骸骨の隠されし力

「助……けて、もう、やだぁ……」


少女の悲痛な声が、俺の耳に届く。当然レヴィアにもそれは届いていた。


「助かるはずがないのにね。あと7分ほどであなたもこれも死ぬことになるわ」


「そんな理不尽、許されるか……!」


ドクン


俺の胸が大きく一つ鳴る。


「力を持たない者は、力を持つ者には勝てないのよ。あなたも変な正義感を抱かなければ死ぬことはなかったのにね」


俺は歯を食いしばりながら、レヴィアを凝視する。


「あら、怖い怖い。斬りかかってこないの?……やりなさい」


ザクッ


「あぁぁ!!いっ!ぅぅぅ……」


「貴様!またしても条件を破ったな!」


「力があればルールも捻じ曲げられるのよ?さぁ、かかってきなさい」


俺はがむしゃらにレヴィアへ突っ込んでいく。が、攻撃を当てることはできなかった。炎魔法を使ってみるが、レヴィアは氷魔法を使い、発動するまえに火を消されてしまう。


「驚いた。骨のくせに魔法を使えるのね」


「ふんっ!」


俺は他愛のない言葉にすら耳を貸す余裕はなかった。時間は刻一刻と迫っているのである


「くっそぉ!!」


「……6分経過!」


ザクッ


耳障りな音が聞こえ、俺は心配して少女を見てしまう。歯を食いしばり痛みに耐えている。俺は……俺は怒っている。


ー何に怒っている?ー


目の前の理不尽に。


ーなぜ怒る?ー


何もできない自分、そして平等に与えられた命を踏み躙ろうとする奴に。


ー力が、欲しいか?ー


欲しい。


ーお前の怒りを、そのまま力に変えることができるー


ならば、願ってもいない。今の俺なら、何者にも負けることはないだろう。


ーこれは呪われた力なり。そのことを忘れるなー


ドクン


何者かの声が聞こえ、俺はそれと確かに対話をしていた。

俺の胸が大きく音を鳴らすと、身体中に力が溢れてくる


(これは……)


「まだ奥の手があったの?出し惜しみは墓穴を掘ることになるわよ?」


俺の体は赤い蒸気のようなものが溢れていた。だが、俺はわかっていた。これは自分自身の魔力だと。そして、ふと、頭の中に魔法名が浮かび上がる。


『暗黒固有魔法ー夜怒月よるとつきー』


「夜怒月?……!」


瞬間、俺の体は著しい変化を遂げた。青い体は、赤色と混ざったのか、紫色に変化をしていた。月光剣も俺と同じく、青色から紫へ色を変化させる。


「っ!……クロム!」


「ハッ!」


ボロ布を纏った男がナイフを手放し、地面に手を置き魔法を発動させる。

コットン、俺、少女、そしてレヴィア、クロムと呼ばれたボロ布を纏った男のみが土壁で覆われた。

観衆からこちらの姿は見えず、こちらから観衆の姿は見えない。

だが、今、そんなことは関係ない

俺は瞬時にレヴィアの背後をとる


(体が軽イ……)


ガキィン!!


レヴィアの顔は鱗で覆われ、爬虫類の目のようになっていた。


「その力は……私でも本気を出さないと危ないわね」


そう言ってレヴィアは攻撃を俺へ放つ。


(また、自分デツけたルールを破っタナ!)


俺はその怒りをレヴィアへぶつける。

俺の剣を両爪で防いだレヴィアは、その力を受けきれず、壁へと吹き飛ばされる


「なんとイウ力だ……コレが、俺なのか」


体に力が溢れてから、とめどなく湧き出る怒りは、湧き出れば出るほど、俺の体を強化していく。


「ふんっ!」


一回地面を蹴るごとに、地面を抉り、その剣はレヴィアの首めがけて飛んで行く。


「くっ!」


レヴィアはそれに反応し避けるが、どこへ避けるかを月読で先読みした俺は、レヴィアが移動してくる箇所へ魔法を放つ。


獄炎インフェルノ


レヴィアは驚き、翼を大きく羽ばたかせ態勢を崩すが、黒い炎はレヴィアを包み込んだ。


「ううぅぅ!くっ!!」


炎に飲まれ、苦しむレヴィアだったが、翼を大きく広げ、回転する。すると、黒い炎はあたりに散らされ、黒焦げになったレヴィアが顔を出す。

それは、小さく圧縮した人型の龍だった。漏れ出る力も、先ほどの非ではない


「紫骨……いや、紫煙のスケルトン。……お前が第2の……」


何かを言っているが、俺は構わずレヴィアへ襲いかかる。先ほどのダメージが残っているのだろう。動きは明らかに鈍く、俺の攻撃をいなしきれないようだった。


それからは一方的だった。月読でレヴィアの全ての動きを予測し、そこへ攻撃を叩き込む。斬れ味の上がったであろう月光剣は、レヴィアの翼を傷つけることしかできず、両断することはできなかった。

最終的に、レヴィアは翼で自分自身を包み込み、ひたすら俺の暴力に耐えることしかできなくなっていた。


「フンッ!!コレで、ドウダっ!!」


俺は渾身の蹴りをレヴィアへ叩き込む。レヴィアはそれに耐えきれず吹っ飛ばされ、俺はそれを見逃さずのしかかり、首をはねるため剣を首元へ差し込んだ……


「ふ……どうした。お前の勝ちだ。殺さないのか?」


「殺ス……殺シテヤル……」


口から怨嗟のようなものが漏れる。が、俺は首へ刃を添えるだけで、首を切りおとすことはしなかった。

殺そうとレヴィアへのしかかった瞬間、アルテミス様からもらった青い月のペンダントが目に飛び込んできたのだ。

まるで、殺してはいけない。そう言われた気がした。


「……サァ。お前ヲ倒した・・・ぞ。俺の勝ちでいいんだろう?」


いつのまにか、俺の心を蝕んでいた怒りのエネルギーは消え去っていた。きっと俺のパワーなども消え去っているだろう。またレヴィアに条件を違えられたら確実に負ける。


「そうね。あなたの勝ちよ。自力で抑え込むとは……大したものね。クロム」


「はっ」


男がそう短く返事をすると、少女に何らかの魔法をかけ、刺さっているナイフを抜く。

少し怒りを感じたが、それはすぐに消え去った。ナイフを抜かれた少女は痛みを感じていないようで、クロムという男は、回復魔法を使っているようだった。少女の傷が次々と消えていく。


「早く退いてくれないかしら」


レヴィアにそう言われ、はっ、とする。

俺はすぐにレヴィアから距離を取り、剣を構える。


「あなたの勝ちと言ったでしょう?もう攻撃を加えたりはしないわ。クロム、もう解いていいわよ」


土の壁から消え去り、困惑を露わにしている観衆達が目に入る。レヴィアは既に変身を解いているようで、元の美しい美貌に大きな翼となっている。先ほどまで黒焦げていた箇所も治っている


「審判、ゲームの勝者を告げてちょうだい」


コットンはいきなりのことに戸惑っていたが、静かに手を挙げ大勢に聞こえる声で言った


「しょ、勝者!骨人族ムルト!!!」


当然、歓声は上がらなかった。

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