骸骨の和装

翌日、俺たちはできていなかったヤマトを、観光していた。


「ヤマト服体験っていうのがありますよ!」


ハルカが指差した服屋に入る。

ハルカのいた世界では、和服、というのだとか。街を歩く人々も同じようなものを着ている人たちがいた。俺たちが泊まっている旅館の女将も和服を着ている。


「体験してみませんか?」


「あぁ。行こう」


当然俺は、街中でローブとフードを脱ぐことが出来ないので、体験はハルカだけだ。


「どう、ですか?」


薄ピンクの生地に、赤やピンクなどの花柄が散りばめられている。薄紫の帯でそれらを纏めている。

靴は下駄というものを履いている。


「うむ。美しいな」


「それだけ、ですか?」


「うーむ……と、とても似合っている」


「えへへ。ありがとうございます!」


正解の言葉はなんなのか。昨日のように愛い、と言えばよかったのか。俺は腕を組みながら悩んでいた。すると、ハルカから提案が出た。


「私、和服の着方は知っているので、ムルト様も着てみませんか?」


「俺は大丈夫だ。ハルカは」


「いいからいいから来てください!」


ハルカは、更衣室に入り、和服を持ってくる。

店員に、「私が着せてあげるので、待っていてください!」


と、中に入らないように言っていた。

俺は、ローブを脱ぎ、その骨身を晒した。

ハルカが選んだ和服を、浴衣、と言うらしいが、その黒色の浴衣を俺に着せてくれた。

帯は青色で、丸い模様が入っていた。


「満月みたいで、綺麗でしょう?」


「あぁ」


帯は貝の口結びというものらしい。青色の羽織を着せてもらった。俺は足袋を履き、下駄を履く。

腰に月影を差し、短剣などは懐にいれた。

月の仮面を被れば、完成だ。


首回りをきつく締め、骨が見えないようにする。後頭部にはカツラ、というものを被った。


「すごく似合ってますよ!」


「あぁ。その、ありがとう」


「いえいえ!」


俺たちはその浴衣一式を購入し、街を練り歩く。出店で団子というものを買ったり、焼きそば、たこ焼きなどを食べた。

食べたのはハルカ1人だが。


ハルカの横顔をちらちらと見てしまう。

長く美しい黒い髪に、切れ長の黒目、口元には白い狐口面をしている。少し、惹かれてしまうものがある。


「ムルト様、どうかしましたか?」


「……ハルカは、とても美、か、かわいいな」


「えっ!あ、ありがとうございますぅ……」


消え入る声でハルカはそう言った。

もじもじと手を前で握るハルカの姿に、またもや惹かれる。

とても良い


「旅館に、戻るか」


「はい……」


辺りはもう暗くなっており、月が少しだけ顔を出していた。

旅館に戻り、食事をとる。

刺身や寿司といった、豊富な食べ物がたくさん出てくる。それらは全て2人前で、ハルカは俺の分も食べてくれている。


「無理をしなくてもいいんだぞ?」


「大丈夫ですよ!なんだか、するする入っていくんです!」


ハルカは口いっぱいに食べ物を含み、咀嚼していく。楽しそうに食事をしている。

焼き魚の骨なども綺麗に抜き、完食した。


「よく食べきったな」


「とても美味しかったです!お腹はいっぱいですが、まだまだいけると思います」


「そうか。美味しく食べられたのであれば、是非もないな」


「それ、使い方合ってますか?」


「どうだろうか」


ハルカと食休みがてら雑談をし、露天風呂に入る。昨日と同じで、ハルカも一緒に露天風呂に入ってきた。俺は骨を一緒に洗ってもらい、ハルカも体を洗ってほしいとのことで、背中を洗ってやったのだが、「前もお願いします」と、顔を真っ赤にさせながら言われたが、「それぐらいはできるだろう」と、自立を促すためにやらなかった。


風呂を上がり、火照った体を冷ましながら、ハルカのアイテムボックスから、セルシアンから手に入れた戦利品を並べた。


「使えるだろうか」


セルシアンの持っていたものはあまり多くなく、特に触れるものがない。


「これなんてどうですか?」


ハルカが差し出したのは、緑色の指輪だ。何の変哲も無い石のようなものがついているが、この指輪は【魔力の指輪】というもので、装着者の魔力をレベルに応じて引き上げると書いてあった。


「俺よりかはハルカがつけたほうがいいだろう。ハルカは魔法が主力になるのだから」


「ムルト様はMPが多くないんですよね?でしたら、やはりムルト様がつけたほうが良いのではないでしょうか?」


ハルカはなぜか引かなかった。が、俺はどうしてもハルカにつけてほしい。というと、ハルカは顔を赤くしつつも、それを了承した。指輪を左手の薬指につけ、俺が月読でステータスを見る。



名前:ハルカ

種族:魔人族


レベル:47/100

HP5230/5230

MP4595/4595(+470)


固有スキル

鑑定眼

氷獄の姫アイス・プリンセス

魔力操作

アイテムボックス

自動操縦オートパイロット

美食の徳 new



スキル

杖術Lv5

経験値UPLv10

火魔法Lv3

聖天魔法Lv1 new

氷雪魔法Lv1

暗黒魔法Lv1 new

打撃耐性Lv2

状態異常耐性Lv3 new

遊泳Lv5 new

潜水Lv3 new


称号

転生者、転生神の加護、忌子、勇者の卵、



MPが470増えている。増えるMPは些細なもののようだ。そんなことより、気になるものが見える。


「ハルカ、美食の徳というスキルがついているぞ……」


「えっ!なんですかそれっ!」


ハルカが鑑定眼を自分の手へとかけたようだ。



美食の徳

暴食の大罪と、堅固の美徳が合わさったもの

丈夫な体を持ち、嗅覚や咀嚼力、食べれるものか食べられないものかがわかる

食べたものが血肉となり、体が強化される。



「なんだか、すごい能力ですね」


「あぁ。すごいな」


ハルカはチート、と言っていたが、本当にすごい能力だ。先ほど開花したのかはわからないが、これはハルカにとって力になってくれるだろう。


「そうだ!ムルト様もセルシアン様を倒したので、レベルアップしたんじゃないですか?」


「あぁ。そうだな。一緒に確認しよう」


俺は自分の手に月読をかける。ハルカも鑑定眼で俺を見ているようだ。



名前:ムルト

種族:月の骸ムーン・スケルトン


ランク:B

レベル:8/70

HP5600/5600

MP1980/1980


固有スキル

月読

凶剛骨

下位召喚

下位使役

魔力操作

変温

欲器(憤怒・怠惰)

火事場の馬鹿力 new



スキル

剣術Lv9

拳闘Lv1 new

戦斧術Lv1 new

灼熱魔法Lv2

風魔法Lv6

水魔法Lv5

暗黒魔法Lv7→8

危険察知Lv8

隠密Lv10

身体強化Lv7

不意打ちLv6

カウンターLv3→4


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者、欲深き者



レベルが8に上がり、HPが上がっている。

スキルのレベルが僅かに上がり新しいスキルも増えている。字を見ればわかる。

戦斧術は、斧に変わった月影を使っていたからだと思う。拳闘も、拳を打ち付けたからだろう。

そして、一番気になるのは、新しい固有スキルだ。


火事場の馬鹿力

HPが残り1割を下回ると発動する

圧倒的な力を行使することができる。



「ふむ。なかなかいいな。ハルカの美食には負けるが」


「そんなことありませんよ!ムルト様が強くなっている、ということは、月影も強くなってるのではありませんか?」


「そうかもな、見てみよう」


俺は月影に月読を使う。



月光剣ー月欠つきかけ

所有者と共に成長する

特定の魔力を流すことで、強化、変形させることができる。


変形可能武器

戦斧

多節鞭



月光剣の名は、月欠になっていた。

新しいスキルが増えている。

俺は試しに、セルシアンで使っていた憤怒の魔力を少し流す。すると、月欠は赤く輝き、その姿を変えた。

牛の頭蓋の両端から、赤く透き通る刃が突き出る。


「ほう」


「セルシアン様と闘う時に使っていた斧ですね」


「あぁ」


普通の俺の魔力を通すと、青く透き通った刀身が美しい、長剣へと戻った。扱いやすさはこちらが一番だろう。バルバルからずっと使ってきているのだから


多節鞭にするのはやめた。まだ使ったことのない怠惰の魔力。憤怒と同じように、短時間で使えるかわからなかったからだ。


俺たちは互いの確認、手荷物やアイテムボックスの中身を確認し、3時間ほど月を見て、寝ることにした。


ハルカは俺の布団へと入ってくる。

人肌が恋しいのだろう。

変温を手に入れた俺は、寒さや暖かさを感じるようになった。任意で遮断することもできるが、熱を感じたほうが生きてると思える。


そして俺は、怠惰の罪で眠れるようになったので、目を瞑り、寝ようとする。


「ムルト様、おやすみなさい」


耳元からハルカの優しい声が聞こえる


「あぁ。また明日だ」


俺は短く返事をし、深い眠りに落ちた。

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