骸骨は行き詰まる

窓から見る景色に感動しつつも、馬車は進む。


「む、あの列には並ばなくてはいいのか?」


「私たちは別の入り口から入るんですよ」


「それは、ずるい。というものではないのか?」


「ははは。私たち貴族は、別の入り口があるので大丈夫なのですよ」


初めて見る。これが貴族というものか。人間には序列というものがあると知っていたが、貴族というものは知識でしか知らなかった。


「リーン殿たちは貴族だったのか。イメージと違うからわからなかった」


「うふふ。骸骨さんと話してみてわかったけど、本当に世間のことは知らないんですね」


リーンは微笑みながら俺に言った。


ボロガンの中へは簡単に入ることができ、入市税などもとられなかった。御者が兵士に何かを見せて、それだけで通れてしまったのだ。フリーパスというものらしい。


「さて、骸骨さん。私たちは屋敷へ向かうのでここでお別れになってしまいますが、これからどこへ向かうのですか?」


門を入ってすぐ、馬の停留所というところで降りる。

そういえばハルナは、人間の中で暮らしていくなら身分証を作ったほうがいい。と言っていたな。確か、冒険者ギルドに行くといいと……


「冒険者ギルド、というのはどちらにあるか知っているか?」


「あら、まだ登録はまだだったのね。冒険者ギルドは確か……」


リーンは思い出すように頭を唸らせるが、御者の男が説明をしてくれた。


「この道を真っ直ぐ進んだところに、青い屋根の武具屋があるのですが、そこを右に曲がって真っ直ぐ行けば、後はわかると思います」


「だそうね。それじゃ、私たちはこっちだから。大変有意義な時間だったわ。ご縁があればまたどこかでお会いしましょう」


リーンは可愛らしい笑顔を見せてそう言った。


「あぁ。こちらこそ世話になったな。ここでお別れだ」


俺は軽く会釈し、感謝を伝えた。

リーン達は俺が向かう方とは反対側へ行ってしまった。

貴重な人間との初会話、そして新たに聞いた話。

この世界では、まだまだ楽しみなことが多くあるようだ。





「ここ、か」


言われた通りの道を辿って冒険者ギルドへ向かうと、いかにもな場所があった。

両開きのドアと、剣と盾のマークが描かれた看板。

この建物の周りには武具で身を固める人間がたくさんいた。


(よし。入るか)


俺はドアを両手で開き、中へと入る。

中は思ったよりも広く、入って目の前に大きな掲示板と、休憩スペースらしきもの。右には受付と買取窓口、左は飲食スペースとなっていた。


(ふむ。機能性に優れている。ということか)


入ってすぐのテーブルには、髭面の強面の男が座っていた。顔は赤く、しゃっくりをしている。どうやら酔っ払っているようだ。


俺はすぐに受付窓口と思われる場所へ向かう。


「冒険者の登録をしたいのだが」


「はい。それではこちらの用紙へ記入をお願い致します。代筆もできますが、文字の読み書きは大丈夫ですか?」


冒険者には文字の読み書きができない人間、産まれた時から貧困で、学ぶこともできず冒険者という職業しか残っていない人物が登録することもあり、そういった者は代筆などが多いらしい。


「問題ない」


俺はなぜか文字の読み書きが可能だった。なぜかはわからない。きっとこれも月のおかげだろう。


登録用紙に簡単な情報を書いていく


名前:

性別:男

出身地:バルバル

得意武器:剣

備考:月が好きだ


受付嬢へ紙を渡す。


「バルバルから……遠いですね。お名前は必須事項となっておりますのでお書きください」


「名前……か」


俺に名前はまだない。名前というのは大事なものらしく、ハルナから、「名前をつけてほしいと思った人物につけてもらいなさい」と言われた。「ハルナがつけてくれ」と頼んだが、拒まれた。理由はあるが、傷つけてしまうからと、教えてはくれなかった。

名前がつくとネームドモンスター、というものになるらしい。ユニークでネームド持ちなものは希少で、強いものが多いときいた。


「ふむ……」


「スカルヘッド……さん、ですね。かしこまりました。それでは冒険者カードを作るので体の一部を頂戴致します」


「体の、一部……?」


「はい。冒険者カードを作るにあたり、ご本人様の情報が必要になります。冒険者カードには討伐したモンスターが自動的に書き込まれ、完了報告や不正がないかを見るのにとても便利なのです」


「体の一部というのは具体的には……?」


「ごく一般的なのは血液ですね。体の中に流れているもので、その人の情報が詳細に明記されやすくなります。次点で髪の毛などになります」


俺には両方なかった。体に流れる血液も、頭に生える髪の毛も……

俺は、ただの青い骸骨なのだ。


「少しちくりと致しますが、どうぞ」


受付嬢から小さなナイフを手渡される。

何がおかしいのか、不思議に思い首を傾げる受付嬢。

人間の街に入って、さっそくの大ピンチ……どう切り抜けようか……

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