骸骨の帰還

俺が船に戻された時、陽が少し傾いてるほどで、そこまで時間は経っていないようだった。


(あそこにいたのは3時間ほどか……)


船上で見たダゴンの触手は、その一本のみで先ほど、俺に攻撃をしようとしてきたクラーケンと同じようなプレッシャーを放っていた。が、俺を船に降ろしたのを確認すると、触手がチロチロと動き、海底へと戻っていった。

どうやら、お別れを言ってくれたように感じた。

俺は泣きじゃくるハルカを慰めながら、部屋へと戻る。


「……遅かったわね」


ベッドで横になっているレヴィが、顔も向けずに俺にそう言った。


「あぁ。心配をかけたか?」


「……そうね。かけたわ」


レヴィが素直にそう言い、俺へと顔を向ける。目元はハルカと同じように赤みを帯びていた。


「泣いていたのか?」


「……!泣いてなんかいないわよ!」


レヴィは俺に悪態をつくが、それも優しさだと理解することができる。

レヴィとハルカは二人して俺に抱きついてくるが、俺はその温もりを感じることができなかった。


(だが、悪くはないな)


俺は二人の頭に手を置き、二人を撫でた。


「ムルト。あんた、磯臭い」





とりあえず、着替えた。レヴィにもらったスーツはぬるぬるのぬめぬめだった。どうやら臭いらしい。俺はスーツを脱ぎ、袋の中にまとめ、生活魔法のクリーンで奇麗にした後、ハルカのアイテムボックスの中へと入れさせてもらい、俺はいつもの風貌に戻ったのだったのだが、俺の体は本来のスケルトンと同じ白色に戻っていた。正確には少しくすんでいるのだが、近くで見るとわかるぐらいの色合いだ。


「さっきから気になってたんだけど、それ何?」


レヴィは、俺がもってきた小包を指差し、そう言った。ダゴンから渡された小包なのだが、中に何が入っているかは聞いていなかった。

ダゴンは、『小包の中に手紙をいれたから、戻ったらそれを読め』とのことだ。


「海の底で出会った王に渡されたものだ。中身はわからない」


俺はレヴィとハルカに何があったかを簡単に説明する。器と呼ばれる水晶をもらったこと、それのおかげで進化をしたこと、恐らくそのせいで体の色が変わったこと、などなどを話した。


「怠惰……」


「大罪が増えるのは悪いことか?」


「どうでしょうね。私も詳しくは知らない。けど、良いものではないんじゃない?」


「そうか」


レヴィも大罪については詳しくを知らないらしい。ダゴンも言っていたが、大罪は身を滅ぼす。そのことだけは知っている。とのことだ。レヴィも俺も、それは身をもってわかっている。つもりだった。


ハルカも中身が気になる。ということで、小包を早速開けてみる。すると、中にはさらに箱のようなものが入っており、それは綺麗な紐で封をされていた。


「ふむ。これは中々いいもののようだな」


かつて、俺の月光剣が入っていた、あの宝箱のような美しさは感じないが、これはこれでとても良いものだということがわかる。


「ムルト様、気をつけてください……もしかしてそれは……玉手箱っ!!」


「箱を開けることに気をつけることなどあるのか?」


「ダンジョンの中にある宝箱には、たまに罠が仕掛けられていることがあるらしいわよ」


「これは貰い物だ。罠などないとは思うが」


「海の中、もらった箱……それはもう玉手箱としか……ムルト様、その箱は見目麗しい深海の姫にもらったりなんてことは……?」


「いや、これはダゴンにもらった。どちらかというとお爺さんだった気がするが……そうだな、何が出てくるかわからない。大丈夫だとは思うが、二人とも少し離れていろ」


玉手箱、というものがなんなのかわからないが、用心に越したことはない。

とは思う。

ハルカは少し離れたところから俺を見る。


「では、あけるぞ」


「ムルト様が歳をとってしまいますぅ……!」


「死体が歳をとるわけないじゃない」


ハルカとレヴィが何やら愉快なことを言っていたが、俺は気にせず紐を丁寧にほどき、ゆっくりと玉手箱をあける。そして中から出てきたのは……。


「……靴、ですね」


「ブーツね」


「いい色合いだ」


玉手箱の中には、ブーツが入っていた。少しばかりくすんだ、青色のブーツ。留め金は黒色なのだが、光沢があった。


「綺麗な藍色ですね」


「藍色?」


「深い青、って感じです」


「そうなのか」


深海で見た色によく似ていた。とても美しい。玉手箱には靴とともに手紙も入っていた。俺はそれを手に取り、中を見る。



『 بي الضيوف. وهذا منتجات هدية وداع. إذا كان هذا للأحذية، كنت على المشي البحر. حذاء مصنوع في الجسم. وأعد، التحمل، والدفاع. في رحلة من التي كنت ترغب في السلام 』


「全く読めん……」


全員見事に読めない。種族も違うのだから、それもそのはずなのだが、ダゴンは海の中で確かに俺にわかる言葉で喋っていた。


(喋れても字はかけないのだろうな)


どこからかくしゃみが聞こえた気がしたが、きっと気のせいなのだろう。

俺は月読を発動させて、靴の確認をする。



多手鯨のブーツ

多手鯨の素材で作られたブーツ

耐久、防御、共に最高ランクを誇る。

水との親和性が非常に高く、魔力を通すことで水上での歩行が可能となる。


俺は見たままのものをハルカたちに伝えると、


「あんた……多手鯨って、今までで2度しか目撃情報が上がってないモンスターじゃない。それが深海の王……?すごいわね」


「すごいらしい」


俺は次々と自分について確認をしていく。

変わったのは体の色だけではないのだ。

肋骨の中、ちょうど人間でいうと鳩尾のあたりに、紫色の水晶が出来上がっていたのだ。


「恐らく、これが器だろう」


体の重さなどは特に変わっていない気がするのだが、その水晶は俺がどう動いても揺れることはない。完全に体の一部として固定されているようだ。骨のように取り外しもできなかった。


「骨人族みたいね」


「そうだな」


コットンの核はもっと角ばっていたが、俺の水晶は見事な丸だった。きっと骨人族にも個人差はあるだろう。これでスケルトンではなく、骨人族のフリができる。種族にはないが……


名前:ムルト

種族:月の骸ムーン・スケルトン


ランク:B

レベル:1/70

HP4200/4200

MP1600/1600


固有スキル

月読

凶剛骨

下位召喚

下位使役

魔力操作

欲器(憤怒・怠惰)



スキル

剣術Lv7

灼熱魔法Lv2

風魔法Lv6

水魔法Lv3

暗黒魔法Lv5

危険察知Lv8

隠密Lv10

身体強化Lv7

不意打ちLv6

カウンターLv3


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人、救済者、欲深き者


そしてこれが俺のステータスだ。


増えたのは欲器よっきと水魔法、欲深き者という称号、地味に暗黒魔法のレベルが上がっている気がするが、きっと気のせいだろう。


欲器

欲望の器

憤怒・怠惰


特に気にすることも書いていないのが逆に怖い。怠惰は大体憤怒と同じことが書いてあった。



「ムルト様強くなりましたね!」


「どうだろうな。ステータス上の強さなどたかがしれている」


「そう、ですかね」


そして俺は月光剣を見た。月光剣も俺と共に進化を遂げていたようだ。


月光剣ー月影つきかげ


刀身が透き通った青なのだが、柄に近いところが、ほんのりと赤色を帯びていた。


俺は自分の今の状態を確認し、特に問題がないことを安心する。


「それじゃみんなで船内を見て回りましょうよ!」


「あぁ。カロンが案内をしてくれるんだったな」


「はい!普通は入れないとこにも入れてくれるって言ってました!」


「そうか、それは楽しみだ。さっそくカロンを探しに行こう」


「はい!」


俺たちはカロンを探すために部屋を出ていく。

ついでに、このブーツの効果も確認してみるとするか。

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