第四章 世界の求めかた(2)
◯
この国は負けた。
それを認めるだけの計算は、とっくに終わっていた。
なにをどうやったところで逆転など望めない。久しぶりに家に帰ってきて
始めて1時間と
つい、ひとりごとをつぶやく。
「結局、
それを認めたくなくて、悪あがきのように計算していたのだ。しかし、事実っていうのはいつでも
「勝ちたかったなぁ……」
無念に思いつつそうつぶやく。それぐらいしかやれることが無いからだ。
ソファにどっかり
やがてぬかるみにはまりこんでいくかのように、ずぶずぶと
「ナオキさん……ナオキさん……」
さわさわ、と、なにかが
「ぅ、わかったよ……起きるから……って──あれ、暗いな?」
目を覚ました
「まだ、
そう言って
暗殺者に
そのソアラが、夜でもこの家にいる。
……ああ、そうか。戦争が終わってるんだから、暗殺の危険はもう低いのか。
「こんばんわ。ソアラ。……こんな時間に、どうしたんだ?」
「こんばんわ、です。……ええ、その、少し、ナオキさんとお話したいことがあって、来ちゃいました。その……わたし、ひとりで」
「ひとりで? 夜中にひとりで出歩いたら危ないだろ」
「いえ、明るいうちに来ましたよ?」
「そうか、それなら……って、ちょっと待ってくれ。つまり、暗くなるのをわざわざ待ってから、
「よくお
「? そうか」
目をそらしながら変なことを言うソアラ。
立ち上がるために力を入れたところで、
ということは、もうとっくに評議会は終わっているのだろう。
「それで結局、敗戦処理をどうするのか、決まったのか?」
「……それは、とても残念な結果に終わりました」
表情を
敗戦は
もしもあそこで「
いまさら
「じゃあ、
「いいえ、条件付きで
「聞かせてくれ」
そしてソアラは説明してくれた。
オルデンボーの議会は血船王の意向を尊重し、銀貨40万枚という無理難題を
それを
そして──国王陛下の病状にぴったり合わせた
「大司教が……まさかそんなことをしてるとはな。目的は教会領を
「父上にわたしやナオキさんの行いを『神に
「それで、どうする? 銀貨40万って言ったら、王室の年間予算の5分の1だろ。
すでに借金をして回している状態の王室予算に、40万枚の上乗せをすればトドメにしかならない。
もしかすれば、その
「そのことですが……実は、もう決めてあるのです。フィセター銀貨200枚を持ってきました」
「ふむ、それで?」
なにをするんだろうか。
そう思った
「お
「……なんだって?」
「
「……そうだよ。
思いついてたらもう言ってる。ソアラもそれをわかっているのだろう。
「わたしは負けてしまいました。近いうちに
どちらにせよ、そうなった時にナオキさんを
反論できなかった。
名目上とはいえ将軍
「……戦争にかまけ過ぎた
未来というのは都合の
それをわかっていたのに、
ソアラは
「わたしたちのどちらのせいかなど、それはいいのです。ナオキさんがいなければ、わたしはどのように戦うか見当もつきませんでした。……ご自分を責めないでください」
それは、
……そういうものを見たくなくて、やっていたのに。
「この世界の、悪いところばかりお見せして、お別れしてしまうのは残念ですが……わたしの力不足です。すみません。せめてどうか、無事でいてくださいね」
「……なあ、きみが見た景色はちがったのか?」
「え?」
「この世界に、きみはなにを見ていたんだ?」
「なにを……と言われても……どういう意味ですか?」
不思議そうに聞き返されて、
「……
それは、この世界でも変わらないことだっただろ。きみはただ数学をやっていただけで
悲しげな目で、ソアラは
心が痛んだが、あえて言う。
「こんな世界が醜いと──そんな風に思ったことは、ないのか?」
せめて人助けくらいは
そんな世界が
「難しい質問ですね。……世界が
「本当に?」
「ええ、本当です。
父上には片時も理解していただけません。
「…………ああ」
たとえ王女であっても、ひとりの人間なのだ。そう思わせる、実感のこもった言葉だった。
しかし、
「だけど……世界って、ずるいんです。こんなにも苦しくて、こんなにも思うとおりにいかないのに──たまに、すごく好きな一面が……ふっと見えるんです」
その
「
そんな──〝感動の
「どんなに苦しいことがあっても、人は、なにかに感動している
……わたしも、そのひとりです。いつも綺麗な世界でなくとも、いつか見た世界の美しさが忘れられない。──ただ、それだけです」
「────感動、か」
心を動かされた時。
美しいものを見た時。
どんなに
それがどんなに難しいことなのか、
なのに、ソアラは。
……まったく。
本当に。
なぜ、こんな
こんな
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