骸骨は負けられない

俺は膝から崩れ落ち、頭部を傍へ転がした。


「他愛もないわね」


レヴィアが勝ち誇った顔で俺を見下しているが、当然俺は死んではいない。

頭が離れただけである。頭蓋骨を粉砕されぬ限り死ぬことはないのだ。


「まだ死んではいないぞ」


俺は崩れ落ちるふりをしながら剣で下から上へと斬りつけた。が、その奇襲はあえなくしっぱいに終わった。


「肉の感触がしないと思ったら、骨人族だったのね」


「面食らったか?」


「いいえ?おもしろいわ」


静観していた人混みの中から一人の人物が俺たちの前へ走り込み、頭蓋骨を拾い、首に俺の頭をはめ、上から押し付けてくる。


「申し訳ありません!この者はまだこの国へ来たばかりの田舎者で、レヴィア様の顔もわからぬよう。仲間として一緒に伏して謝罪致す。どうか許してくれないか」


コットンはそういい、灰色に染めた自分の頭蓋骨も俺とともに下げている


「そう、あなた、仲間なの」


瞬間、レヴィアから嫌な空気が漂う

目を見ればわかる。それは、遊びの邪魔をされた子供のような、その邪魔してきたものを排除するような、嫌な目だ。


「誰だ貴様は!俺は今日この街へついたばかり!知り合いなど誰もいない!俺たちの邪魔をするなら今ここで殺す!」


俺はコットンの腕を振り払い、剣をコットンへ向けた


(コットンは、恩知らずの俺を許してくれるだろうか)


コットンは口を開けたまま俺を見る。

それは覚悟、慈愛、そんな目を俺に向けていた。コットンはわかっているのだ。俺がコットンを巻き込まぬよう遠ざけたことを。

コットンは巻き込まれても構わないと、俺を助けてくれたことを。


(ありがとう)


俺は心の中でコットンに礼を言う。


「ふん!同じ骨人族として助けてやろうと思ったが、余程の死にたがりと見える。さっさとレヴィア様に殺されればいい!」


嘘ばかりの言葉。心配していることは痛いほどわかった。コットンと会えてよかった。本当に


「茶番は終わった?続きをしましょう?」


「あぁ。やってやる」


「でも、どうせ遊ぶなら景品が欲しいわよね?」


「景品?」


「そうよ。あなたが欲しいのはこの子でしょ?」


「……そうだ」


「なら、この子を賭けて戦いましょう」


パン、とレヴィアは手を打ち鳴らしてそう言った。


「あなたが私に勝てば、この子はあなたのものよ。私が勝てば、この子はこの場で殺す」


今度は指を鳴らすと、黒いボロ布を幾重にも来ているものが少女の横に立つ


「でもこの勝負に条件を設けるわ。制限時間は10分。1分立つごとにこの子の体にナイフを一本ずつ突き刺すわ」


ボロ布は懐からナイフを両手に5本ずつ取り出し、見せつける。


「10分以内に貴様を殺せばいいんだな?」


「まぁ、そうね。私が認めたら、でいいわよ。ちなみに、ハンデとして私はあなたに反撃しないわ。思う存分かかってきなさい?」


レヴィアは笑いながらそう言った。攻撃に当たらない自信があるのか、はたまた、俺の攻撃を避けることすらしないのだろうか


「それじゃあ、試合開始の合図と、時間を測るのは、そこの骨にしてもらいましょう」


骨……それはコットンのことだ。レヴィアはコットンを指差し、ボロ布がさっと横に行き、懐中時計を手渡す。


「……承りました」


コットンは懐中時計を固く握り締め、俺とレヴィアを交互に見る。


「双方、準備はよろしいか」


「いいわよ」


「あぁ」


俺は剣を下段に構え、足を少し広げ、いつでも懐に入り込めるように身を低くする。対するレヴィアは仁王立ち。負けることなど微塵もないような、勝ち誇った笑みを浮かべている。


「それでは……始め!」


最初に駆けたのは当然俺。レヴィアの懐に潜り込み、剣を突き刺す。


ザクッ


レヴィアは俺の剣を人差し指と中指の爪のみで受け止めていた。そして、音のした方向へ俺は顔を向けた。


「あら、ごめんなさい。ミストの手が滑ってしまったみたい。そこの骨、時間経過を知らせるのは2分目からでいいわよ」


少女の太ももにナイフが深々と突き刺さっている。奴隷印での命令のせいで、声を出すことは叶わず、悲鳴も聞こえない。


「声が聞けないのはつまらないわね。そこのデブ、声を出せるようにしなさい」


「か、畏まりました。『声を出すことを許す』」


「あぁあぁあぁあぁぁぁぁ!!!」


少女の悲鳴がそこら中に響く。投石とナイフで傷つけられた自分を慰めるように。声を上げなければ、気が触れてしまいそうになるとでも言うかのように。


「なぜ!こんな酷いことを!」


「そんなの、楽しいからに決まってるじゃない」


「貴様も命ある生き物だろう!」


「だとしても、これは生き物じゃなく命ある物よ」


俺の攻撃を平然と止め、一歩も動いていない。いや、動かせなかった。圧倒的な力の差があるとしても、俺はこの少女のために戦う。同じ命ある生き物同士、幸せに生きて欲しい。見た目が違うとか、そんな理由で自由を奪われてはいけないのだ。


(月読……!)


名前:レヴィア

種族:白銀龍プラチナドラゴン


レベル:82/100

HP46200/46200

MP7950/8000


固有スキル

人化

龍鱗

龍の吐息

魔王

魔力操作

狂戦士

嫉妬の大罪


スキル

拳闘術Lv10

灼熱魔法Lv5

暴風魔法Lv5

雷魔法Lv7

暗黒魔法Lv5

危険察知Lv10

身体強化Lv10


称号

龍王の娘、魔王、暴君、殺戮者、慈悲なき者、悲しき姫


圧倒的なステータス。筋力なども全く歯が立たないだろう。だが俺は負けるわけにはいかない。

俺は月読を使って、レヴィアがどう動くかを見極め、フェイントを交えながら攻撃を繰り返す。だが、レヴィアはその攻撃を見てから避けているようだ。


「……二分、経過!」


「二本目ね。骸骨さん?」


「んんんんぁぁぁああああ!!」


少女の悲鳴が辺りに響く。

なおも俺は攻撃はされず、少女だけが傷ついている。俺は、レヴィアを倒す術をもっていなかった。


ドクン


俺の胸が、鼓動を確かに打ち鳴らした。

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