骸骨と組手

そして次の日、俺たちはギルドが持っている修練場で、組手をしながらハルカに杖術を教えることになった。


「準備はいいか?」


「はい!」


俺たちが持っているのは、修練場で貸し出されている木剣と木のメイスだ。

魔法使いが使うような杖は修練場にはなかった。


「どこからでもいい。かかってこい」


「はいっ!」


ハルカは俺に攻撃を浴びせてくる。が、俺は月読でそれを読み、次々と木剣でそれを防ぐ。


「体幹は悪くない。足を使え」


「はいっ!」


ハルカは踏み込みが良くなり、殴る威力が上がった。


(ふむ。飲み込みがよいな)


俺はハルカの攻撃を木剣で防ぎ続ける。

それを繰り返すこと1時間ほどだろうか、ハルカの動きが鈍くなっていく。


「そろそろ体力の限界だろう。が、力尽きるまで打ち込んでこい!!」


「はぃっ!!」


さらに1時間。合計2時間と少し、ハルカは最後の力を振り絞り、俺に攻撃した勢いのまま地面に倒れ伏した。


「よし。午前はこんなものでいいだろう。クールダウンした後、昼食に行こう」


「はぃぃぃ」


相当疲れている。当然だろうな。全力で2時間ずっと攻撃を繰り返していたのだ。

ハルカは打ち込めば打ち込むほど動きがどんどんよくなっていた。

ハルカはポーチからだすふりをして、アイテムボックスの中から水筒を出し、それを飲んでいる


「ぷはぁ。ムルト様は休憩しなくてもよろしいのですか?」


「あぁ。アンデッドだからな。疲れ知らずなのだ」


「それでは、ムルト様はずっと戦ってられるんですね」


「そういうわけでもないさ。命をかけた戦いは、この修練よりもずっとずっと辛いぞ。俺もそういう戦いをしたことがある」


「レヴィア様との戦い……ですか?」


「あぁ。レヴィアの他にもう一つ。モンスターと戦い、負けそうになった」


素振りをしながらハルカと話をして、ボロガンで戦った奴のことを思い出す。ポイズンスコルピオンだったか、非常に強かった。

もしも俺がスケルトンでなければ、もしも俺が生身の人間であれば、俺は確実に負けていた。そう思えるほど、力に圧倒的な差があった。レヴィアも同様だ。俺では到底足元にも及ばなかった。レヴィアが俺で遊んでいたからこそ、最後のチャンスがあっただけなのだ。


「俺は、まだまだ弱いさ」


「そんなことないです!ムルト様はレヴィア様に勝ちましたから!」


「あれは勝ちを譲られたのだ。俺は最強ではない。杖術だって、どう教えればいいかわからない。もっと教えるのが上手い奴がいるだろう」


「それでも、私はムルト様に教えていただきんです!」


「ふはは。善処させてもらう」


ハルカが十分に休んだところで、俺たちは修練場を後にして、ギルドに併設されている食事処へ行く。ハルカは食事をとり、食休みをする。午前の反省を二人でしながら、午後の特訓について説明する。午前の攻めとは逆に、今度はただただ防いでもらう。防御の練習だ。


「よし。それではいこうか」


「はい!」


俺は食事代を払い、修練場に向かおうとすると、そこへ声がかかった。


「おぉ。ムルト、また会ったな」


「おお、コットン」


コットンがいた。フードをかぶってはいるが、声でわかる。俺はというと、フードをレヴィアに切られたのだが、それを屋敷に行った日に直してもらっていた。だが、魔都にいる間は顔を晒して生活をしている。


「これから依頼でも受けるのか?」


「いいや、修練場でな、特訓をする」


「ほう。真面目なのは良いことだな」


「あぁ。コットンは依頼でも受けるのか?」


「そうだな。今日はフリーの日だが、体が落ち着かなくてな」


「そうなのか……コットンは、杖術を扱えるか?」


「杖術……ハンマーを使ってはいるが、似たようなものだろうか……?」


コットンはそう言って、懐から俺の腕の長さほどあるハンマーを取り出した。

銀色で統一されたとても綺麗なハンマーだ。頭部は変な形をしているが。


「よければ、ハルカに杖での戦い方を教えはくれないか?金は払う」


「ははは。金なんていらないぞ。ハルカちゃんは杖術使いなのか?」


「い、いえ、魔法使いの杖なのですが……」


そう言ってハルカは腰からロッドを取り出す。


「ほぅ、ロッドか、メイスと同じような扱いをする武器だな。教えることはできるぞ」


「そうかっ。なら是非とも教えてほしい」


「任された」


コットンは快く指南役を受けてくれた。三人で修練場に向かい、各々が木でできた武器をかりる


「よし、じゃあまずハルカちゃん。私に5回ほど打ち込んでくれ」


「はいっ!」


ハルカはそう言って、コットンへ攻撃を打ち込んでいく。コットンはその攻撃を杖で全て防ぐ。ハルカの動きは午前見た動きと変わらず、いいところを凝縮したようなものだった。


「ほう。なかなかいい打ち込みだ。これを日々磨けばさらに強くなれるぞ」


「ありがとうございます。朝にムルト様と打ち込みをしていたので……」


「ムルトもいいところに目をつけたな。攻撃は最大の防御とも言える。防御は攻撃の延長のようなものだしな。よし。それでは防御の練習をしよう」


そう言ってコットンは俺を呼び、打ち込んでこい、といってきた。三人もいるのだし、まずは見せる。ということらしい


「殺す気で打ち込んでこい」


「いいのか?」


「ははは。お前には負けんよ」


相当な自信があるようだ。俺は言われた通り、全力で打ち込む。月読で動きを読んで。な

5分ほど打ち込んだ。俺の攻撃は全て防がれてしまった。


「……驚いたな」


「ははは。実力はあると自負している」


コットンは笑いながら俺の肩を叩いた。


「さて、ちゃんと見ていたか?」


「はい!」


「よし。それでは私が打ち込むからハルカちゃんはそれを防いでくれ。ムルトはこれに攻撃をしてこい」


「何を言っているんだ?」


「お前にも修練を積ませる。と言っているんだ。お前の剣は決定打にかけている。力はあるが、技がない。剣にも多少の心得はある」


「ふむ。死ぬなよ?」


「ははは。いらぬ心配だ」


俺はコットンのその言動に少しムッとしたが、すぐに木剣を構える。

ハルカも俺への言葉にムッとしたのか、木のメイスに魔力を纏わせている。隙あらば反撃を狙っているのだろう。

俺もそれを見て、木剣へと魔力を纏わせていく


「おぉ。魔力を纏わせることもできるのか。よし。始めよう」


コットンも同様に武器に魔力を纏わせた。

ハルカへの攻撃を始まりの合図とし、俺は動き出す。

コットンはハルカにのみ攻撃をし、俺の攻撃は防ぐことしかできない。

コットンの動きはあまり早くなかった。しかしハルカはその攻撃を受けるのがギリギリ、といったところだろう。

だがコットンは俺が攻撃をすると、ハルカへの攻撃より遥かに早い動きで俺の攻撃を防ぐ。


「ムルト、初動が遅い。攻撃が終わったら次の攻撃の準備をすぐにしろ」


「ふんっ!ありがたいっ!」


コットンはハルカに攻撃をし、俺の攻撃をかわし、体を仰け反った状態で俺にアドバイスをしてきた。

俺は避けられた攻撃の勢いを使い、体を捻り、突きの構えをとり、すぐに繰り出す。


「そういうことだ」


コットンは避けるでも防ぐでもなく、突きを下から蹴り上げ、突きの軌道をずらした


「ハルカちゃん、他のことを考えているな。目の前の敵だけを見るんだ」


コットンは、ハルカが攻撃を防いだあと、すぐにメイスを戻し、それをハルカのお腹に優しく当てる。


「これから二人にもちゃんとした攻撃をする。しっかり受けろ。怪我をしないよう魔力は解く」


コットンは俺たちから距離を取りそう言った。コットンの持っていた木のメイスの魔力は霧散していった。俺たちも、それを見て武器に纏わせていた魔力を解く。


「ははは。いやいや、魔力を解くのは俺だけでいい。怪我なんてしないからな」


コットンはまたもやカチンとくるようなことを言った。

それからさらに2時間ほど、打ち合いは続いた。改めて開始した攻防は先ほどまでとは全く違い、苦労した。強すぎるのだ。

俺はコットンからの攻撃を100回以上もらっていた。100を超えたあたりで数えるのをやめたのだが、もしかしたら200はいっているかもしれない。

ハルカのほうは数えていないが、ハルカは後半になるにつれて、どんどん動きがよくなり、コットンの攻撃をどんどん防げるようになっていた。10回に1回防げるほどなのだが……


結局俺たちは、コットンに一撃も当てることができず、逆にコットンにボコボコにされてしまった。コットンはまだまだ余裕なのか、俺たちに攻撃するときはソフトタッチをしてきた。バカにされていただろうな。


(コットンがこんなに強かったとは……)


俺は、密かにコットンのステータスを盗み見る。


名前:コットン

種族:骨人族こつじんぞく


レベル:53/100

HP8260/8260

MP530/530


固有スキル

夜目

堅骨

魔力操作

骨ブーメラン



スキル

棍棒術Lv10

火魔法Lv3

危険察知Lv10

気配察知Lv10

隠密Lv10

身体強化Lv10


称号

Sランク冒険者


「なっ?!」

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