骸骨の帰還
俺が船に戻された時、陽が少し傾いてるほどで、そこまで時間は経っていないようだった。
(あそこにいたのは3時間ほどか……)
船上で見たダゴンの触手は、その一本のみで先ほど、俺に攻撃をしようとしてきたクラーケンと同じようなプレッシャーを放っていた。が、俺を船に降ろしたのを確認すると、触手がチロチロと動き、海底へと戻っていった。
どうやら、お別れを言ってくれたように感じた。
俺は泣きじゃくるハルカを慰めながら、部屋へと戻る。
「……遅かったわね」
ベッドで横になっているレヴィが、顔も向けずに俺にそう言った。
「あぁ。心配をかけたか?」
「……そうね。かけたわ」
レヴィが素直にそう言い、俺へと顔を向ける。目元はハルカと同じように赤みを帯びていた。
「泣いていたのか?」
「……!泣いてなんかいないわよ!」
レヴィは俺に悪態をつくが、それも優しさだと理解することができる。
レヴィとハルカは二人して俺に抱きついてくるが、俺はその温もりを感じることができなかった。
(だが、悪くはないな)
俺は二人の頭に手を置き、二人を撫でた。
「ムルト。あんた、磯臭い」
★
とりあえず、着替えた。レヴィにもらったスーツはぬるぬるのぬめぬめだった。どうやら臭いらしい。俺はスーツを脱ぎ、袋の中にまとめ、生活魔法のクリーンで奇麗にした後、ハルカのアイテムボックスの中へと入れさせてもらい、俺はいつもの風貌に戻ったのだったのだが、俺の体は本来のスケルトンと同じ白色に戻っていた。正確には少しくすんでいるのだが、近くで見るとわかるぐらいの色合いだ。
「さっきから気になってたんだけど、それ何?」
レヴィは、俺がもってきた小包を指差し、そう言った。ダゴンから渡された小包なのだが、中に何が入っているかは聞いていなかった。
ダゴンは、『小包の中に手紙をいれたから、戻ったらそれを読め』とのことだ。
「海の底で出会った王に渡されたものだ。中身はわからない」
俺はレヴィとハルカに何があったかを簡単に説明する。器と呼ばれる水晶をもらったこと、それのおかげで進化をしたこと、恐らくそのせいで体の色が変わったこと、などなどを話した。
「怠惰……」
「大罪が増えるのは悪いことか?」
「どうでしょうね。私も詳しくは知らない。けど、良いものではないんじゃない?」
「そうか」
レヴィも大罪については詳しくを知らないらしい。ダゴンも言っていたが、大罪は身を滅ぼす。そのことだけは知っている。とのことだ。レヴィも俺も、それは身をもってわかっている。つもりだった。
ハルカも中身が気になる。ということで、小包を早速開けてみる。すると、中にはさらに箱のようなものが入っており、それは綺麗な紐で封をされていた。
「ふむ。これは中々いいもののようだな」
かつて、俺の月光剣が入っていた、あの宝箱のような美しさは感じないが、これはこれでとても良いものだということがわかる。
「ムルト様、気をつけてください……もしかしてそれは……玉手箱っ!!」
「箱を開けることに気をつけることなどあるのか?」
「ダンジョンの中にある宝箱には、たまに罠が仕掛けられていることがあるらしいわよ」
「これは貰い物だ。罠などないとは思うが」
「海の中、もらった箱……それはもう玉手箱としか……ムルト様、その箱は見目麗しい深海の姫にもらったりなんてことは……?」
「いや、これはダゴンにもらった。どちらかというとお爺さんだった気がするが……そうだな、何が出てくるかわからない。大丈夫だとは思うが、二人とも少し離れていろ」
玉手箱、というものがなんなのかわからないが、用心に越したことはない。
とは思う。
ハルカは少し離れたところから俺を見る。
「では、あけるぞ」
「ムルト様が歳をとってしまいますぅ……!」
「死体が歳をとるわけないじゃない」
ハルカとレヴィが何やら愉快なことを言っていたが、俺は気にせず紐を丁寧にほどき、ゆっくりと玉手箱をあける。そして中から出てきたのは……。
「……靴、ですね」
「ブーツね」
「いい色合いだ」
玉手箱の中には、ブーツが入っていた。少しばかりくすんだ、青色のブーツ。留め金は黒色なのだが、光沢があった。
「綺麗な藍色ですね」
「藍色?」
「深い青、って感じです」
「そうなのか」
深海で見た色によく似ていた。とても美しい。玉手箱には靴とともに手紙も入っていた。俺はそれを手に取り、中を見る。
『 بي الضيوف. وهذا منتجات هدية وداع. إذا كان هذا للأحذية، كنت على المشي البحر. حذاء مصنوع في الجسم. وأعد، التحمل، والدفاع. في رحلة من التي كنت ترغب في السلام 』
「全く読めん……」
全員見事に読めない。種族も違うのだから、それもそのはずなのだが、ダゴンは海の中で確かに俺にわかる言葉で喋っていた。
(喋れても字はかけないのだろうな)
どこからかくしゃみが聞こえた気がしたが、きっと気のせいなのだろう。
俺は月読を発動させて、靴の確認をする。
多手鯨のブーツ
多手鯨の素材で作られたブーツ
耐久、防御、共に最高ランクを誇る。
水との親和性が非常に高く、魔力を通すことで水上での歩行が可能となる。
俺は見たままのものをハルカたちに伝えると、
「あんた……多手鯨って、今までで2度しか目撃情報が上がってないモンスターじゃない。それが深海の王……?すごいわね」
「すごいらしい」
俺は次々と自分について確認をしていく。
変わったのは体の色だけではないのだ。
肋骨の中、ちょうど人間でいうと鳩尾のあたりに、紫色の水晶が出来上がっていたのだ。
「恐らく、これが器だろう」
体の重さなどは特に変わっていない気がするのだが、その水晶は俺がどう動いても揺れることはない。完全に体の一部として固定されているようだ。骨のように取り外しもできなかった。
「骨人族みたいね」
「そうだな」
コットンの核はもっと角ばっていたが、俺の水晶は見事な丸だった。きっと骨人族にも個人差はあるだろう。これでスケルトンではなく、骨人族のフリができる。種族にはないが……
名前:ムルト
種族:
ランク:B
レベル:1/70
HP4200/4200
MP1600/1600
固有スキル
月読
凶剛骨
下位召喚
下位使役
魔力操作
欲器(憤怒・怠惰)
スキル
剣術Lv7
灼熱魔法Lv2
風魔法Lv6
水魔法Lv3
暗黒魔法Lv5
危険察知Lv8
隠密Lv10
身体強化Lv7
不意打ちLv6
カウンターLv3
称号
月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者、欲深き者
そしてこれが俺のステータスだ。
増えたのは
欲器
欲望の器
憤怒・怠惰
特に気にすることも書いていないのが逆に怖い。怠惰は大体憤怒と同じことが書いてあった。
「ムルト様強くなりましたね!」
「どうだろうな。ステータス上の強さなどたかがしれている」
「そう、ですかね」
そして俺は月光剣を見た。月光剣も俺と共に進化を遂げていたようだ。
月光剣ー
刀身が透き通った青なのだが、柄に近いところが、ほんのりと赤色を帯びていた。
俺は自分の今の状態を確認し、特に問題がないことを安心する。
「それじゃみんなで船内を見て回りましょうよ!」
「あぁ。カロンが案内をしてくれるんだったな」
「はい!普通は入れないとこにも入れてくれるって言ってました!」
「そうか、それは楽しみだ。さっそくカロンを探しに行こう」
「はい!」
俺たちはカロンを探すために部屋を出ていく。
ついでに、このブーツの効果も確認してみるとするか。
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