骸骨は密告される
その人間から聞いた話は、面白いものばかりだった。
金色に光る泉、真っ白な洞窟、雪山にそびえる氷の城、勇者の物語や、魔神の伝説、色々なものを聞かせてくれた
魔法や剣術、有名な人物や剣神や、賢者と呼ばれる人間がいるのだとか。
人間から聞いた話はどれも魅力的で新しいものばかりだった。
「こんなものだろうか」
「ありがとう。実に有意義だった」
小一時間話をしてくれた男の名前は、ダンというらしい。女はシシリー
「それじゃ、見張りのほうは頼んだ」
「任せてくれ」
洞窟、いや、このダンジョンでの見張りを俺は話の見返りとして請け負った。
程なくしてグガーグガーという音がダンから聞こえる。イビキ、というものらしい。シシリーがダンの嫌いなところだと言っていた
シシリーはというと、体の向きを何度も何度も変えている。
(これが寝返りか)
俺はダンジョンの入口に立ち、夜の月を見上げていた。雨というものはすでに止んでおり、あたりは静かな森だった。木々を濡らした雨が、月の光を反射し、綺麗に輝いていた
(森を照らす月……美しい……)
月は変わらない美しさを俺に見せてくれる。
その月を見て感動をしていると、目の前の茂みから猪が、鼻をヒクつかせながら出てくる。臭いを嗅いでいるようだ。しばらくして顔をこちらに向ける
(こちらを睨みつけているな)
猪はガサガサと体を振りこちらへ歩いてくる
どうやら、ダンとシシリーが話してくれた猪のようだ
俺はゆっくりと剣を抜き、身構える
★
小鳥のさえずりが聞こえ、目を擦って目を覚ます
「んー……朝、か」
俺は体を伸ばし、頭を起こす
朝日がダンジョンの入口から微かにこちら照らしていた
「おはよう。よく眠れたかな?」
シシリーのものではない声が聞こえてくる。
昨日出会ったスケルトンだ。
見た目が青く、剣を二本、棍棒を一本持つユニークモンスター。と思われるスケルトン
「あぁ、おかげさまで……うおぉっ!」
「きゃっ!なに!」
俺は目を疑った。
目の前には、昨日とは見た目が少し違うスケルトンが座っている。それだけならあまり驚きはしないが、問題なのは、それが座っているもの。
昨日、俺たちが命からがら逃げてきたパワフルボア。そいつが今、首を切られスケルトンの椅子になっている。
「どうした?」
「あ、い、いや、あんたの座っているその猪……」
「あぁ。こいつか、こいつは昨日寝静まったあなたたちを襲おうとしていたのでな。倒させていただいた」
「そ、そうか」
俺たちが倒すことのできなかったパワフルボア、体にはシシリーが使っているダガーが突き刺さっている。昨日俺たちが倒せなかったパワフルボアだということがわかる
(こいつ……俺たちの倒せなかったパワフルボアを倒したのか。それに……)
スケルトンは見た目が変わっていた。
昨日より身長が伸びており、真っ暗な眼窩には青い炎が揺らめいている
「あんた……見た目変わったわね」
「わかるか。この猪を倒したら進化というものをしてな」
スケルトンはそう答えた。
「ま、まぁ、とりあえずその猪でも食うか!」
俺の腹の虫はどうやら限界らしく、ダンジョンの中に俺の腹の音が響く。俺は猪を解体し、肉と素材に分けていく
「シシリー、火を起こしてくれ」
「わかったわ」
「私は何を?」
スケルトンが自分の役割を聞いてくる
「そう、だなぁ……見張りを頼む!」
「わかった」
★
「ふぅ〜食った食った。残りは売るとして……」
俺たちはパワフルボアの肉を朝食にし、バルバルの街に向かうため荷物をまとめていた
「それでは、気をつけて」
「あぁ。お前もありがとな!見張りと朝食!」
「いやいや、こちらこそ貴重な話を聞けてよかった。これはせめてもの礼だ」
スケルトンはそう言って、肋骨の骨を外し、俺たちへ手渡してくる
「私はユニークモンスター?というものなのだろう?きっと高く売れることだろう」
「何から何まで、悪いな」
「いやいや、それでは、またどこかで」
「あぁ。世話になった」
スケルトンは俺たちを見送ってくれ、ダンジョンの奥へと戻っていった
★
「ほい!パワフルボアの肉と牙と毛皮だ!買取を頼む!」
俺たちは素材を買い取ってもらうために、バルバル街の冒険者ギルドに来ていた
「はい。それでは、買取窓口の方へ進んでください。パワフルボアの討伐報酬は買取のお金とお渡し致しますね」
「あぁ。それで頼む」
俺たちは買取窓口へ進み、素材を出した
「あぁ、あとこれ、いくらになる?」
「んん〜?青い骨?これ、どこで手に入れたんじゃ?」
「そ、そこらへんに落ちてたんだよ。な?シシリー」
「ええ、そうよ」
嘘をつく。が、もしも正直に言って、ユニークモンスターというだけで討伐されてしまえば、あれほどよくしてもらったスケルトンに申し訳がたたないし、後味が悪い。
「ふむ、ただのスケルトンの骨のようじゃが……そうじゃな、珍しいってことで銀貨1枚で買い取ってやろう」
スケルトンの骨はただの骨なので、価値がつくことがない。だが珍しいということで銀貨一枚、悪くはない
「あぁ、それで頼む」
「それじゃパワフルボアの素材と合わせて……」
「待て」
後ろから声がかかる。そこには真紅の鎧に剣、眼帯をつけた大男が立っていた。
「ギルドマスター、なにか不思議なことでも?」
ギルドマスターは骨から目を離し、俺たちを見た
「冒険者よ。この骨、どのあたりで拾った?」
「覚えてはいませんね……森の中でしたから……」
咄嗟に嘘をつく。これほどの実力者に嘘を言ったところで、すぐに見抜かれてしまうのが
「ふむ、貴様は……漆黒の悪夢ブラックナイトメアを知っているか?」
「お伽話に出てくるモンスターですか?」
「その通り、だが、フィクションではない。漆黒の悪夢は真っ黒な骨を持つスケルトンメイジだった」
(スケルトン……)
そこで俺は気づいてしまった。ギルドマスターが言おうとしていることが
「なぜ私たちが、Gランクダンジョンのバルバル洞窟を月に一度間引きしているか、わかるか?」
「ユニークモンスターを出さないため……?」
「そうだ。取り返しのつかなくなるまえに、な。もう一度聞こう。この骨はどこで手に入れた……?」
俺は口を閉ざす。バルバル洞窟と言った時点で、ギルドマスターは気づいているのだろう。求めているのはその確信。だが、あの洞窟で出会った月を見上げる青いスケルトン。会話をしたところ、悪いやつではなかった。
「森の……端」
「バルバル洞窟よ!」
「っ!……シシリー!」
シシリーがギルドマスターへそう告げる。
「ふむ……やはりそうか。なぜ隠そうとしたかは聞かぬ。見逃してやろう。買取に少し色をつけてやれ。情報提供料だ」
「はい!かしこまりました!」
俺たちは二階へ上がるギルドマスターを見つめていた。
「パワフルボアの肉、5kgで銀貨1枚
パワフルボアの毛皮、一枚で銀貨1枚
パワフルボアの牙、二本で銀貨1枚
そしてこの青い骨は……金貨1枚だ。
締めて、金貨1枚と銀貨3枚だ」
俺はその声が聞こえていなかった。このあと起こることを考えてしまっていた
その晩、スケルトンを相手にするとしては恐ろしいほどの過剰戦力、ギルドマスター率いるBランクの討伐隊が組まれた
★★★
ステータス
名前:
種族:
ランク:E
レベル:1/20
HP50/50
MP10/10
固有スキル
月ノ眼
堅骨
スキル
剣術Lv2
称号
月を見る魔物、月の女神の寵愛
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