骸骨は密告される

その人間から聞いた話は、面白いものばかりだった。

金色に光る泉、真っ白な洞窟、雪山にそびえる氷の城、勇者の物語や、魔神の伝説、色々なものを聞かせてくれた


魔法や剣術、有名な人物や剣神や、賢者と呼ばれる人間がいるのだとか。

人間から聞いた話はどれも魅力的で新しいものばかりだった。


「こんなものだろうか」


「ありがとう。実に有意義だった」


小一時間話をしてくれた男の名前は、ダンというらしい。女はシシリー


「それじゃ、見張りのほうは頼んだ」


「任せてくれ」


洞窟、いや、このダンジョンでの見張りを俺は話の見返りとして請け負った。


程なくしてグガーグガーという音がダンから聞こえる。イビキ、というものらしい。シシリーがダンの嫌いなところだと言っていた

シシリーはというと、体の向きを何度も何度も変えている。


(これが寝返りか)


俺はダンジョンの入口に立ち、夜の月を見上げていた。雨というものはすでに止んでおり、あたりは静かな森だった。木々を濡らした雨が、月の光を反射し、綺麗に輝いていた


(森を照らす月……美しい……)


月は変わらない美しさを俺に見せてくれる。

その月を見て感動をしていると、目の前の茂みから猪が、鼻をヒクつかせながら出てくる。臭いを嗅いでいるようだ。しばらくして顔をこちらに向ける


(こちらを睨みつけているな)


猪はガサガサと体を振りこちらへ歩いてくる

どうやら、ダンとシシリーが話してくれた猪のようだ

俺はゆっくりと剣を抜き、身構える




小鳥のさえずりが聞こえ、目を擦って目を覚ます


「んー……朝、か」


俺は体を伸ばし、頭を起こす

朝日がダンジョンの入口から微かにこちら照らしていた


「おはよう。よく眠れたかな?」


シシリーのものではない声が聞こえてくる。

昨日出会ったスケルトンだ。

見た目が青く、剣を二本、棍棒を一本持つユニークモンスター。と思われるスケルトン


「あぁ、おかげさまで……うおぉっ!」


「きゃっ!なに!」


俺は目を疑った。

目の前には、昨日とは見た目が少し違うスケルトンが座っている。それだけならあまり驚きはしないが、問題なのは、それが座っているもの。

昨日、俺たちが命からがら逃げてきたパワフルボア。そいつが今、首を切られスケルトンの椅子になっている。


「どうした?」


「あ、い、いや、あんたの座っているその猪……」


「あぁ。こいつか、こいつは昨日寝静まったあなたたちを襲おうとしていたのでな。倒させていただいた」


「そ、そうか」


俺たちが倒すことのできなかったパワフルボア、体にはシシリーが使っているダガーが突き刺さっている。昨日俺たちが倒せなかったパワフルボアだということがわかる


(こいつ……俺たちの倒せなかったパワフルボアを倒したのか。それに……)


スケルトンは見た目が変わっていた。

昨日より身長が伸びており、真っ暗な眼窩には青い炎が揺らめいている


「あんた……見た目変わったわね」


「わかるか。この猪を倒したら進化というものをしてな」


スケルトンはそう答えた。


「ま、まぁ、とりあえずその猪でも食うか!」


俺の腹の虫はどうやら限界らしく、ダンジョンの中に俺の腹の音が響く。俺は猪を解体し、肉と素材に分けていく


「シシリー、火を起こしてくれ」


「わかったわ」


「私は何を?」


スケルトンが自分の役割を聞いてくる


「そう、だなぁ……見張りを頼む!」


「わかった」



「ふぅ〜食った食った。残りは売るとして……」


俺たちはパワフルボアの肉を朝食にし、バルバルの街に向かうため荷物をまとめていた


「それでは、気をつけて」


「あぁ。お前もありがとな!見張りと朝食!」


「いやいや、こちらこそ貴重な話を聞けてよかった。これはせめてもの礼だ」


スケルトンはそう言って、肋骨の骨を外し、俺たちへ手渡してくる


「私はユニークモンスター?というものなのだろう?きっと高く売れることだろう」


「何から何まで、悪いな」


「いやいや、それでは、またどこかで」


「あぁ。世話になった」


スケルトンは俺たちを見送ってくれ、ダンジョンの奥へと戻っていった



「ほい!パワフルボアの肉と牙と毛皮だ!買取を頼む!」


俺たちは素材を買い取ってもらうために、バルバル街の冒険者ギルドに来ていた


「はい。それでは、買取窓口の方へ進んでください。パワフルボアの討伐報酬は買取のお金とお渡し致しますね」


「あぁ。それで頼む」


俺たちは買取窓口へ進み、素材を出した


「あぁ、あとこれ、いくらになる?」


「んん〜?青い骨?これ、どこで手に入れたんじゃ?」


「そ、そこらへんに落ちてたんだよ。な?シシリー」


「ええ、そうよ」


嘘をつく。が、もしも正直に言って、ユニークモンスターというだけで討伐されてしまえば、あれほどよくしてもらったスケルトンに申し訳がたたないし、後味が悪い。


「ふむ、ただのスケルトンの骨のようじゃが……そうじゃな、珍しいってことで銀貨1枚で買い取ってやろう」


スケルトンの骨はただの骨なので、価値がつくことがない。だが珍しいということで銀貨一枚、悪くはない


「あぁ、それで頼む」


「それじゃパワフルボアの素材と合わせて……」


「待て」


後ろから声がかかる。そこには真紅の鎧に剣、眼帯をつけた大男が立っていた。


「ギルドマスター、なにか不思議なことでも?」


ギルドマスターは骨から目を離し、俺たちを見た


「冒険者よ。この骨、どのあたりで拾った?」


「覚えてはいませんね……森の中でしたから……」


咄嗟に嘘をつく。これほどの実力者に嘘を言ったところで、すぐに見抜かれてしまうのが


「ふむ、貴様は……漆黒の悪夢ブラックナイトメアを知っているか?」


「お伽話に出てくるモンスターですか?」


「その通り、だが、フィクションではない。漆黒の悪夢は真っ黒な骨を持つスケルトンメイジだった」


(スケルトン……)


そこで俺は気づいてしまった。ギルドマスターが言おうとしていることが


「なぜ私たちが、Gランクダンジョンのバルバル洞窟を月に一度間引きしているか、わかるか?」


「ユニークモンスターを出さないため……?」


「そうだ。取り返しのつかなくなるまえに、な。もう一度聞こう。この骨はどこで手に入れた……?」


俺は口を閉ざす。バルバル洞窟と言った時点で、ギルドマスターは気づいているのだろう。求めているのはその確信。だが、あの洞窟で出会った月を見上げる青いスケルトン。会話をしたところ、悪いやつではなかった。


「森の……端」


「バルバル洞窟よ!」


「っ!……シシリー!」


シシリーがギルドマスターへそう告げる。


「ふむ……やはりそうか。なぜ隠そうとしたかは聞かぬ。見逃してやろう。買取に少し色をつけてやれ。情報提供料だ」


「はい!かしこまりました!」


俺たちは二階へ上がるギルドマスターを見つめていた。


「パワフルボアの肉、5kgで銀貨1枚

パワフルボアの毛皮、一枚で銀貨1枚

パワフルボアの牙、二本で銀貨1枚

そしてこの青い骨は……金貨1枚だ。

締めて、金貨1枚と銀貨3枚だ」


俺はその声が聞こえていなかった。このあと起こることを考えてしまっていた


その晩、スケルトンを相手にするとしては恐ろしいほどの過剰戦力、ギルドマスター率いるBランクの討伐隊が組まれた



★★★


ステータス

名前:

種族:月ノ骸骨ルナ・スケルトン

ランク:E

レベル:1/20

HP50/50

MP10/10


固有スキル

月ノ眼

堅骨


スキル

剣術Lv2


称号

月を見る魔物、月の女神の寵愛

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