骸骨は勝利する

皆が混乱している。当然俺も混乱してる中、レヴィアは静かに喋り始めた。


「さ、あなたも剣をしまいなさい。店主、この男とそのの奴隷契約を済ませなさい。いくら?」


「えっ、あっ、そ、その……白金貨一枚です……」


「そう。後で私の部下に持って来させるわ。

さ、あなた、契約しちゃいなさい」


俺はレヴィアに手招きされ、剣を収めてそこへ向かう。いつのまにか手足の鎖を外された少女が居て、指に針を刺し、血を出していた。


「指と指を重ね契約をする。血と首輪をしているほうが奴隷として隷属される」


コットンが俺の隣に立ち、そう助言してくれる。俺はその少女と指を重ね契約をすると、少女の体が白く光り、すぐに収束する。どうやらこれで契約は成立したようだ。


「これでこの娘はこの男の奴隷として登録された!私の手の届かないところでこの男とこの娘を襲った者には重大な罰を与える!間違えぬよう、ここにいない者達にも言っておけ!」


レヴィアが皆に向かって大きな声でそう告げる。これで俺とこの少女の無事が確約されたことになるのだろうか。


「それで、まだあなたの名前を聞いていなかったわね」


レヴィアは俺へ向き直り、そう言って手を差し出した。俺は躊躇した。手を握り返さずに名前を告げた。


「我が名はムルト。ただのムルトだ」


「そう。よろしく。それでは、また・・


レヴィアは翼を大きく広げ、飛んで行ってしまった。従者のクロムもいつのまにか消えていた。





その後、俺は奴隷商に、奴隷の簡単な服を着替えにと渡され、そのまま宿へと戻った。コットンは


「助けてやれずすまなかった。俺は少し用事がある。また」


と言ってどこかへ行ってしまった。少女は契約が終わるとすぐに気を失ってしまい。俺はお姫様抱っこをして宿へ言ったのだが、ボロボロな俺が、ボロボロの少女を持って帰ってきたので、女将はびっくり仰天してしまった。部屋に少女を寝かせると、湯と手ぬぐいをもらい、部屋に戻る。俺は少女が目覚めるまで待っている間、ステータスを見ていた


名前:ムルト

種族:月下の青骸骨アーク・ルナ・デスボーン


ランク:C

レベル:39/50

HP15/1800

MP98/810


固有スキル

月読

凶骨

下位召喚

下位使役

魔力操作

憤怒の大罪




スキル

剣術Lv5

灼熱魔法Lv1

風魔法Lv3

暗黒魔法Lv5

危険察知Lv6

隠密Lv10

身体強化Lv4

不意打ちLv6


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛、月の女神の祝福、月の使者、忍び寄る恐怖、心優しいモンスター、挑戦者、嫌われ者、人狼族のアイドル、暗殺者、大罪人


言わずもがな、倒すことはできなかったのでレベルは上がっていない。ただ、あれだけの戦闘をしたので、剣術、炎魔法、暗黒魔法が上がっている。


(憤怒の大罪と……大罪人か……)


憤怒の罪は大罪に、そして称号に大罪人というものが浮き上がっていた。



憤怒の大罪

悲しみ、憎しみ、全ての感情が大きな怒りへ変わる。憤怒の大罪を犯したものは大きな力を手にする代わりに、その他全てを失うこととなる


大罪人

大罪スキルを持つものへ現れる称号

それは悲しきも、なるべくしてなったであろう定め


(全てを失う……か)


なかなか恐ろしいことが書いてある。このスキルはもう使うことはない。と思いたいが、俺はレヴィアの戦いの最中で聞こえた声を思い出す。あれは紛れもない自分の声だった。

俺はその自分に体を飲み込まれたのだろう。

だが、そのおかげで目の前の少女を助けることもできた。


(これで、良かったのだろう)


「んん……」


少女がうなされているようだ。そろそろ眼を覚ます頃だろう。


「おい、起きろ」


その声に少女はビクッと体を揺らし、静かに起き、こちらを見る


「夢じゃ、なかった……」


少女は俺を見て眼を大きく開くと、ベッドから降り、床に膝をつき、頭を地面へ擦り付ける。土下座、というものだろうか


「こ、このたびは、私めを購入いただきありがとうございます」


「ぬ……楽にしていい。ほら、これを使って体を拭くといい」


少女は虚ろな眼をしながら手ぬぐいと湯で体を拭き始める。背中は届かないようで、背中の真ん中のところが薄汚れたままだった


「背中は私が拭いてやろう」


俺は少女から手ぬぐいを受け取ると、優しく背中をこする。体を綺麗にしたところで話を始める。


「よし、これを着ろ」


俺は奴隷商からもらった服を手渡す。前と後ろのみを隠せ、横で留める形の、病衣のようなものだ


(ふむ。これほど綺麗な少女が着るにはいささか不恰好だな)


投石されている時には気づけなかったが、身体中の傷を治された少女はとても美しかった。綺麗な黒髪に、透き通るような黒い眼、肌は白くきめ細やかで、唇は淡いピンク色をしていた。胸はあまり主張せず、細いくびれに大きな尻……


(情欲がない俺でもここまで見とれてしまうとは)


「こ、これは?」


「服だ。とりあえずそれを着ているといい。今着ていたのは汚いからな。奴隷商からもらったものだ」


「は、はい」


少女は渡された服を着ると、また地べたへ腰を下ろす。


「よし。とりあえず飯にするぞ。ついてこい」


「は、はい」


少女はまたしても虚ろな眼で俺の後ろをついてくる。

階段を降りて食堂の方へ向かうと、既に小さな賑わいを見せていた。そこに、料理を運ぶシンが俺を見つけ、


「お、来たか。母ちゃん!骨の人降りて来たぞー!」


「あいよー!頼まれてたもの丁度できてるから座って待っててもらいなー!」


「おうよー!聞こえただろ?適当なとこに座っててくれ。水をすぐに持っていくからよ」


そう言ってシンは持っていた料理を運び、俺が座った席へと水を二つ持ってきた


「もうちょっと待っててくれ」


シンは配膳へと戻っていく。少女はというと、俺の席の隣、の地べたへ正座して座っている


「む、何をしている?」


「餌を……待っています」


眼がずっと虚ろだ。その眼から虚無や絶望しか感じない悲しい眼だ。


「そこへ座るといい。今、食事を作ってもらっているからな。少し待つのだ」





私は骨人族に買われた。地獄のような、あのところから抜け出せるならどこでもよかった。でもこの骨人族は、私を慰み者にもしないし、服も与えてくれた。今は席につくように促されている。


「で、ですが、奴隷と主人が同じテーブルにつくというのは……」


「お前は俺の奴隷だとしても、俺はお前を奴隷として扱わない。一人の人間として扱う」


表情の読めない骸骨の顔。何を考えているか全くわからない。


(鑑定……)


名前:ムルト

種族:月下の青骸骨アーク・ルナ・デスボーン

ランク:C

レベル:39/50

HP230/1800

MP402/810


私は鑑定眼を使ってステータスを盗み見る。レベルに開きがあるから、少ししか見られない


(ランク?骨人族でも、ない?)


私は新しい主人の正体がわからず、心を閉ざす。

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