骸骨と歌う少女

とりあえず俺は、カロンに案内はされていないが、説明を受けた区画へきた。

先ほど案内を受けた通りよりは活気はないが、道具屋や武具店、何かよくわからない看板を下げている店がある方へときた。人通りはまぁまぁある。


(ふむ、道を聞こうか)


俺は、近くにいた野菜を売っている老人に声をかけた。


「すまないがご老人、ここいらで書物を売っている場所はあるか?」


「んー?どうだかなぁ〜魔道具屋にスクロールはあるんじゃねぇか?」


「スクロールとかではなく、モンスターの図鑑や物語の本などが売っているところはあるか?」


「そうさなぁ……魔研のマリーがモンスター図鑑のようなものを売ってたなぁ」


「その店はどこに?」


「確か……」


老人に簡単に道を聞き、そこへ向かって歩き始める。


お目当の店を見つけ、そのまま中に入ると、いろいろな書物が置いてあった。

モンスターの図鑑から、錬金術や、魔法の入門書、魔術についての研究、お姫様の童話など、多種多様なものが置いてある。


「いらっしゃい。何をお探し?」


白い白衣のようなローブを身に纏った女性が声をかけてくる。どうやらこの人がマリーらしい。


「そうだな、環境だったり、秘境だったりがかかれた本などはあるか?」


「んーそうねぇ。地形や山、湖に生息するモンスターの本ならあるけど」


「ふむ。黄金の泉や、オーロラとかいうもの、雪山の白や、白い洞窟など、そういう話、だな」


「……確か、絵本でそんな話がかかれたものがあったわね。売れてなければここらへんに……」


店に置いてある本は、ほとんど中古か写しなので、一点物ばかりなのだという。


「あった!あった!これこれ、絵本の割には分厚いのよね【フォルの大冒険】読んでみたら?」


俺はマリーから本を受け取り、パラパラと中を見る。簡単に説明すると、フォルという少年が、世界を旅する話なのだが、先ほど話した黄金の泉や、白い洞窟などが出てくる。

場所は細かく書かれていないが、小山のてっぺん、大きな鳥の嘴の奥、など、ヒントのようなものが書いてある。


「ふむ。これをもらおう」


「毎度あり〜」


値段は銀貨5枚と、とても安かった

次は、特に何を買うというわけでもないが、武具店にでもいってみようかと思い、あたりを探してみる。


すると、どこからともなく歌声が聞こえてくる。透き通った声だが、芯のあるしっかりとした声だ。俺はその歌声に導かれるように、歌のするほうへ向かっていく。


少し路地に入ったところに、藁のようなものを下に敷き、缶を置き、そこに銅貨などを入れてもらっている、物乞いのような少女が歌を歌っていた。


「いい歌声だな」


「!……はい。ありがとうございます」


話している声も凛としていて、どこか聞いていて心地の良いものを感じる。


「今歌っていた歌は、なんの歌だ?」


「何の歌……ですか。暖かいお日様の歌です……かね?」


「ははは。なぜ疑問形なのだ」


「その、自分で作ったんです」


「ほぉ!自分でか、なかなか才能がある。他にはどんな歌を歌うのだ?」


「どんな歌でも歌いますよ。何かリクエストがあれば、即興で作れます」


「ほぉ……そうだな、それでは、月、で作れるか?」


「はい!月は私も好きで、月の神様のお話をよく母から聞かされていたんです」


「そうか」


「はい。それでは、歌います」


正座していた足を少し組み直し、胸の前で手を重ね、深く息を吸って音を奏でた。


遠いどこかの世界の果て、ここではないどこかに、神たちは住んでいた。

夜を見守る明るい月、月を照らす、綺麗な星、それは二人を引き付け合い、結び付かせた。意地の悪い兄弟は、それを見ては笑ってた。輝きをます二人に怒りを抱いた。

月を騙して星は輝きを失った。

泣いた月はいつしか色を失い、黄色の気持ちは涙で流れてしまう。流した涙は自分を塗り替え、青くなる。深い深い、青になる。


「……こんなところでどうでしょうか」


「ふむ。素晴らしい」


「その、聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「?なんだ、構わないぞ」


「その……あなた様は私を見ても差別をしないんですか……?」


「なぜ?」


「その、私は……」


少女は顔を上げて、髪をかきわけた。その両目は赤黒い何かが広がっていた。目玉をえぐりとられたような、そんな穴がぽっかりとあいていた。


「私は、欠損品なんです」


「産まれつきか?」


「いえ、産まれて少しして、鳥に啄まれたらしいです」


「ふむ。そうか。別に、私は気にはしないがな。それに、君はとても美しい顔をしている。髪で隠してしまってはもったいない。少し待っていろ」


俺は人に当たらぬよう、隠密と危険察知、身体強化を最大にし、全速力で走り、洋服屋に行き、少女の髪色と同じ青のスカーフを買い、少女の元へ戻った。


「さぁ、これで目を隠しつつ、綺麗な顔を出せるぞ」


俺は少女の両目を隠すようにスカーフを巻き、おでこがでるように髪を整えた。慣れてはいないので不恰好だが、先ほどよりもマシだろう。


「こ、これは……」


「ふむ、美しい歌も聞かせてもらった。これで、どうだろうか」


入れたお金がチャリン、と小さな音を立てた。


「ありがとうございます……ってこれ、大金貨ですか?」


「ほぉ。よくわかったな」


「子供の頃から目が見えないので、耳は相当いいんです!って!こんなにもらえませんよ!」


「いや、いい。十分楽しませてもらった」


「で、ですが!」


「いいんだ。それでは、またな」


俺は少女に背を向けるようにし歩き始めると、俺の背中に向かって少女の震えた声が届いた。


「あの!!もう一つ聞きたいことがあるんですけど……!」


「ん?なんだ?」


俺は半身少女に向け、歩みを止めた。


「その……あなた様は……なぜ心臓が動いてないのですか?」


俺は、その問いに答えることはできなかった

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