骸骨は泊まる

「【月の微笑み亭】……ふむ。ここか」


ギルドの職員に紹介された宿、月の微笑み亭。

宿と酒場が併設されている。実に賑やかな場所だ。

中に入ると、すぐに声がかかる


「いらっしゃいませー!お食事ですか?お泊まりですか?」


小さな少女だった。歳の頃は14、5といったところだろうか。


「泊まりたいのだが、部屋は空いているか?」


「はい!少々お待ちください!お母さーん!お泊まりの受付するからちょっと外すよー」


「はーい」


食事を配膳している恰幅な女性が返事をした。あれがこの少女の母親なのだろう。


「それでは、こちらへお願いします!」


受付の裏へと周り、少女が帳簿をだす。


「それではこちらにお名前と、素泊まりか食事付きか、それと身分証のご提示をお願いします」


俺は帳簿に名前を書き、素泊まりに丸をし、冒険者カードを出す。


「はい!素泊まりですね。銅貨2枚になります!お食事が食べたくなりましたら、このお食事処で別料金ではありますが、注文することができます!こちらの鍵をお見せいただければ、少しだけ割引させていただきます!」


他にも軽い説明を受ける。鍵をなくせば弁償が発生したり,夜遅くはうるさくしない。などだ。


「ありがとう」


俺は銀貨を1枚取り出し、少女に渡す。

少女はお釣りを取り出そうとしたが、俺はそれを止めた。


「お釣りはお小遣いということにしてくれ」


「え、でも」


「いいんだ。財布が嵩張ってしまうから」


「あ、ありがとうございます!」


腰を折り、礼を言われる。

元気で愛嬌のある、良い少女だった。

この酒場を盛り上げるマスコット的なものなのだろう。

俺は104番と彫られた鍵をもらい、二階へ上がった。

部屋は5部屋、俺は行き止まりから二番目の部屋に入れるようだった。


(部屋数が少なく下の食事処も家族三人で回しているようだった。価格が安いのはそういうところなのだろうか)


そういった、お金や仕事のことは全く知識がないので憶測に過ぎないのだが、こういったところも知っていきたいとは思っている


部屋の中はベッドと机、クローゼットがそれぞれひとつあるだけの簡素な部屋だった。

ベッドは悪質なものではなく、マットと掛け布団にまくら、しっかりとした手触りを感じた。


「いい場所だな……名前もいい」


荷物を下ろし、外套を脱ぎ、骸骨の姿になる


「ふむ……当面、金の問題は大丈夫だろう。あとは……観光、か」


気づけば、既に太陽が沈み始めた頃だった。

あと少しもすれば、月が登ってくる。

俺は剣を鞘から抜き、窓に立てかけ、自分も窓のそばで月が出てくるのを待った。


その日、窓から見た月には雲がかかっていた。

波のない。真っ直ぐで、少し曲がっている雲、

その雲が、月の下に差し掛かかる。


その日の月は、なぜだか笑っているように見えた。

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