骸骨は見上げる

風呂、というものは溜めた水を温め、そこへ入り体を洗う。というものらしい。

骨だけのこの体、洗う必要があるのか、と思うが、言われるがままに案内される。


脱衣所で外套と棍棒を外す


「骸骨殿、それは?」


「これは大事なものでな。安心してくれ。切りかかったりはしないさ」


「ははは。わかってますよ」


俺は、月光剣を背骨と肋骨の間に差し込み、お風呂というところへ向かう。

名前がないと呼びにくいということで、ハナが俺に骸骨さん。ということ名をつけてくれた。

お風呂は露天風呂というものらしく、外に設置されている

脱衣所というところで、俺とハルナは服を脱ぎ、露天風呂がある場所の扉をあける。

扉を開けた向こうには、大きな石に囲われた池のようなものがあった。


「これが露天風呂というものか?」


「はい」


俺は指先を入れ、どれほどの熱さかを調べる。が、俺に体温などというものはなく、わからない。


「ふむ、温かいな」


なんとなくそう言ってみる。


「そのまま入るんですよ」


そう言い、ハルナは風呂の中へと入っていく。

俺もそれに倣い、風呂の中へ入る。

温かい。体の、骨が温まっていくのがわかる。気がした。

気がしただけだが、気持ちがいいものだ。


「骸骨さん、見てください。あれがモンタナが見せたいと言っていた木ですよ」


指のさされた方を見ると、そこには巨木が立っていた。

立っている。といっても、根の部分をここから見ることはできない。

大きく聳えた木に、立派な葉がその存在を主張している


「あれは、私たちが世界樹と呼んでいるものです。とは言っても、ここにあるのは本当の世界樹ではないんですけどね」


「本当の世界樹ではない?」


「はい。エルフの集落はここ以外にもたくさんあるのですが、ここからはるか東、自然豊かな場所に、本当の世界樹があるんです。そこの世界樹は、ここの世界樹とは比べ物にならないくらい大きいんです」


「ハルナはそれを見たことが?」


「はい。小さい頃ですが」


「そうか」


世界樹の横から、月が顔を出している。その様が、見事に互いを引き立てあい、実に美しい。

世界樹の緑が、空に浮かぶ青い月を見事に彩り、月もまた、青い月の光で世界樹の葉を照らしている。うまく言葉にはできないが、とても美しい。


その時、脱衣所のドアが開いた。


「お爺ちゃーん!」


「失礼します」


「ハナ、モンタナ」


ハナとモンタナが入ってくる。ハナは助走をつけ、思いきり露店風呂に飛び込み、水飛沫をあげた。


「ぷっは、男同士、水入らずで話すと言っただろう」


「ハナ様がどうしても……と、ならば私はハルナ様のお背中を流そうと思いまして」


「ハナは骸骨さんの骨を磨くのー!」


ハナは元気にそう言い、タオルを振った。

俺はハナに手を引かれ、風呂から上がった。

モンタナはハルナの背中を、ハナは俺の骨を磨く。


「こうしたほうが磨きやすいだろう」


俺は肋骨や腕の骨を外し、ハナへ渡す。ハナは最初びっくりしたが、骨を大事そうに磨いてくれている。


「あっ!骸骨さん!動かないでね〜」


ハナは俺の肋骨を全部とり、中へ入ると、骨を戻していく


「おじいちゃん!見て見て!柵!」


ハナは俺の肋骨を揺らしながら笑う。


「コラコラ。骸骨殿。すみません」


「いや、大丈夫だ」


俺は顎をカタカタと鳴らしながら笑って答えた。

風呂はハナのおかげで楽しく、明るく話せた。

ハルナからはエルフの話、歴史や魔法。ハルナが見たことがある絶景スポットの話を聞いた。


風呂から上がり、着替えた後、また世界樹を見に出かけた。

周りのエルフは、俺を見かけると少し固まったが、ハルナのおかげか、みなお辞儀をしてくれた。


真下から見る世界樹も見事なものだった。

巨木を支える根っこは、俺の身の丈以上もあり、太さもある。落ち葉の大きさも、俺とほとんど変わらなかった。世界樹の木々や葉の隙間から見える月が、本当に綺麗に見える


俺は月光剣を鞘から抜き月に掲げる


「骸骨どの?」


「あぁすまない。剣にも見せてやりたくてな」


「そうですか」


ハルナはにっこりと微笑み、ハナは剣を見せてと言った。剣を見たハナが、綺麗。と言ってくれ、俺は自分のことのように嬉しく思った


世界樹を軽く見て回った後、客人用の部屋へと通され、ここで眠るよう言われたが、睡眠が不要な身のため眠ることはなかった。

俺は窓から入ってくる月の光に照らされながら、飽きることなく月を見る。


「やはり……美しい……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る