骸骨と寿司

「あっ!見えてきましたよ!ムルト様!」


ハルカが指を差す。そこには、カリプソのような港が見え、たくさんの船が停まっている。が、どれもこの船と比べると小さい。


「漁船、ですかね?」


それをハルカに聞くと、返答がくる。網やランタンなどを吊るしているようだった。


「もう少しで到着しそうですね!荷物纏めてきますっ!」


「私も手伝おう」


「ムルト様はここで海の景色でも目に焼き付けておいてください!準備は私とレヴィア様にお任せを!」


「なんで私まで?」


「さぁ!行きましょー!」


ハルカはそう言って、レヴィと腕を組み、連れて行ってしまった。


(ふむ……)


俺は腕組みをし、辺りを見渡す。辺りは一面の海。正面にはヤマトの国が見える。

何より目立つのは、とても巨大な山だった。

頂上の辺りを雲が覆っており、どこまで高いのかもわからなかった。


(雲海、雲海か……)


俺は雲海という言葉の響きに心躍るものを感じる。


「旦那!」


「おぉ。カロン。精が出るな」


「へへへ。ありがとうございやす!」


カロンは港が近づいてくると、他の船員と協力をしながら、帆などを畳んでいた。


「旦那は、何の用でヤマトの国へ?」


「絶景を見るために」


「絶景、でやんすか」


「カロンは雲海というものを知っているか?」


「雲の海、ですかい?見たことはありません」


「そうか」


「それがどうか?」


「私は、それを見ようと思った」





ヤマトの国へと到着し、荷物を持ち船を降りた。


「ムルトの旦那!またどこかで会いましょう!」


カロンは一晩休み、そのままカリプソへと戻ってしまう。ヤマトの国は孤島というわけではないので、俺たちはまた徒歩で旅をしながら様々な場所を見て回る気だ。


「まずは宿だが……」


「あそこなんてどうですか?旅館【花鳥風月】ですって」


ハルカが教えてくれた旅館、という場所はとても豪華で煌びやかだった。


「ふむ。いいな」


「露天風呂なんかもあるらしいですよ!」


「外についているという風呂か?」


「そうです!しかも部屋についているらしいので、ムルト様ともお風呂に入れますよ!」


「おぉ!風呂か。皆で入りたかったのだ。それではここにしよう」


独りで風呂に浸かるのは正直言って寂しかったのだ。俺はすぐに宿を決めた。

その旅館は内装も綺麗で、朝、昼、晩、食事を部屋へ持ってきてくれるらしい。

俺たちは昼には部屋に戻る気はなかったので、朝と晩のみにしてもらったのだが、女将さんという人が気を利かせてくれて、少しだけ宿代が安くなった。一人、金貨3枚だ。


もらった鍵の番号の部屋に入ると、靴を脱ぐ場所があった。


「この下駄箱に靴をいれるんです。室内はカロンさんが連れていってくれたレストランみたいに、土足厳禁なんですよ!」


転生者のハルカは作法をよく心得ている。それが非常に助かった。下駄箱なるものに靴を入れ、襖を開け、部屋の中へと入る。

部屋には畳があり、長テーブルが一つ。四角い布のようなものが置いあったが、これは座布団というらしい。ハルカがお手本に座ってみせた。


足を尻の下に敷くのが正座、というらしいのだが、俺は身がないので正座ができなかった。胡座をかく


「ハルカ、これは?」


俺は部屋に備えつけられているもう一つの襖をあける。すると、その中には長く、大きい座布団が入っていた。


「それはお布団ですね。床に敷くベッドみたいなものです。寝るときに使います」


「お布団、か」


これは、寝るときにまた説明してくれるらしいので、楽しみにして襖を閉めた。


そしていよいよ露天風呂だ。

部屋の奥に小さな脱衣所があり、その先のドアをあけると、石で囲まれた風呂があった。

エルフの集落で入ったものと似ており、俺は嬉しくなる。

部屋の機能や主な使い方を俺たちはハルカに教わった。ハルカは、日本にある高めの旅館。のイメージと言っていた。


「それじゃ、ギルドに行って依頼でもしましょうか」


「そうですね。お金を稼ぎましょう!」


「いや、今日はこの国についたばかりだ。観光でもしないか?」


「あら、珍しいわね。あんたが街についてすぐギルドを確認しないなんて」


「動いてばかりでは息が詰まるだろう?」


「あんたは息が詰まる場所あるのかしらね?まぁいいわ」


なぜだろう。確かに俺は街につくと始めにギルドに行き、手頃な依頼がないかを確かめる。

だが、今日はそんな気が起きなかったのだ。

今日、というよりかは船に戻ってきた頃から、よく休憩をとるようになった。

ダンジョンで何も考えず突っ立ってた頃を思い出していた。




「で、どうするの?」


「ふむ。とりあえず、食事でもとるとするか」


「あそこへ行きませんか?」


ハルカが指差した看板には、【回転寿司!全皿銅貨1枚!!】と書いてあった。

ハルカがいた世界では、人気を誇っていた場所らしい。寿司というものにも興味はあった。


「よし。回転寿司とやらにしてみるか」


店内へと入る。


「何名様ですか?」


「3名です!」


「はい。それではこちらのお席へどうぞ」


ウェイトレスに案内されたのは、4人掛けのテーブルだった。

テーブルの横には、小皿に乗せられ流されていく寿司達。


「作法を教えてくれ」


俺はハルカにそう言った。ハルカは目の前に座っており、レヴィは俺の横だ。さっきじゃんけんをすることになり、決まったのだが、レヴィは幸せそうだ。俺も参加したいと言ったところ、なぜか却下された。


「まず、一度取った皿は戻してはいけません。自分のテーブルに重ねて置きます。そして、お醤油はこちらの小皿にいれて使います」


「ふむ」


俺はハルカに小皿を手渡されるが、別に俺は食べないので、何をする。ということもない。公式な会食というわけでもないので、俺は今回は一皿も食べない。ハルカ達の食事をただ見守る。


ハルカが手に取った白い皿には、海苔というものが巻かれており、魚の卵が乗った寿司だ。いくら、というらしい。赤い卵は艶があり、輝いて見えた。

レヴィは魚ではなく、肉系が中心だ。龍族だということを再確認する。オークの肉を火で炙ったものや、はんばーぐというもの、いなりや玉子焼きといったものばかりを食べている。


「何よ?欲しいの?はい、あーん」


レヴィがそう言って、俺に玉子焼きの乗った寿司を差し出してくる。


「レヴィア様ずるいですよ!」


「じゃんけんで勝った特権よ」


俺は仮面をずらし、口を開ける。

味も匂いもわからないが、食感だけはわかる。柔らかい玉子を歯で切り、それが、シャリとともに混ざる。


「ふむ。わからないな」


「そう」


「あぁ」


俺は短く返事をし、二人の食事を見守る。

ハルカは11枚、レヴィは29枚を平らげた


「合計で銀貨4枚となります」


俺達は会計を済ませ、回転寿司を後にした。

食べた寿司の数に対したら、とても安いと思った。

異世界で流行っているのも頷けるというものだ。


(味覚……か。俺も欲しいな)


切実に食事を見ていて、そう思った。


「あっ!ムルト様!あそこ!和服が売ってますよ!」


俺はハルカに手を引かれ、それに着いていく。とても無邪気な笑顔を見せていた。

出会った当初とは比べ物にならないくらい明るくなっただろう。俺はその笑顔を見るたびに、自分がしてきたことは良いことだったと思えてくる。


「ハルカ、急ぐと危ないぞ」


「えへへ、大丈夫ですって」


ハルカは曲がり角から出てきた人物と激突してしまった。


「ご、ごめんなさい!」


「こちらこそごめんなさい?怪我はない?」


曲がり角から飛び出してきた女性は、綺麗な黒髪に、透き通った綺麗な黒眼、健康な素肌が輝いている見目麗しい女性だった。腰には反りのある刀という剣をさし、整った顔立ちからは、冷たさを感じるが、何か安心するものも感じた。


「うちの者がすまない」


「いえ!私こそよそ見していて、ごめんなさい!」


「ミナミちゃん早いよ〜」


「ミナミー、あっちの呉服屋、なかなかかっけーの売ってたぜ?ん?そいつら誰だ?」


「サキ、ジャック。この人達に、私がぶつかってしまって。喧嘩とかじゃないから気にしないで」


「気にしないって言っても、勇者にぶつかった人の方は恐縮しちゃうだろ」


金髪の男は、笑いながらそう言った。

その言葉に、俺は反応する


(勇者?)


俺は月読を発動させ、ハルカとぶつかった女性をよく見た。


名前:ミナミ・フジヤマ

種族:人族


レベル:76/100

HP12060/12060

MP4200/4200


固有スキル

鑑定眼

無敵の剣撃オールカット

魔力操作

アイテムボックス

絶歩

桜吹雪

居合斬り

正義の美徳



スキル

抜刀術Lv8

拳闘術Lv6

経験値UPLv10

炎魔法Lv8

聖天魔法Lv6

打撃耐性Lv8

危険察知Lv4

身体強化Lv10

魔法耐性Lv8

状態異常耐性Lv6

水泳Lv5



称号

転移者、勇者、転生神の加護、モンスターの天敵、死を運ぶ者

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