骸骨と牛の仇
俺はセルシアンに向かって斧を振り下ろす。
セルシアンは持ち前の速さでそれを避け、横蹴りを俺の腹へいれる。
ー僕の力を、使ってー
声が聞こえた。その声は、紛れもなくモブのものだ。モブが俺に、力を貸してくれている。
(ありがとう)
先ほどの俺であれば、無様に地面へ転がされていただろう。だが、今の俺にはモブの力が加算されている状態になっている。
(踏ん張れる……!)
俺は全身に力を込め、踏ん張った。
鋼鉄を蹴ったような音が聞こえる。セルシアンが顔を顰めていることから、少しでもダメージが通っているようだ。
「なんだぁ?!急に硬くなりやがって!」
セルシアンの攻撃を耐えたとしても、こちらが攻撃を与えなければ勝てるものも勝てなくなってしまう。俺の斧での攻撃は外してしまった。俺は破壊された左腕をセルシアンに向け、魔法を放った
「ーフレイムジャベリンー!」
炎の魔法。大きな炎の槍がセルシアンに向かって放たれる
「ーサイクロンジェットー」
セルシアンが手を前に出し、魔法を発動する。暴風が吹き、俺の炎が掻き消された。攻撃が通ることはなかったが、小さな隙を作れた。俺はすぐに体勢を立て直し、セルシアンを正面に見据える。
「チンケな魔法しか使えないのかぁ?もっと俺を楽しませてくれよ!」
「あぁ。任せろ」
俺はセルシアンと距離を取り、水魔法を使う。
「ウォーターボール!」
俺は水の球を5つ、セルシアンの周りに放つ
「外れてやがるぞ!このポンコツが!」
「凡骨か……果たして、どうかな?ーフレイムジャベリンー!」
俺はセルシアンの周りに広がっている水に、それを当てた。すると、水が熱により蒸発し、水蒸気が発生する。
「ちっ、目眩しか!」
そう。俺の狙いは目眩し。俺の姿を隠すことだ。俺の狙い通りにことは運ぶ。そして俺は、固有魔法を発動させる。
★
「ちっ、目眩しか!」
俺は
(脳味噌がねぇくせに、頭は回るようだな)
たかだか雑魚モンスターの骸骨だと思って、甘く見ていた。
加えて、いきなりパワーアップをしたようだし、あの骸骨が持っていた斧は見覚えがあった。
かつて苦汁を飲まされたあの赤いミノタウロス。いい一発をもらって一瞬気を失ってしまったが、俺はすぐに目を覚まし村に向かうと、斧で自分の首を切り落としていたようだった。むしゃくしゃした俺は、口封じも含めて村人を皆殺しにしたが、この屈辱は忘れない。
(あいつの目の前で、小娘をズタズタにしてやる)
俺は思考をすぐに目の前の骸骨に戻す。水蒸気が晴れてくる。すると、目の前には、無数の骸骨。
30体ほどはいるだろうか。
そのどれもがちゃんと五体満足でいる。
「はっ!マヌケが!そんだけでかい武器持ってりゃあ本物ぐらいわかるぞぉ!」
俺は持ち前の速さを活かし、一瞬で斧を持つ骸骨へ近づき、拳に魔力を付与し、打撃属性をつける。その拳で、骸骨の頭を粉砕した。
「仲間を犠牲にするのは心苦しいが、負けられないのでな」
本物だと思っていた骸骨の横にいた骸骨が、俺の脇腹へと拳を捻り込んできた。
「ぐぅっ!」
それはとてつもなく重い一撃だ。肋を折られたような感覚がする。
(2、3本は持ってかれてやがる……!)
俺は無様に地面を転がってしまった。
「く、くそっ、な、なんでだ……!」
「命の取り合いをしているのに、こちらの手の内を晒すわけがないだろう」
骸骨は俺が粉砕した骸骨から斧と仮面をとると、それを装着した
「さぁ、この死合、勝たせてもらうぞ!」
無数の骸骨が、俺へと群がってくる。
★
俺は距離を詰め、回収した斧でセルシアンに攻撃を繰り出す。が、それは簡単に止められてしまう。だが、他の仲間たちがセルシアンを切りつけていく
「こなくそぉ!!」
後ろからセルシアンを切りつけた仲間が、頭蓋骨を粉砕されてしまう。その前に、人狼族からもらった短剣を、他の仲間へと投げ渡す。
「くそがぁっ!」
猛攻は続く。正面からは主力の俺が攻め、短剣を持った仲間たちが隙を見つけて切りつける。仲間たちはレヴィアの短剣と人狼族の短剣を持っている。
作戦は見事にうまくいっていた。
水蒸気で目眩しをした後、俺は下位召喚でGランクのスケルトンを無数に出した。
その一体と頭蓋骨を交換し、全身の主導権を握る。時間が来てしまえば、固有魔法で生み出した彼らは消え、俺が借りているこの体も消えてしまう。が、勝負はそれまでにつけるつもりだ。MPは無限ではない。最低限のMPを使い、仲間たちを生み出した。
そして俺は仲間2人へと短剣を渡し、隙があるようならば攻撃しろと、やられそうになれば他の仲間に渡せと命令を出した。
俺は正面からセルシアンを攻める。
先ほどとは違い、力もある。俺を無視してしまえば、大ダメージを受けてしまうだろう。
四方八方は仲間たちで固めている。
「くそっ!ーフライウォークー!」
逃げ道は空中のみ。セルシアンは得意の風魔法で上空へと逃げる。だが、そこにも罠はある。
「「「カタカタカタ」」」
3色の魔法が空中にいるセルシアンを狙う。
「くそぉっ!!」
セルシアンはそれを空中で体を捻り交わすが、その先には、俺がいる。
「ふんっ!」
「ぐぅ!」
セルシアンは俺の斧の一撃を細剣で受けた。が、踏ん張ることもできず、地面に叩きつけられてしまう。そして、周りには仲間たち。逃げ場はないのだ。
上に逃げれば、3人のスケルトンメイジが睨んでいる。下には俺とGランクのスケルトン達。数は力なのだ。
「くそぉ……こんな、こんなところで……負けられるかぁ!!」
セルシアンは細剣を構え、前進する
「ー
打撃を付与した細剣で、次々と仲間達を粉々にしていく。
(まだ奥の手があったのか……!)
ー僕なら、止められるー
また、モブの声が聞こえる
(任せていいのか?)
ー僕を信じてー
(あぁ。信じている)
俺は体の主導権を手放した。
今、俺の体は、俺じゃない者が動かしている。
「ブモォォォォ!!」
雄々しい叫びが、俺の口から溢れ出た。
斧をセルシアンに向け、投擲する。セルシアンはそれをさらりと躱したが、俺の体がすかさずセルシアンの目の前に迫り、細剣の先を掴む
「くそ!!」
「ブモォォォ!」
俺の体は2本の腕で細剣を掴んで離さない
「死ねぇえぇぇ!!」
セルシアンは空いた左腕で、俺の頭を狙って拳を繰り出す。だが、その拳は、半ばで切り落とされた。
セルシアンの後ろで、俺の斧を拾った仲間がセルシアンの腕を切り落とした。
「ぐ、ぐぁぁぁああ!」
セルシアンはあまりの痛みに膝をついてしまう。
「俺が、俺様がこんな雑魚モンスターに……!」
俺は斧を仲間から受け取り、高く持ち上げる
「そうだ、これは夢だ。俺がこんな骨に負けるはず、負けるわけが……」
「現実を見て生きろ。あの世でアイラに詫びるんだな」
「っ!なぜ、それをっ」
俺は斧を握る手に力を込める。
(仇をとらなくて、いいのか?)
ー僕もアイラも、もう死んでるからー
(本当にそれでいいのか?)
ーこれは僕の戦いじゃない。君の戦いだ。僕は君の一部になった。だから僕は手伝ってあげた。それだけだよー
(そうか)
モブは確かに俺の中にいる。セルシアンが憎いから手を貸したのではない。モブは今、俺の強さの一部なのだ。
「待っていろ。俺もいつかそちらにいく」
俺は高く握った
セルシアンは赤い血飛沫を上げ、左右に別れた。
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