骸骨と牛の仇

俺はセルシアンに向かって斧を振り下ろす。

セルシアンは持ち前の速さでそれを避け、横蹴りを俺の腹へいれる。


ー僕の力を、使ってー


声が聞こえた。その声は、紛れもなくモブのものだ。モブが俺に、力を貸してくれている。


(ありがとう)


先ほどの俺であれば、無様に地面へ転がされていただろう。だが、今の俺にはモブの力が加算されている状態になっている。


(踏ん張れる……!)


俺は全身に力を込め、踏ん張った。

鋼鉄を蹴ったような音が聞こえる。セルシアンが顔を顰めていることから、少しでもダメージが通っているようだ。


「なんだぁ?!急に硬くなりやがって!」


セルシアンの攻撃を耐えたとしても、こちらが攻撃を与えなければ勝てるものも勝てなくなってしまう。俺の斧での攻撃は外してしまった。俺は破壊された左腕をセルシアンに向け、魔法を放った


「ーフレイムジャベリンー!」


炎の魔法。大きな炎の槍がセルシアンに向かって放たれる


「ーサイクロンジェットー」


セルシアンが手を前に出し、魔法を発動する。暴風が吹き、俺の炎が掻き消された。攻撃が通ることはなかったが、小さな隙を作れた。俺はすぐに体勢を立て直し、セルシアンを正面に見据える。


「チンケな魔法しか使えないのかぁ?もっと俺を楽しませてくれよ!」


「あぁ。任せろ」


俺はセルシアンと距離を取り、水魔法を使う。


「ウォーターボール!」


俺は水の球を5つ、セルシアンの周りに放つ


「外れてやがるぞ!このポンコツが!」


「凡骨か……果たして、どうかな?ーフレイムジャベリンー!」


俺はセルシアンの周りに広がっている水に、それを当てた。すると、水が熱により蒸発し、水蒸気が発生する。


「ちっ、目眩しか!」


そう。俺の狙いは目眩し。俺の姿を隠すことだ。俺の狙い通りにことは運ぶ。そして俺は、固有魔法を発動させる。





「ちっ、目眩しか!」


俺は骸骨スケルトンと距離を離しつつ、水蒸気から逃れるため、後ろへ飛ぶ。


(脳味噌がねぇくせに、頭は回るようだな)


たかだか雑魚モンスターの骸骨だと思って、甘く見ていた。

加えて、いきなりパワーアップをしたようだし、あの骸骨が持っていた斧は見覚えがあった。

かつて苦汁を飲まされたあの赤いミノタウロス。いい一発をもらって一瞬気を失ってしまったが、俺はすぐに目を覚まし村に向かうと、斧で自分の首を切り落としていたようだった。むしゃくしゃした俺は、口封じも含めて村人を皆殺しにしたが、この屈辱は忘れない。


(あいつの目の前で、小娘をズタズタにしてやる)


俺は思考をすぐに目の前の骸骨に戻す。水蒸気が晴れてくる。すると、目の前には、無数の骸骨。

30体ほどはいるだろうか。

そのどれもがちゃんと五体満足でいる。


「はっ!マヌケが!そんだけでかい武器持ってりゃあ本物ぐらいわかるぞぉ!」


俺は持ち前の速さを活かし、一瞬で斧を持つ骸骨へ近づき、拳に魔力を付与し、打撃属性をつける。その拳で、骸骨の頭を粉砕した。


「仲間を犠牲にするのは心苦しいが、負けられないのでな」


本物だと思っていた骸骨の横にいた骸骨が、俺の脇腹へと拳を捻り込んできた。


「ぐぅっ!」


それはとてつもなく重い一撃だ。肋を折られたような感覚がする。


(2、3本は持ってかれてやがる……!)


俺は無様に地面を転がってしまった。


「く、くそっ、な、なんでだ……!」


「命の取り合いをしているのに、こちらの手の内を晒すわけがないだろう」


骸骨は俺が粉砕した骸骨から斧と仮面をとると、それを装着した


「さぁ、この死合、勝たせてもらうぞ!」


無数の骸骨が、俺へと群がってくる。





俺は距離を詰め、回収した斧でセルシアンに攻撃を繰り出す。が、それは簡単に止められてしまう。だが、他の仲間たちがセルシアンを切りつけていく


「こなくそぉ!!」


後ろからセルシアンを切りつけた仲間が、頭蓋骨を粉砕されてしまう。その前に、人狼族からもらった短剣を、他の仲間へと投げ渡す。


「くそがぁっ!」


猛攻は続く。正面からは主力の俺が攻め、短剣を持った仲間たちが隙を見つけて切りつける。仲間たちはレヴィアの短剣と人狼族の短剣を持っている。


作戦は見事にうまくいっていた。

水蒸気で目眩しをした後、俺は下位召喚でGランクのスケルトンを無数に出した。

その一体と頭蓋骨を交換し、全身の主導権を握る。時間が来てしまえば、固有魔法で生み出した彼らは消え、俺が借りているこの体も消えてしまう。が、勝負はそれまでにつけるつもりだ。MPは無限ではない。最低限のMPを使い、仲間たちを生み出した。


そして俺は仲間2人へと短剣を渡し、隙があるようならば攻撃しろと、やられそうになれば他の仲間に渡せと命令を出した。

俺は正面からセルシアンを攻める。

先ほどとは違い、力もある。俺を無視してしまえば、大ダメージを受けてしまうだろう。

四方八方は仲間たちで固めている。


「くそっ!ーフライウォークー!」


逃げ道は空中のみ。セルシアンは得意の風魔法で上空へと逃げる。だが、そこにも罠はある。


「「「カタカタカタ」」」


3色の魔法が空中にいるセルシアンを狙う。


「くそぉっ!!」


セルシアンはそれを空中で体を捻り交わすが、その先には、俺がいる。


「ふんっ!」


「ぐぅ!」


セルシアンは俺の斧の一撃を細剣で受けた。が、踏ん張ることもできず、地面に叩きつけられてしまう。そして、周りには仲間たち。逃げ場はないのだ。

上に逃げれば、3人のスケルトンメイジが睨んでいる。下には俺とGランクのスケルトン達。数は力なのだ。


「くそぉ……こんな、こんなところで……負けられるかぁ!!」


セルシアンは細剣を構え、前進する


「ー千本槍サウザンドラッシュー!!」


打撃を付与した細剣で、次々と仲間達を粉々にしていく。


(まだ奥の手があったのか……!)


ー僕なら、止められるー


また、モブの声が聞こえる


(任せていいのか?)


ー僕を信じてー


(あぁ。信じている)


俺は体の主導権を手放した。

今、俺の体は、俺じゃない者が動かしている。


「ブモォォォォ!!」


雄々しい叫びが、俺の口から溢れ出た。

斧をセルシアンに向け、投擲する。セルシアンはそれをさらりと躱したが、俺の体がすかさずセルシアンの目の前に迫り、細剣の先を掴む


「くそ!!」


「ブモォォォ!」


俺の体は2本の腕で細剣を掴んで離さない


「死ねぇえぇぇ!!」


セルシアンは空いた左腕で、俺の頭を狙って拳を繰り出す。だが、その拳は、半ばで切り落とされた。

セルシアンの後ろで、俺の斧を拾った仲間がセルシアンの腕を切り落とした。


「ぐ、ぐぁぁぁああ!」


セルシアンはあまりの痛みに膝をついてしまう。


「俺が、俺様がこんな雑魚モンスターに……!」


俺は斧を仲間から受け取り、高く持ち上げる


「そうだ、これは夢だ。俺がこんな骨に負けるはず、負けるわけが……」


「現実を見て生きろ。あの世でアイラに詫びるんだな」


「っ!なぜ、それをっ」


俺は斧を握る手に力を込める。


(仇をとらなくて、いいのか?)


ー僕もアイラも、もう死んでるからー


(本当にそれでいいのか?)


ーこれは僕の戦いじゃない。君の戦いだ。僕は君の一部になった。だから僕は手伝ってあげた。それだけだよー


(そうか)


モブは確かに俺の中にいる。セルシアンが憎いから手を貸したのではない。モブは今、俺の強さの一部なのだ。


「待っていろ。俺もいつかそちらにいく」


俺は高く握ったを振り下ろす。

セルシアンは赤い血飛沫を上げ、左右に別れた。

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