が負けるなんて……っと、次、仮面をつけたあんた」
「待てぃ!」
ハルカに負かされたAランク冒険者が、俺を指してそう言うと、ギャバンが大きな声で待ったをかけた。
「その受験者は俺直々に相手をしよう。最後に回してくれ」
ギャバンはそう言いながら、今しがた相手にしていた受験者の足を横蹴りし、体幹を崩した。そのまま、横回転しそうになる受験者の腹に拳を捻りながらめり込ませ、吹き飛ばした。気絶してしまったようだ。
「わ、わかりました。じゃあ……そこの青い革鎧のやつ」
受験番号順にやっていないので、あの3人の中でもこんがらがっているのだろう。番号で呼ばなくなっている。
俺を合わせ、残り2名。俺の出番はすぐだった。
俺を残し、最後の1人の戦いを、その場の全員が見守っていた。そして、その1人が敗れる。
「よし。全員終わったな。全員、上に移動し、合格発表を待て」
「俺がまだ残っているが」
挙手をし、発言をした
「あぁ。わかってる。おい、俺抜きにして、お前らの方で合格者の検討をしてくれ」
「わかりました」
そう言い、受験者の相手をしていた1人が、礼をし、退場する。その後ろを、他の受験者達が後を追う
「そこの娘っこはあんたの連れだろ?文句なしの合格のはずだ。残っててもいいぜ」
「……ありがとうございます」
ムスっとした顔で、ハルカが感謝を述べる。
「あのっ」
「お前も上だ」
ギャバンは、イメルテにはっきりとそういった。イメルテは名残惜しそうな顔をし、上に通じる階段へと向かう。ふと、後ろを振り返り
「ムルトさん、時間は作ります。なので、是非お話を」
「……」
俺はそれに答えなかった。
イメルテはそのまま背を向け、上へと向かう
「よっし、これで邪魔者はいなくなったな」
「なぜ人払いをする必要がある」
「それはお前が一番わかっているだろう?」
その言葉に、思わず身構えてしまう。
「今から俺のする質問に、正直に答えろ。もしも嘘をつけば……この場で始末する」
「……いいだろう」
「そうこなくっちゃなぁ……お前、人間じゃねぇだろ?」
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