骸骨との決別

俺が武器に手をかけたと同時に、ジャックとサキも武器を構えた。

ハルカもアイテムボックスから木の杖を出して構えた。


「ま、待ってください!あなたに危害を加えるつもりはないの!」


ミナミが両手を広げ、ジャックと俺の間に立った。

ミナミはジャックを睨みつけている。


「……ミーちゃんは、私を脅すんですね」


ハルカは悲しそうな顔をしている。

初めてハルカを見た時と似たような顔。全てを諦めているかのような、力のない顔をしている。


「っ!ハルカちゃん!違うの!話を聞いて!」


「ムルト様、行きましょう」


「頼みます!お話だけでも!あなた達にとっても、いい情報のはずなの!ジャック、サキ、武器から手を離して!」


ジャックとサキは、ミナミに言われた通り武器から手を離した。俺とハルカは武器から手を離さず、3人の動向を注視している。


俺の正体がバレている。正直、遅かれ早かれバレるとは思っていたのだ。

というのも、ミナミには、いや、恐らく3人ともハルカと同じ鑑定眼というスキルを持っているだろう。ただでさえ、ミナミと俺はレベルが離れている。

俺がミナミのステータスを見たように、ミナミも俺のステータスを覗いているはずだ。


「敵対しないという証拠を、見せてもらおうか」


俺は剣に手をかけたまま、静かに3人へそう言った。


「必ず敵対しない。とはまだ言えない……けど、今の段階で敵対する意思はない」


ミナミはそう言うと、腰に差していた刀に手をかけた。俺とハルカは臨戦態勢へと入る。すると、ミナミはその刀を机の上に置いた。後ろの2人も武器を俺の見えるところに出したようだ。

他にも武器を持っているとは思うが、この行動が敵対しないという意思表示のようだ。


「ふむ……話だけは聞こう。ハルカはどうだ?」


「ムルト様がそう仰るのであれば」


「ふむ。決まりだ」


俺も月影をテーブルの上へと置いた

ハルカはそれを見て、少し悩んだが、すぐに自分の杖も俺の剣と並べて置く。


緊張が部屋を支配している中、ミナミが口を開く。


「ご理解のほど、感謝します。それでは、まず私たちの意見ですが……ハルカちゃんの待遇や、あなたの知的な行動、話し合いから、私たちはあなたに脅威はないと判断しました」


「それはあなた達の総意か?」


「はい」


「話し合っているところを見ていないが?」


「魔具を使って会話をしていました。2人とも、あなたはとりあえず悪い人ではない。と」


どうやら、勇者一行は魔具を使って会話をしていたようだ。会話、というよりは思考の伝達のようなものらしい。中々便利そうなので、俺も欲しいと、少しだけ思った。


「俺は見逃してもらえるということか?」


「とりあえず。ですが、ハルカちゃんについては、こちらで保護をしたいのです」


「理由は?」


「私たちはあなたと対話を試みて、それは成功しました。ですが、他の人たちもそうとは限りません。ハルカは魔族のようですし、報告にも上がってません。あなたを狙う冒険者との戦闘に巻き込まれれば危険が生じてしまいます。……ハルカちゃんは私の親友なんです。どうか、私たちに任せてはくれませんか?」


「それを決めるのは私ではない。あくまでハルカだ」


「ミーちゃんは、私さえよければ、ムルト様がどうなってもいいと言ってるんですか?!」


「NOと言えば嘘になる。けど、脅威がないということは上へ報告したいと思う。ムルト殿は聡明な方だと」


「私は絶対にムルト様から離れません。命の危機に瀕しても、です」


ハルカは俺の横に立ち、袖を掴んだ。


「……だそうだ」


ミナミはハルカのそんな姿を見て、肩を落とした。


「……わかりました。ムルト殿、どうかハルカちゃんのことを頼みます。上には、悪いような報告はしないこと、神に誓います」


どうやら頑なに拒むハルカを見て、ミナミも諦めたようだ。

親友を助けたいという気持ちは本当のことだが、何より個人の考えを尊重しているということだろう。


「あぁ。言われずとも、この命に代えても守ってみせる。命など無いに等しいがな」


ここぞとばかりにスケルトンジョークを言ってみる。が、どうやらウケは悪いようだ。


「それでは、私たちはこれで失礼する」


「お待ちください」


俺は剣に手をかけた手を止める


「あなたを狙っている冒険者のことです。この国には私たちの他に、もう1人Sランクの冒険者が来ています。刺突戦車、セルシアン。彼は喧嘩っ早く、あなたを討伐する気満々でいました。お気をつけください」





俺たちはミナミたちと別れた。

刺突戦車、セルシアン

レイピアを使いこなし、目立つのが好きな奴らしい。ミナミたちやハルカと違い、鑑定眼を持っていないので、見ただけでは気づかれないと言っていたが、勘が鋭いらしい。

俺とハルカはフードを目深に被り、仮面もしっかりと着用する


「ムルト様、私の友達が、申し訳ありませんでした」


「ハルカが気にすることではないさ。

いい友人を持っているな」


「……えへへ。ありがとうございます」


俺たちとりあえず宿へ戻ることにしていた。

時間はすっかり夕方になっており、晩飯の食べられる時間帯だ。

レヴィもそろそろ旅館に戻っていることと思い、合流しようとした。

旅館に入ると、女将さんに呼び止められる。


「月の仮面を被ったお客様!」


「む?私のことか?」


月の仮面と言えば俺だろう。たとえ俺ではなくとも、俺以外に月が描かれているものを身に着けたものがいるならば、仲良くしたい。


「えぇ。これ、お連れの人から預かったの。レヴィアって言っていたわ。確かに渡しました。それと、これはレヴィア様の分がキャンセルした代金です」


そう言われ、俺は手紙と金貨を受け取った。


「レヴィア様がお手紙ですか?」


「あぁ。そのようだ」


俺はその場で手紙を広げる。


『ムルトとハルカへ

突然だけど、私は別行動することにするわ。

別に危ないことしようとしてるわけじゃないから、心配しないでね。

ムルト、ハルカのことしっかり守って大切にするのよ

ハルカ、ムルトは馬鹿で鈍感だけど、私が認めた奴よ。大いに頼るといいわ

それじゃ、またね』


手紙にはそう書かれていた。

心配をしないで、と書かれているし、レヴィの強さから俺はあまり心配というものをしていなかった。


「ムルト様、これって……」


「置き手紙のようだな。心配するなと書いてあるし大丈夫だろう」


「ムルト様!探しに行きましょう!」


「む?なぜだ?」


「なぜって、レヴィア様はどこかに行ってしまったんですよ!」


「ここに心配するなと書いてあるだろう」


「ムルト様は仲間が心配するなと言ったら本当に心配しないんですか?」


「心配するなと言っているんだ。大丈夫だろう」


「……私、探してきます」


「探すといっても、どこへ」


ハルカは何も言わず、旅館を飛び出してしまった。

俺はハルカを追いかけ、旅館の外へ出た。辺りは雨が降っていた。


心の中では、レヴィを探したい気持ちもある。が、それをすぐに面倒に感じてしまうのだ。面倒に感じているのは、俺であり、俺ではなかった。


(なんだ、この感情は……)


出ては引っ込みを繰り返す俺のやる気に、もう一つの感情が芽生える。それは、怒りだ。

探しに行きたい気持ちを面倒と感じることへの怒り。俺の心の中に3つの感情が芽生えては消える。

やがてそれは、少しずつ混ざり合うような感じがした。


頬を伝う雫が、妙に冷たく感じる。

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