骸骨と龍神
俺は道端で膝をついてしまう。
2つのしたいという欲が、互いを食いつぶし合う。溢れては消え、それが段々と大きくなる。俺の自我は徐々に蝕まれていった。
(ぐ……ハルカ、ハルカを探さなければ)
俺は軋む体に鞭を打ち、よろよろと立ち上がり、歩き始めた。
魔力を薄く広げ、ハルカのいる場所を探る。
奴隷紋がそれに反応し、ハルカのいる場所を確定してくれる。
(あちらに……ハルカが)
俺は走って向かう。ハルカは山へ向かって走っている。俺はその後を追って、ハルカへと追いつく。
「ハルカ!待ってくれ!」
俺は人目も気にせず、大きな声でハルカに声をかけた
「ムルト様……!」
心の中では、未だに感情がぶつかり合っている。
何もしたくないという、怠惰
自由になりたいという、憤怒
それらは俺の体を奪い、好き勝手に暴れようとしていた。
俺は思い出す。初めて自我を持ったこと。
初めて人と喋ったこと。歓迎されたり、触れ合ったり、様々なことを思い出す。
そして俺は、ふとハルカの顔を真っ直ぐに見る。胸元には、俺と同じ月のペンダント。俺をいつだって支え、導いてくれたのは、いつだって誰かだった。アルテミス様も、ハルカも、ハナも、ジットも、ダンも、シシリーも。俺は皆のおかげで、みんなと出会えたおかげで、ここまで旅をすることができた。
俺はペンダントを握り、息を整える。
「ふぅ……ふぅ、ハルカ、私が、いや、俺が悪かった」
「ムルト、様?」
「俺は、俺のことしか考えていなかったのかもしれない。もっと外を見るべきだった。俺が見ているものは月や景色だと思っていた。だが違う。俺は、俺のことしか見ていなかった。人に良く見られたい。不自由なく旅したい。そんな自分勝手なことを考えていたのかもしれない」
2つの感情は俺の中から徐々に消え去っていた。
あるのは安心感というのだろうか。暖かいものが、俺の中にあるのを、確かに感じる。
「ムルト様……」
ハルカは俺に駆け寄り、抱きしめた。
「私も、私もごめんなさい!ムルト様が考えてること何も知らないで、自分勝手なことを言ってしまって。ムルト様もお辛いはずなのに……」
「いいんだ……俺の方こそ、悪かった……!」
俺たちは互いに抱きしめ合い、存在を感じ合う。その瞬間、その日4度目の龍の咆哮が頭上で轟いた。
「龍神様だ!」
周りの人間が口々にそう言い、空を見上げる。大きな蛇のようなモンスターが、体をくねらせながら、その場に飛んでいた。
その目は俺を捉えていた。
『貴様が、ムルトか』
「あぁ。そういう、貴方様は」
『レヴィアの知り合い、とでも言っておこう』
「レヴィア様の……!」
「まさか、レヴィがどこに行ったか知っているのか!」
『ふむ。禍々しいモノを感じたと思ったが、どうやら封じ込めたようだな』
俺にはその龍が言ったことが理解できていた。禍々しいモノ。というのは、先ほどまでの俺の中に芽生えてた何かだろう。
一歩間違えれば、それは災厄のものとなるところだった。
『貴様が知りたがっているのは、レヴィアの居場所だな?』
「あぁ。貴方様はそれを知っているのか?」
『置き手紙を残すと言っていたが、まだ読んでいないのか?』
「いや、読んだが」
『待て、ここは人が多すぎて気が散る。ついてこい』
龍神と呼ばれたモンスターは、後ろを向き、山の方へとゆらゆらと飛んでいく
「ハルカ」
「はい。ムルト様、行きましょう」
俺はハルカを抱え、風魔法を使って宙へ浮かぶ。
「しっかり捕まっていろ」
「はい……」
体勢を変え、俺は推進力となる炎の魔法を足へ集中させる
「ハルカちゃん!!」
「ミーちゃん!」
「もう、行っちゃうの!」
「うん!」
「……よかった。会えてよかった!また、また会おうね!」
「うん!絶対!絶対会お!!」
ミナミがハルカと話している。同郷で親友の2人。ここで別れれば、また会うのは遠い日のこととなるだろう。
「本当に、いいのか」
ミナミが言っていた、俺が狙われているという話。ハルカが俺と一緒にいれば、ミナミの言う通り危険に巻き込まれてしまう。ミナミについていった方が、安全なのかもしれない。
「はい。ムルト様は、私が行っちゃってもいいんですか?」
「……嫌だ、な」
「うふふ。私もムルト様と離れたくありませんから」
「そう、か」
俺は少しだけ、ハルカを抱きしめる腕に力が入ってしまう。
「ムルト殿!ハルカちゃんを頼みました!」
俺はそれに力強く頷き、そのまま龍神の後を追うように飛んだ。
雨の中を飛ぶのは、気持ちが良かった。
雨が頬骨を叩くが、そんなことは気にならない。俺は腕の中の暖かさだけを感じていたからだ。
俺は気づいていなかった。龍神に見惚れる人々の中で、ただ1人の男が、俺から目を離していなかったことを。そして、気持ちが高揚し、その場で飛び上がってしまい、ローブの隙間から見えしまった俺の骨の足を見ていた男を。
★★★★★
名前:ムルト
種族:
ランク:B
レベル:1/70
HP4200/4200
MP1600/1600
固有スキル
月読
凶剛骨
下位召喚
下位使役
魔力操作
変温←new
欲器(憤怒・怠惰)
スキル
剣術Lv7
灼熱魔法Lv2
風魔法Lv6
水魔法Lv3
暗黒魔法Lv5→7
危険察知Lv8
隠密Lv10
身体強化Lv7
不意打ちLv6
カウンターLv3
忍耐Lv5
称号
月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者、欲深き者
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