骸骨は待つ
小鳥が鳴き始め、朝日が窓から差し込んでくる。
「よし、朝だ」
いつも、夜通し月を見ており、月が沈み始めたころにはモンスターを狩ってレベル上げをしていたのだが、今日は宿から出ることもなく、月を見上げながら魔力循環をしていた。最近は、うまく魔力を操作することができているのではないのだろうか。
日がもう少し出てきたところで、着替えて下の階へ降りると
「あ、お客様!おはようございます!」
昨日受付をしてくれた少女が、元気な挨拶で出迎えてくれる。
「あぁ、おはよう。早いのだな」
「お客様も早起きですよ!他のお客様はまだ寝てる時間だもん!」
今の時間は朝の5時といったところだろうか、少女は朝御飯や晩御飯の食材の支度をしているらしい。
「ところで、鍵はここに置いておけばいいのか?」
「はい!ご利用ありがとうございました!」
「朝飯はもう食べられるのか?」
「はい!大丈夫ですよ!銅貨1枚割引致しますので、席についてお待ちになっていてください!」
適当な席について一息つく、といっても特に食べるわけでもないのだが…
「こちらお水になります。そしてこちらがメニューになります。お決まりになったらまたお呼びください!」
「あぁ。……君は、朝飯はもう食べたのか?」
「軽食ではありますが、食べましたよ?」
「そうか。……今は他の客もいないし、少し話をしないか?好きな食べ物を食べていい」
「私が食べていいんですか?」
「あぁ」
少女が厨房に顔を向けると、男が顔を出す。
なかなか厳つい顔をした男だった。
「聞こえてるぞ。お客さんとミリアがよければ別に大丈夫だ。仕込みは大体終わってるしな。この時間だ。まだ他の客もこないだろ」
怖いのは顔だけなようだ。なかなか優しそうな笑みを浮かべた
「わかった!じゃーお父さん!私、Bランチねー!」
「今はランチじゃねぇだろーが。たく、しょーがねぇな。お客さんは?」
「私は朝食べない方でな。水だけで十分ですよ。申し訳ない」
「いや、いいってことよ。この街には色々な宗教があるからいろんな奴がいるんだ。別に変わってるわけじゃねぇ」
「よければ大将も、料理を作り終えた後にお話でも」
「暇だったらな!」
そう言うと、厨房へと戻り、火を起こす音が聞こえてくる。
「ところで、スカルヘッドさんはどんなお話が聞きたいんですか?」
「む、名前を覚えていたか」
「面白い名前でしたからね。骨の頭。うふふ」
「ははは、よく言われるんだ。そうだなぁ……まずは……」
水を飲むフリをしつつ、話を切り出す。
「この街の観光名所ってあるか?」
「観光名所〜?」
頭にハテナが出ている。観光名所という言葉がわからないのか……?いや、俺じゃあるまいしそんなことはないだろう。
そこへ、料理を運んできた大将も一緒に話に混ざることとなった。
「この街自体が観光名所みたいなところはあるからなぁ。まぁ、一番の見どころと言ったら大聖堂だろうな」
「大聖堂?あの一番大きな教会か?」
「あぁ。その通りだ。問題を起こさなけりゃ、いろんな宗教の出入りと祈りを許可してる。平たく言えば、特に派閥はないフリーの教会。だな」
「ここは宗教都市と聞いたが、どんな宗教があるのだ?」
「はっはっは!この街にはどんな宗教もあるんだぜ?邪教までもな!変なこと、他の宗教に手を出さない限りは自由に信仰してもいいんだ」
「お二人は何を信仰しているんだ?」
「俺は戦の神、アレスを」
「私は恵の神、フレイア!」
「別なのですか」
「あぁ。ちなみに俺の嫁さんは慈愛の神、ヴィーナスだ」
「家族でそれぞれ違うのですか」
「ははは、面白いだろ?俺たちの家族も自由な信仰を尊重してるんだ。ところであんたは、朝飯は食わないって言ってたが、どこの宗派だ?」
ここで俺に話を振られる。
(宗教についてはあまり知らないのだが……知っているのは創造神と……やはりアンデッドとしてはハデス様かペルセポネ様と言ったほうがいいのか?)
「そう、だな……強いて言うなら、月……だろうか」
「月?あぁ、月の女神アルテミスか。なら朝飯抜くのも頷けるな」
飯を食べないのはアンデッドだからなのだが……月の女神……初めて聞くな。
「あぁそうです。アルテミス様です………朝飯をなぜ抜くんでしたっけ?」
見当はずれな質問をしてしまったのか、大将は笑いながらも、答えてくれた。
「なんだぁお前、信徒のくせにんなことも知らないのか?まぁ自由な宗派らしいからなぁ。確か、朝になると月が沈むだろ?その沈んだ月が今日も平和に登りますように、って朝に祈りを捧げるらしいんだが、それが朝飯の時間にかぶってるんだっけかな」
「ほう、そうなのですか」
初耳だが,月への祈りか……月自体は好きだし、興味が出てきた。
「ところで、その月を信仰するところは、この街にも教会はあるのか?」
「確かあった気がするなぁ」
「それならヴィーナスの教会の近くじゃなかったかな?お母さんなら知ってるかもしれないよ」
「そうだっけか?すまんが嫁が起きるまで詳しい場所はわからないかもしれねぇ」
「そうか。もし邪魔でなければ、ここで待たせて頂いても?」
「あぁ構わねえ」
「ねぇ!次はスカルヘッドさんの話が聞きたいな!」
「私の話か……特に面白いことはないと思うが」
「スカルヘッドさんはどんな旅をしてきたの?」
「ふむ。旅……と言っても、まだそこまで経ってはいないが……」
俺は、ここまで乗せてきてくれたリーン達にした話を、ミリア達にまた話した。
2人ともやはりエルフの話に食いつく。エルフの集落に招かれるというのは、それほど貴重な体験らしいのだ。
この街に来てまだ1日目、しかも冒険者登録したその日にEランクに上がったこと、パワフルボアを倒した腕など、俺は褒められてなぜか恥ずかしかった。
★
「おっと、もうこんな時間か。面白い話をありがとよ。俺はそろそろ厨房に戻るよ。嫁さんはそろそろくると思うから待っててくれ」
「悪いな、礼を言う」
「いいってことよ」
大将は、はにかみながら厨房へと戻っていった。俺の話はなかなか受けが良かったようで安心だ。
「じゃあ、私もお手伝い行ってくるね!お母さんが来たら言っておくね!」
「あぁ。ありがとう」
ミリアは自分が食べた食器を片付け、厨房に戻っていく
「あぁすまない!会計を済ませていない」
「ミリアのはサービスだ!気にしないでくれ!」
大将が厨房からひょっこり顔を出して言う。
(ふむ。これがご近所づきあい。というものだな)
俺は、初めてのご近所づきあいにちょっと嬉しくなりながら、そのまま席で大将の嫁さんを待った。
(今日は、月の教会へ行こう)
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