骸骨と吸血鬼

俺達とロンドは睨み合う。答えを間違えれば、すぐに戦闘に入るだろう。


ロンドは1度目をつぶり、一呼吸置いてから、その問いを俺達へと投げかけた。


「セルシアンは、強かったか?」


「あぁ。殺されるかと思ったほどだ」


「そうか」


ロンドは武器をしまい、殺気を引っ込めた。


「脅すような真似をしてすまないな。お前が少しでも嫌な雰囲気を出せば、討伐するところだった」


「俺たちは安心してもいいということか?それならば嬉しいのだがな」


「あぁ。身構えなくてもいい。俺から先に危害を加えないと誓おう。近くに行ってもいいか?話がしたい」


「あぁ」


「感謝する。まずは顔を見せてくれ」


俺はハルカに目配せをし、武器をしまうように合図する。俺は仮面を外し、武器から手を離すが、警戒の色は消していない。


「警戒する気持ちもわかる。ここから話をするとしよう。声は聞こえているだろう?」


「あぁ」


ロンドは俺とハルカから少し遠い場所に立ち、木へと背中を預け、腕を組む。


「単刀直入に言うと、お前には討伐命令が出ている」


「っ!」


ハルカはすぐに杖をロンドに向けた。


「その反応からすると、セルシアンはまともな話をせずに襲いかかったようだな。ミナミ・フジヤマから話は聞いていると思っていたのだが」


俺は料亭での会話を思い出す。


『あなたの知的な行動、話し合いから、私たちはあなたに脅威はないと判断しました』


「脅威がどうのと言う話か?」


「大体合っている。個々で、討伐かどうかの裁量をはかれ、とな」


「して、ロンドの見立ては?」


「問題なし。同じ魔族だ、情の部分もあるが、俺はお前を見逃そう」


「感謝する」


「最後に確認するが、人間に仇なす気はないな?」


「無論だ。むしろ人間と共存して生きたいと思う」


「そうか」


ロンドは腕組みをし、考えていた。少しして、答えが出たようだ、顔を上げた。


「セルシアンの遺品は譲ってもらえるか?

仲が良かったと言えば嘘になるが、それでも仲間だったんだ」


「構わない」


俺はハルカのアイテムボックスからセルシアンの武器や防具、荷物などを差し出した。


「これで全部だ」


「感謝する。これは礼だ」


ロンドは懐から小さめのカバンを出し、セルシアンの遺品をその中へしまっていく。アイテムボックスの効果のあるカバンのようだ。

ロンドは荷物全てをカバンの中に入れると、白金貨を投げ渡した。


「多すぎるのではないか?」


「欲がないやつだな。もらっておいてくれ。礼をする者に恥をかかせるものではない」


「む……ありがたくもらっておこう」


俺は白金貨をハルカにしまってもらう。

すると、ロンドは手に装着していた白手袋も俺へと投げ渡す。


「手袋がなければ、何かと不便だろう。使うといい」


「ロンドはどうするのだ?」


ロンドの手は青白く、爪が赤黒くなっている。人間のものとは思えない。まさに魔族、モンスターのような手をしていた。


「俺は人間の街で生活をしているからな。スペアはある。お前にはこれからも必要だろう?」


「あぁ……だが」


「同じことを2度言わせないでくれ。それほど俺はお前に感謝している」


「……もらっておこう」


その白手袋を、俺は骨ばった手へと装着した。絹のようなものでできており、品もあって手触りもいい。特別な魔法などはついていなかった。本当にただの手袋だ。


「それじゃあ、俺はもう退散するとしよう。

ギルドへの報告は良いものにしておく」


「あぁ。感謝する」


「次出会う時、また同じように話そう」


「あぁ」


その目には、「間違いは犯すなよ」という強い念が篭っていた。殺気は感じなかったが、その目は完全に人ならざる者のそれだった。

ロンドは影の中に沈み込んでいき、その姿は見えなくなる。人に見られている感覚も、近くにいる気配も感じない。ロンドは完全に姿を消したようだ。


「不思議な人、でしたね」


「あぁ」


優しくも、とてつもない力を有している魔族。

真祖吸血鬼と名乗っていたが、吸血鬼は人間と敵対しているとよく聞く。ロンドはなぜ人間に手を貸しているのか気になるところだが、人間に狩られる存在のモンスターである俺が、様々な人々と出会い、生活しているのだから、不思議なことではないのだろうが。


「精神的に疲れただろう。もう少しここで休んでから出発しよう」


「はい!」


俺たちは今度こそ最低限の警戒をして、休むことにした。





その後、休憩を挟みつつ、移動をし、月が出てくる時間になった。


「今日はここらで野宿にしよう」


「はい!」


俺はハルカのアイテムボックスから、薪などを出し、火の準備をする。火や水など、魔法で出せるものは全て俺が出している。ハルカにやらせれば、大惨事になるだろう。

ハルカは自分の分の食器を用意し、調理を開始する。

今日は猪が襲ってきたので、それを狩り、晩飯とした。素材は売れるし、肉は3日分ほどはあるだろう。


ハルカが食事をとり、俺が水を出して食器を洗う。

その後は2人で魔力循環をし、鍛錬をする。

ハルカにリトルファイアをさせると、バーナーのような火が指先から出るが、それをどうすればコントロール出来るかなどを2人で議論し、眠る前には月を見上げ、2人で語る。


「機械都市ってどんなところなんですかね」


「機械、というのはゴーレムなどのことか?」


「ゴーレムは機械……なのでしょうか?」


「今から楽しみだな。だが、まだまだ道のりは長い。強くなりながら向かっていこう」


「はい!」


「さぁ、もう寝るといい。俺は見張りをしている」


宿では俺も睡眠をとるが、野宿では睡眠をとることはない。いつ危険が迫ってくるかわからないからだ。危険察知のスキルがあるから、眠っていても敵には気付けるのだが、気配を完璧に消せる敵がいないとも限らないのだ。それらは目で、肌で感じるしかない。


(ロンドはわざと気配を出していたが、どこに隠れているかまではわからなかったしな)


「ここで寝てもよろしいですか?」


ハルカは毛布を羽織り、俺の右肩へと頭を預ける


「ハルカが良いなら俺は構わない」


「それでは、失礼しますね」


ハルカは体を俺に預け、少しすると静かに寝息をたて始める。


「ムルト様……好き、です」


寝言のようにハルカが呟いているが、起きていることには気づいている。

俺は気づいていないフリをしつつ、小さな声でそれに答えた。


「俺も好きだぞ」


眠っているはずのハルカは、少し顔を赤くしてにやける。

青い月の光は、変わらず俺たちを包み込んでいた。

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