骸骨と仮面屋

俺は、コットンのステータスを見て驚愕した。数値が高すぎる。


「どうした、ムルト」


「いや、なんというか、コットンは強いのだな」


「あぁ。当然だ。まだまだムルトには負けないぞ。」


俺はコットンにステータスを盗み見たことを正直にいった。コットンは怒らず、俺が魔眼持ちなことに驚いていた。


「いやぁ。俺にも夜目があるからなぁ。眼球がなくてもやはりつくものなのだな」


「私も驚いているよ。コットンはどうやってステータスを確認しているのだ?」


「あぁ。知らないのか。ギルドに頼んで金を払えば見せてもらうことができるぞ」


「それはこちらのステータスをいつでも見放題ということでは?」


「そういったプライバシーに配慮しているらしくてな。ギルドカードの裏面にギルドが判子をし、その上に血を垂らすと浮かび上がるらしい。俺たちは骨粉になるがな」


「そうなのか」


「まぁ、俺はこれからムルトに教えて貰えば無料だな。はっはっは!」


「そのことなのだが、実はな、近々この国を出ることにしたんだ」


「ふむ。そうなのか」


コットンは笑うのをやめ、短くそういった。


「……どこへ行くかは、決まっているのか?」


「いや。決まってはいないが、目的はある」


「聞いても?」


「天の川へ行く」


「そんな川聞いたことがないな」


「空の星々が川のように見えるんです!」


ハルカが話に入り、天の川の解説をしていく。彦星と織姫なるものを引き裂くものだという。


「ほう。どこで見るのだ?」


「そうだな、あちらの方で見える山のてっぺんなんて良いと思っている。反対の方へ下山すれば、次の旅にも向かうことができるしな」


「ほう。あの山は龍が住んでいるぞ」


「そうなのか。龍はAランク以上の強さだったか」


「あぁ……よければ、次の街まで俺も旅についていってもいいか?」


コットンが気まずそうにそう言ってくるが、こちらとしては大歓迎だった。ハルカに対しての差別もしなければ、レヴィアに挑む俺を止めてくれもした。


「あぁ。是非ともそうしてもらいたいほどだ。こちらから頼むよ。ハルカもいいだろう?」


「はい!私も大歓迎です!コットンさんは優しいですし!その……次の街に着くまで、稽古をつけてもらっても……?」


「あぁ。構わない。ムルトのことも鍛えてやろう」


「是非頼む」


「よし。決まりだな。出発は明日か?」


「早ければ早いほどいいだろう。コットンは準備などは大丈夫なのか?」


「あぁ。冒険者たるもの、いつでも発つ準備はできているよ。そういえば、ムルトは仮面を持っていないのか?」


「あぁ……持っていたのだが、壊されてしまってな」


「レヴィア様にか?」


「いや、もっと前にだ」


「そうか。なら、この後出発の準備と共に仮面でも買うか。オススメの店がある」


「おぉ。頼む」


「あぁ。わかった」


俺たちは修練場を後にし、露店が広がっている通りに来ていた。途中で、薄暗い路地裏へ入り、奥へと進んでいく


「ここだ」


古ぼけた建物のドアに、仮面が一つかけられている。率直に言って、とても不気味だ。


「やっているかー?」


コットンはさっさと中に入っていった。それに続くように俺たちも店内へ入っていく。

店の中には、様々な種類の仮面があった。目から下が出ているもの。頭全体を覆い隠すもの、顔の半分など、多種多様のようだ


「おぉ!コットンの旦那!仮面の新調ですかい?」


カウンターで仮面を作っている店主が、コットンに声をかける。俺たちと同じ骸骨頭だった。


「いや。今日は俺じゃない。紹介しよう。我が友ムルトだ。こちらは我が同胞。キートンだ」


俺とキートンは互いに握手をした。


「さぁムルト、選ぶといい。骨人族がつける仮面は、こういった耳まで隠れるタイプの仮面だ。フードをかぶっていればバレることはない」


コットンはそういって、自分の仮面を見せてくれた。顔の中心に、縦の波線が入っており、右は赤、左は黒と、目の穴のところ以外が塗りつぶされていた。


かっこいいと思い、似たようなものがないかと見たが、これといってしっくりくるようなものはなかった。


「コットンの持っているものと同じようなものはないか?」


「ムルト、これはキートンへのオーダーメイドでな。レッドドラゴンの鱗で作ってもらったものなのだ。同じようなものはないぞ」


「ほう。オーダーメイドが可能なのか?」


「はい。できやすよ。素材を持ち込んでいただければお安くできます」


キートンは揉み手をしている。


「そうだ。ムルト、ここは私が奢ろう。我らの出会いと、ムルトの未来に期待してな」


「ふふふ。ありがたくもらっておこうか?」


「よし、決まりだな、それでは、素材をとりに一度宿に戻る。まだ売っていない素材があるはずだ。ムルトとハルカはどんなデザインにするかキートンと話していてくれ」


「えっ、私もですか?」


「あぁ。ハルカにも送ろう。それでは、あとで」


コットンはそう言って店を出て行ってしまった。


「それでは、こちらにどんなデザインが良いか描いてください。下手くそでも大丈夫ですよ。こちらで直しますから」


キートンは紙とペンを2つ。俺とハルカに渡してくる。

ハルカはしばらく悩んでいたが、デザインを描き始めたようだ。

俺はこれといって思い浮かばず、固まってしまっていた


「ムルトの旦那が好きなものとか、かっこいいと思うものを描けばいいんですぜ」


「そう、だなぁ……」


俺は顎をさすりながら考える。


「……ところで、ムルトの旦那」


「ん?なんだ?」


「ムルトの旦那の目……俺たち骨人族では見ない目ですが……まさか……スケルトンですかい?」


キートンは俺の目を見て、俺がスケルトンだとあたりをつけていた。


「何故そう思う?」


「俺の直感ですよ。俺たちとは違うなっていう……腐っても商人なんで、人を見る目はあると思ってやす。腐る肉も、人を見る眼球もないんですがね」


キートンは俺におどけてみせる。俺はそんなキートンを見て、ローブを少しあけ、魔核があるはずの胸部を見せた。


キートンは少しだけ驚いていたが、すぐに喋り始めた。


「本当にスケルトンなんですね……ですが、俺たちの親戚みたいなものなんで、どうとも思わないんですが。やっぱり漆黒の悪夢になっちまうんですかね?」


「街を壊そうとは思わない。ただ、旅がしたいだけだ」


「そうでやすか……」


キートンはどんな顔をしているだろうか。わからなかったが、嫌なものではないだろう。


「そうだ」


俺は仮面のデザインを思いついた。やはり俺と言ったらこれだろう。

目の穴にかぶるように、右斜め半分に三日月を描いた。正直、これほど俺に似合うものもないだろう。


「ムルトの旦那は月がお好きなんですかい?」


「あぁ。ほら」


俺は首から下げているペンダントをみせる。


「ほほう。月の色は青で?」


「黄色で頼む」


「わかりやした」


黄色い月というのは、ハルカの世界での月の色らしい。ブルームーンというものもあるらしいのだが、黄色が標準とのことだ。

キートンとそんなやりとりをしていると、どうやらハルカのデザインも完成したようだ。

ハルカは、口と鼻を隠し、目とおでこだけが見えているものにしたようだ。デザインには髭のような模様があり、口の部分は前に少し突き出て、鼻にも模様がついている。異世界でお気に入りだった、狐という動物の仮面に似せたらしい。


俺たちの仮面のデザインが決まり、細かい箇所の要望を伝えていると、コットンが帰ってきた。

コットンは何も持っておらず、代わりに、二人の人物を連れてきていた


「レヴィア、とクロムか」


ハルカは少し緊張していたが、前のように俺の後ろに隠れることはしなかった。


「ムルト、聞いたわよ。明日この国を発つんですって?」


「あぁ。それが何か?」


「別に。それで、仮面をオーダーメイドするらしいわね。その素材はこの骸骨が提供し、お金も払う。と」


「その通りだ。何か不都合があるのか?」


「いいえ。その話、私にも一枚噛ませなさい!」


レヴィアは俺を指差しそう言ってきた。


「ムルト。宿に向かう途中、散歩をしているレヴィア様に会ってな……ムルトの匂いがする。と言われ、何をしているか聞かれ、説明したんだ。そしたら」


「素材は私が提供するわ!そしてお金はこの骸骨が払う!」


「という、ことだ」


理解はできた。が、レヴィアがなぜそんなことをするかわからない。短剣ももらっているし、これ以上なにかしてもらうのはもらいすぎな気がする。


「いいのいいの!気にしないで!短剣も仮面もプレゼントよ!」


「……そういうことであれば、もらっておこう。だが、素材はどこに?」


「ふふふ……ここにいる・・でしょ?」


レヴィアはそう言って、ない胸を張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る