骸骨と案内人
「見えてきたわね。あれがカリプソよ」
小高い丘の上から、レヴィが前方を指差した。その先には、高い建物のない街があり、さらにその向こうには、澄んだ空のような、大きな海が広がっていた。
「ほぉ。あれが、海か」
「全てが塩水らしいわ。私も実は見たことはないのよね」
「そうなのか?」
「ええ。国を治めてたし、話だけは聞いてるんだけどね」
「見てください!船がありますよ!」
ハルカが興奮気味に手を伸ばす。
(あれは、漁、というやつか)
「カリプソは海が近いから、魚の料理が盛んでね。ここの名物なのよ」
「そうなのか。食べれないのが悔しいな」
「私とハルカで感想聞かせてあげるから、元気出しなさい!」
「あぁ」
そんな会話をしながら、俺たちは歩みを進めていた。
★
「身分証はお持ちですか?」
「はい」
「これ」
「頼む」
「ムルト様、ハルカ様、レヴィア様……はい。確認は完了です。お通りください」
前の街とは違って、レヴィアで騒がれることはなかった。
「Aランク以上になると、ギルドカードにちょこっと細工ができるのよ」
とレヴィは言っていたが、よくわからなかった。
俺たちはとりあえずカリプソの冒険者ギルドに向かい、道中に狩っていたモンスターの素材を売り払った。量が量だったので、大金貨1枚と金貨7枚だった。
ハルカとレヴィに小遣いとして、金貨を5枚ずつ、あとは共用の財布に入れた。
「ムルト様もお金を持っていた方が……」
「私は特に食べ物も食べなければ、嗜好品もないからな。少量で十分だ。レヴィとハルカは買い物を楽しんでくれ」
「ありがとうございます……」
その後は宿ではなく、港へ向かう。目的は、ヤマトの国へと出航する船に乗るためだ。
ここで一泊せず、そのままヤマトへ向かうつもりだったのだが……
「すまんな〜ヤマト行は昨日出ちまってな。戻ってくるのは明後日だ」
どうやら船はもう出ているらしい。ヤマトへ向かうのに一日、一日ヤマトの国で品物などを買い込み、またこちらへ戻るのに一日、そして積荷を降ろすのに一日。
4日に一回の出航らしい。
「そうなのか」
「どうする?ひとっ飛びする?」
レヴィが目配せをしながら俺に聞いてくる。
「いや……船は予約できるのか?」
「あぁ〜できるとも。大部屋が1人金貨1枚、個室が1部屋金貨3枚だ」
「ふむ。それでは個室を3部屋もらおうか」
「ほぇ?お前らパーティだと思ったが、違うんけ。3人で1部屋にはいれば安上がりぞ?」
「いや。2人ハルカまだまだ若い乙女だからな。男がいては弾む話も弾まないだろう」
「個室は二段ベッドが二つある部屋を用意できるが?」
「いや、だいじょ」
「その部屋でお願いします!」
「その部屋でいいわよ!」
女性陣がさっさと話を決めてしまった。
一人一つのベッドとは、なかなか豪華ではある。俺は別に使わないが。
ヤマトへ金貨3枚でいけると思えば、ものすごく良いことなのだろう。
「ふむ。それで、船長、ここらでいい宿はあるか?」
「船長だなんて。おらはそんなじゃねぇよ〜。んだなぁ。めんこいおなごもおるし、風呂があるところがいいだろ。あっちの区画の方に、【真昼の太陽】っちゅー宿がある。こっからはちぃーと遠いが、色々なものが揃ってて悪くはないだろう」
「ほう。ありがたい」
「時間あるし、おらが軽く案内してやんよ。お前らここは初めてか?」
「あぁ。それはありがたい。今日ついたばかりでな、この街は全くわからないのだ。レヴィもハルカもいいだろう?」
「はい!」
「別に。いいわよ」
「よし。それでは頼もう。えー……」
「おらの名前はカロンだ。仲間からはカンちゃんって呼ばれとる」
「ほう。それではカロン、頼もう」
俺は金貨を一枚カロンに差し出す。
「チップってやつかー?おらから言い出したんだ。そんなものもらわねぇよ。ほらついてこい」
カロンは金貨に見向きもせず、歩き出してしまった。
「いい方、ですね」
「そうだな」
「……」
俺達はカロンに連れられ、街を巡っていく。
海を初めて見る。ということもあり、宿に向かう道中は、海を見ることができる道から、遠回りではあるが向かうことになった。
「話に聞いたことはあると思うが〜、これが、海だ。味は塩っぱい。この街の特産は魚以外に塩があってな。それも海からとれる塩だけじゃ〜なく、岩塩のとれる洞窟もあるんだ〜」
「岩塩、というのは?」
「ん〜平たくいや〜塩でできた岩だ」
「舐めると塩っぱいのか?」
「んだ」
俺の隣を歩いていたハルカが近寄ってきて、補足説明をしてくれる。
「岩塩はですね、何十年も前に、海で地殻変動が起きて、隆起などをして海水が陸に閉じ込められて、水が蒸発したり濃くなったりして、塩が結晶化し、更に地中で圧縮されたものです!」
「詳しいな……」
「学校でやりました!」
学校とは、元の世界の学校ということだろう。そこの学び舎ではこんなものまで勉強するのか……
「んで、あれがこの街の名物でもある、解体ショーだ」
大きなまな板に、大きな魚が横たえられ、これまた大きな包丁でその魚を捌いていた。力強く刃を入れ、いとも簡単に身を切り、滑らかにそれを三枚に下ろしていた
「実に良い手際だ」
「んだろぉ〜?海の男はあれぐらいのことできなきゃな〜」
「カロンもできるのか?」
「あったりまえよ〜」
カロンは親指を立て、満面の笑みを浮かべてくる。歯が一本無く、間抜けな顔に見えるが、カロンはとても愛嬌があり、いい奴だ。
次に案内されたのは宿ではないが、大きな建物だ。
「これは大衆浴場って言ってな、大きな風呂があるんだ。他にも座敷っちゅー。履物を脱いで上がった場所で、食事をとったりできる。これはヤマトの国の奴らがこっちに建てたものなんだがな、とても便利だ」
「ふーん。お風呂があるのはいいわね」
「お座敷ですか……」
「そちらのべっぴんさんお2人は、風呂に入りたいでしょう?ムルトの旦那はその男臭い感じがたまりませんがね」
「ははは。よしてくれ。レヴィとハルカは風呂には入りたいだろう?」
「はい。でもムルト様も……」
「私はいいんだ。後で二人でくるといい」
「はい……」
「ムルトの旦那は汗を流さないんですかい?仮面もお取りにならないし」
「私はな……顔がとても醜くてな」
「あっしは気にしませんが」
「……すごく爛れていてな。大衆浴場に入ってしまったら、その、なんというか、衛生面的なものがだな……」
ツラツラと嘘を並べてしまっているのが心苦しい。カロンはそれ以上聞かず、次の場所へと案内してくれた
「お待たせしました。ここが旦那たちにオススメの宿【真昼の太陽】です。先ほどの浴場がすぐでしょう?食事はあそこでとれますし、こちらは、夜がバーのようなものになっており、夜は静か、ですが、今のような昼はとても賑わう食事処になってるんですよ!
受付はあっちです!それじゃ、あっしはそろそろ時間なので、仕事に戻りやすね!」
「あぁ。大変世話になった。カロンの仕事はどれぐらいで終わるのだ?」
「そうですねぇ……陽が沈む頃には?」
「そうか。それなら仕事が終わった頃、浴場の方へ来てくれ、食事をご馳走したい」
「いやぁ、ムルトの旦那、それはわりぃです」
「いや、お礼がしたい。こういうものは無下にしないほうがいいのではないか?」
「ははは、そうですねぇ……それじゃあそうですね。あっしのオススメのお店がありまして、そこをご案内したいと思うんで、移動する。ということでどうでしょう?」
「あぁ!カロンオススメの店なら期待が持てるというものだ。是非頼むとしよう」
「へへ。ありがとうございやす。それでは、また。後で」
「あぁ」
その後カロンは来た道を戻っていった。俺たちは宿にチェックインをし、部屋に荷物を置く。前泊まった宿と一緒で、部屋を別に取ろうと思ったのだが、金の無駄だと言われ、結局同じ部屋になった。俺はどうせ寝ないので、ダブルベッドのある部屋にし、二人が伸び伸びと過ごせるようにした。
「ふむ。それでは街の探索をしようか」
「私、カロンさんが紹介してくれたお洋服屋さんを見たいです!」
「水着、とかいう下着が売っていたところか?」
「下着じゃないんですよー。もー」
「それは私も興味あるわね。どう?ハルカ、二人で行かない?」
「へ?ムルト様は?」
「女子二人水入らずでいいじゃない」
「それもそうだな。二人で行ってくるといい」
「んー。そう、ですね。じゃあ二人で行きましょうか!」
「えぇ。決まりね。ムルトはどうする?留守番?」
「ふむ。そうだな。図書などを見に行きたい」
「なんか堅っ苦しいわね。何か楽しんだらどうなのよ」
「あいにく楽しむものがないのでな」
「能無しね」
「そうだな。脳はないな」
レヴィが変な顔をしているが、俺にはよくわからなかった。
とりあえず俺たちは宿で別れ、陽が沈み始めたら一旦宿に集まることにした。
(一人になるのは、久しぶりだな)
久々に一人で街中を歩くのは、どこか寂しく感じた。
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