骸骨と仮面

「あんた、今失礼なこと考えなかった?」


「あぁ」


「なっ!全く……」


「で、素材は?」


「これよ」


レヴィアがそう言って右腕を出す。するとその腕がみるみるうちに大きくなり、形を変え、大きな龍の右足となった。

店にギリギリ入っている状態のその右腕に、キートンは慌てていた。


「私は龍化ができるのよ。そして私の種族は白銀龍。とても綺麗でしょう?」


レヴィアの腕は白銀の鱗に包まれ、キラキラと光輝いていた。


「ひゃー!プラチナドラゴン!!その美しさもさることながら、かなりの強度も誇ると言われている!幻の一品!!」


店が壊れるのではないかと慌てていたキートンだが、レヴィアの腕を見て、商人としてのスイッチが入ったみたいだ。


「ふふふ。どう?」


「あぁ……とても美しい」


正直に言って、見事だった。その美しい鱗は、光輝くほどの美しさを持っているが、鏡のように反射することはない。俺は見惚れてしまい。鱗をついつい撫でてしまう。


「ちょ、ちょっと!や、やめてよねっ!」


「あ、あぁ!すまない、あまりにも美しかったもので……」


「う、美しいだなんて……心にもないこと言わないの!」


「本気でそう思っているぞ」


「……私、ふざけた冗談は嫌いなの」


レヴィアはそう言って、全身にも鱗を纏った。その大きく綺麗な瞳も、瞳孔が爬虫類のように縦に長細くなっている

顔だけは鱗が少ししか出ておらず、褐色の肌がまだ見えている。


「これでも美しいと言えるかしら?」


俺はその姿を見て感嘆する。


(美しいな……)


白銀の綺麗な髪に、浅黒い肌が見事に合わさっていた。


「うむ。美しいな……戦っていた時には気にも留めなかったが、改めてみると……ふむ。とても良い」


「ムルト様……私もそう思います」


ハルカも俺に同意する。胸の前で指を組み、レヴィアを見つめている。


「な、な、な……わ、私を美しいだなんて、そ、そんなこと、一言も言われたことないのに……」


レヴィアは顔を真っ赤にし、俯いてしまった。怒らせてしまったのだろうか。こんな狭いところでは正直言って勝率は皆無だろう。


「……なさいよ」


「ん?」


「……なさい」


「何?聞こえん」


「さっさと鱗とりなさい!!って言ってるの!!」


レヴィアが顔を上げたと思ったら、顔を真っ赤にして泣きながらそう言ってきた。


「な、なぜ泣いているのだ!!」


俺はレヴィアに近づき、涙に濡れた頬を骨の指で拭う。


「お、俺は何か悪いことをしてしまったか?」


「し、してないわよ!」


「なら、なぜ泣く?」


「……私が気持ち悪くないの?」


「気持ち悪いものか」


「……この顔は醜いでしょう?」


「醜くなどない。レヴィアが醜いのであれば、俺はなんだというのだ。骸骨だ。骨だけだぞ。だが俺は自分の姿を醜いとも気持ち悪いとも思ったことはない。種族としての姿だろう?誇りを持て」


「……クロム」


「はっ」


レヴィアに声をかけられ、クロムは即座に動き、レヴィアの腕から大きな鱗を一枚剥ぎとった。レヴィアは少しだけ痛そうにした。


「クロム、爪もよ」


「!……よろしいのですか?」


「私が言ってるの!いいに決まってるでしょ!」


「は、はい!」


「ハルカ!」


「はい!!」


「……この間は、本当に悪かったわね……私の爪、あげるわ」


クロムはすぐに爪も剥ぎ、レヴィアはその龍の腕と、全身の鱗を戻した


「もう、帰るわ」


「レヴィア、腕から血が出ているぞ!」


レヴィアの腕、正確には指先だけだが、爪が一枚剥がれており、そこら血が滴っていた


「一日経てば治るわ。それじゃ。店主、余った素材はあなたにあげるわ。その二人に最高の仮面を作ってあげなさい」


「は、はい!!!」


嵐のようなレヴィアは、すぐにこの場から離れてしまった。

残されたのは巨大な爪と鱗。鱗からは仮面が4つほど作れるほどの大きさをしていた。


「そ、そいじゃあ……明日の朝には完成させておくからまた来てくれ」


「あぁ。世話になる」


「いやいや」


俺たちは仮面屋を後にし、旅支度を整えていた。基本的にはハルカが使う必需品だ。

食事を不要とする俺とコットンではあるが、ハルカは旅をしている途中でも、料理をして自分で食べなければいけないのだ。

あまり料理は得意ではないと言っていたが、簡単なものであればできるという。

包丁やまな板、瓶などを購入する。それら全てはハルカのアイテムボックスに入っている。


必要なものを購入した後、俺たちは晩飯を食べた。食べたのはハルカだけだが、俺たちも気分は大事、ということで、エールを注文した。


「これからの旅に、平和と絶景を期待して」


「乾杯」


「か、乾杯」


もちろんハルカはジュースである




そして翌日。俺たちは仮面屋に頼んでいた仮面を取りにきていた。


「ギリギリ完成しましたよ。どうぞ」


キートンの目にはクマができている。ように見えた。俺たちが発つ時間に間に合わせるよう、徹夜して頑張ってくれたらしい。

注文した通りの仮面にできあがっている。


俺の仮面は、レヴィアの真っ白な鱗を使った仮面だ。白を基調とし、右目の上から、左の頬のとこまで見事な三日月が描かれている。月の色は黄色だ。


ハルカの仮面は、目元を出し、口元が少しとんがり、模様が描かれている。ハルカ曰く、口狐面、というらしい


「それと、これ」


「これは?」


「レヴィア様の鱗です。あっしにくれるって言ってましたが、ムルトの旦那に返そうと思って。再利用できるように整えやした」


そう言って渡してくれたのは両手のひらのサイズはある綺麗な鱗だった。仮面を作るために削ったが、他の用途にも使えるよう、綺麗に加工してくれていた。


「ふむ。ありがたく、もらっておこう」


俺たちはキートンにもらった仮面をさっそく装着し、そのまま、龍が住むと言われる山へと向かう。門をくぐり、街の外へ出ると、そこに一人の少女の声が届いた。


「ムルト!私もあなたの旅について行くわ!」


その少女は、レヴィアだった。

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