骸骨は逃げる

森の中を歩き続ける。

今は1匹目のパワフルボアを討伐してから1時間が経っている。

前回は三匹倒しても1時間以内だったのに、今回はなかなか見つけることができていない。

それよりも、モンスターとあまり出会わない。


ちなみに今回は、パワフルボアを入れる袋を持っている。門を抜ける際に、昨日と同じ門番に会い


「おい、お前昨日のやつか?なんだ。またパワフルボアを狩るのか、袋はちゃんと用意してきたか?なに?忘れていた?仕方ないな。少し待っていろ」


そう言い,パワフルボア一頭が丸々入る大袋を三枚もらった。


「街の治安のために動いているのだろう?返す必要はない」


そのまま袋をもらってきたのだが……未だ一頭


「今日は大変だな……」


そんなことを言いながら森の中を進んでいく。

それでもなおパワフルボアは発見できず、街へ引き返すことにした。


(一頭だけだが、月が出るまであと2時間ほどだろう。往復の時間を考えると今引き返せば丁度いい時間だろうか)


今日の森は何かがおかしい。そんな根拠のないことを考えるほどに、静まり返っていた。


(パワフルボアがいないだけでこんなことを考えてしまうとは、弱気なのかもしれんな)


「誰か助けてぇぇぇ!!」


街に向かって引き返していると、静かな森にそんな悲鳴が響いた。声が聞こえてきた方向からは、微かに血の匂いがする。


(人が襲われているのかっ!)


俺は走った。声のする方へ。茂みを掻き分け、飛び出す。


そこには、黄色と黒のまだら模様。大きなハサミに、そして鉤爪のような尻尾をした大きなモンスターがいた。


種族:ポイズンスコルピオン

ランク:A

レベル:52/100

HP1529/1530

MP0/0


固有スキル

大鋏

毒生成

堅甲殻


スキル

危険察知Lv1

隠密Lv6


称号

殺戮者、肥大


ランクA。そして圧倒的なステータス。月読でみたそいつは、恐ろしく強く見えた。


鉤爪には男と思われるものが刺さっており、傍らには腹を裂かれている女と思われるモノ、そして助けを求める悲鳴を出したと思われる少女がいた。


「大丈夫か!」


俺はすぐさま少女とスコルピオンの間に剣を構えて立った。


「立てるか!街までそう遠くない、走って助けを呼んでくるんだ!」


「で、でもママとパパが……」


「い、いきなさい……」


鉤爪に刺さっている男が、力のない声でそう言った。もはや自分はもう助かるはずもないのだろう。我が子だけはと、父親の考えが見てとれた。


「で、でも……」


「さっさと行け!」


思わず怒気を込めて、少女に怒鳴ってしまった。少女は泣いた顔を手でこすりながらも立ち、街のある方へと駆けていく。


「あ、ありが」


父親と思われる男が俺を見てそう言葉を紡いだ。だがその言葉が最後まで言われることはなく、スコルピオンがその大きな鋏で男の首を切ったのだ。死体は一口咬み味見をし、腹を掻っ捌いて近くへ捨てる。


次の標的は俺だと言わんばかりにハサミを大きく広げてくる


「俺に食える身はないぞ?」


俺は大地を力強く蹴り、接敵する。圧倒的なステータス差、圧倒的なランク差、そして種族差があるのだろう。進化したこの我が身では、恐らく勝つことは難しいだろう。

だがここで逃げてしまえばスコルピオンは俺ではなく少女のほうへ向かってしまうだろう。争って食いにくい俺よりかは、負けることのない少女を食べたほうがいいに決まっている


剣を振り抜き攻撃をする。その攻撃は、巨大な鋏によって阻止される。

堅い甲殻に傷をつけることはできたが、恐らく断ち切ることは不可能だろう。


炎の槍フレイムジャベリン!」


火魔法の上級魔法、炎魔法を使う。が、その身を焼くことは叶わず、甲殻の硬さに固まってしまう。


(尻尾攻撃がくる……!)


俺は,月読のおかげで敵が次にどう動いてくるかが、ある程度わかっていた。だが相手は格上。予測通りにはいかないのであった。


(尻尾はフェイント……ぐぅっ)


尻尾に気を取られ、俺は大鋏に捕まってしまう。

万力のようなその強さに、俺は小さく悲鳴を漏らす。だが俺の骨が砕けることはなかった。


(ぐっ……ダメージは受けたが)


「フレアボム!」


魔法を使い。、爆発を起こす。スコルピオンがびっくりし挟む力を緩めた。その隙に、俺はすぐ拘束から逃れ,剣を構え直す。


(くっ、外套がダメになってしまった……)


俺は外套を脱ぎ捨て、骸骨の姿を晒す。

スコルピオンはそんな俺を見て、一瞬固まった。人間だと思って戦っていた相手が、モンスター。ましてや骨だけの体なのだ。俺はその隙を見逃さず、攻撃を繰り出す。

だが、高速で横から迫る尻尾に反応できず、もろに攻撃を受けてしまった


「かはっ」


HP463/666


思っていたよりもまだまだHPはある


(スケルトンは頭さえ破壊されなければしなないはずだ……無茶な戦いは、できる!)


スコルピオンは,吹っ飛ばされた俺を一瞥し、さっき狩った食料を食べている。俺への興味を無くしたようだ。


「くそっ!舐めるなよっ!!」


魔法は通じない。ならこの剣のみで戦うほかない。俺は剣に魔力を流し、強化する。剣の扱い方は不思議とわかっているた。こいつは俺の武器であり、俺そのものなのだ。


「ムーンスラッシュ!」


魔力を通した月光剣を横になぎ、魔法攻撃のようなものを発動させる。それがスコルピオンの鋏にあたり、先ほどよりも食い込んだようだ


「ギギギ……!」


スコルピオンは怒りをあらわにし、こちらへ迫る。


「何度もその手が通じるか!」


幾度となく食らった尻尾攻撃、俺は身を低くし躱し、顔に迫る


「目なら……堅くないだろう!!」


俺は、剣をスコルピオンの目に突き刺した。

のたうちまわるスコルピオン、俺はそれを絶好のチャンスだと思い手を離さなかった。


「ギギ、ギッ!」


スコルピオンの口から紫色の液体が出てくる。それを身に受け、鋏によって吹き飛ばされる。恐らく毒だろう。


「ふふふ、俺たちアンデッドに毒はきかぬよ」


そう、俺たちアンデッドは状態異常耐性が備わっている。毒や麻痺、石化などといったものだ。個体差はあるが、俺は毒を受け付けないことを、本能で理解できた。


「ふははっ!これでどうだ!」


なおも俺は、剣を振るい戦い続ける




しばらくの間戦い続けた。攻撃を受け、俺の体はボロボロ、鋏で切れなかった骨は打撃に弱く、アバラ三本、足の骨を二本砕かれてしまった


ムルト

HP1/666


ポイズンスコルピオン

HP232/1530


俺は瀕死の状態なのだろう。だが頭蓋骨を割られない限り、この身は動く。大してスコルピオンのほうは息も絶え絶え、といったところか、ここまで削るのは苦労したが、奴もすでに虫の息、決着はそう遅くない。


スコルピオンの甲殻、とても堅く刃は通らなかった。だがそんな甲殻を持つ奴らにも弱点はある。それは眼などの粘膜部分、そして曲げるための関節だ。


尻尾は切り落とし、片方の鋏も使い物にできなくした。勝利はもう目前のはずだ。


「これで……最後だ!!」


俺は駆ける。そして魔法を発動させた


「リトルボム!」


小さな爆発を地面に向けて放つ、攻撃のためではない。目隠しのためである。月光剣に常に魔力を流していて、MPは底をつきかけていた。リトルボムは、最後に使える魔法だった。土煙で相手から身を隠し、先ほど攻撃した眼の側へ入る。


(ここは奴の死角……!そして首の根元の関節は……ここだ!!)


頭と首の関節部分、そこに剣を深く突き刺し、捻り込み、切り落とした。

スコルピオンはその一撃が致命傷となり、力なくその場へ崩れ落ちた。


「ふぅ……俺の勝ちだ」


スコルピオンにそう言いかけるが、俺がもし人間であったらば、もうすでに負けていたのだろう。骨を折られ、HPは1にまで削られていた。この戦いで失ったものも多い。

ハルナからもらった外套と仮面。その二つが今回の戦いでズタズタにされていたのだ。


「これは……怒られるなぁ」


残ったのは手袋、足袋、荷物入れ。パワフルボアはここへ向かう途中に捨ててしまった


「こっち!こっちに怖いモンスターが!」


逃げた少女の声と、数名が走る足音。冒険者達が来たのだろう。

草木を掻き分け、先ほどの少女と冒険者。そして受付嬢までもがいる。


「こいつが、こいつが私のママとパパを!」


「助けてくれたという冒険者はどこだ!」


「いない……!けど!あのコートと仮面をつけてたわ!」


少女は、俺が手に持っている外套と仮面を指差し、泣き叫んでいた。


(少女よ……事でよかった)


俺は少女の無事を確認し、安堵する。

その横には、俺の外套とコートを見ながら震えている受付嬢。


俺は何も言わず、暗い森へと逃げた。


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