第三章 撃たれる前に計算しよう! sin,cos,tan!(6)
移動する。
そのすべてを机の上で計算して、
それくらい、
敵がアルマ市に向けて進軍すれば前進して、こちらへ反転してくるなら後退する。
やがて敵は沿岸部へと移動し始めた。船なら陸の移動よりずっと速いし、なにより、
それはつまり、こちらは内陸では自由に動き回るだけの支配地域を
敵の船の移動速度は、徒歩の兵隊に合わせないといけないこちらよりずっと速い。しかし、
では、報告される敵の位置と予想される移動
考え続けては答えを出して、戦い続けていた。
とはいえ、だんだんと楽になっている。理由は簡単。
そして、ソアラがめきめきと数学的な理解を深めていくからだ。
「わたしたちはミニマックス戦略でまず点数をつけます。つまり〝想定される最大の
どうですか、考えかたとしては簡単ですよね?」
「すみませんが、なに言ってるかわからねェです。
おっさんがあとずさりしていく。自分たちが戦う場所を決める方法を教えてほしいと言われてソアラが答えたのだが、
「王女
行軍を早くするためのいくつかの
兵隊がみんな団子になってそぞろ歩きするので、ちゃんと列を作って歩けるように団体行動のための号令を取り決めたのだ。と言っても、日本人にはおなじみの〝全体集合〟〝小さく前へならえ〟〝二列行進〟とかである。
「あァ、あれね。おかげで歩きやすくなってますぜ、大将」
「
「へいへい。
おっさんはすごすごと退散した。
部屋にふたりきりに
「ソアラは
「そんなことはありません。わたしは最近、どうして平面である地図に
「……って言うと?」
「地図を見るときに、わたしたちは
「……わお」
長い線分Xと短い線分Yがあるとして、その線分上にある無限個の実数は一対一対応であり、線分Xと線分Yの点の数は等しい。
これは数学においても19世紀にドイツ人数学者ゲオルク・カントールが提唱した『連続体仮説』につながる考えである。これを証明した数学者はフィールズ賞を取ったくらいの、数学的な発見だ。
「やっぱり、変な考えですよね?」
「そんなことない。そのとおりなんだ。ソアラは本当に
「……変なことでは、ないんですか?」
「もちろんだ。きみはすごいよ。集合論に興味があるなら、この戦争が終わったら
「ええっと……そうですね。興味はあります。ただ、わたしはやっぱり、こうやって
「情報数学か……パソコンがあればな。いろいろすごいことができたのに」
いまや関数
「ふふ、
「……ま、地道にやるしかないよな」
「戦争を終わらせるのが楽しみになってきました。わからないことがあって
そう言って笑うソアラに、
──楽しんでいる間に、口にしておけば良かった。
「大将、
見せたことのない
「イェーセン河口のエーゼンブルグ
決定的に、それまでの努力を無に帰す
「待てよ……イェーセン河口だって? それはたしか、ずっと東のほうじゃなかったか!?」
それも、戦略的にかなり重要な地域だったはずだ。なぜなら、
「そうです。ファヴェールの
「あそこが
顔色を失って青ざめるソアラは、報告書を読みながら信じられないという表情をしていた。
「なんでだ!? 敵はこのアルマ地方に兵隊主力を
計算外の出来事だった。敵軍の規模からして、これ以上の
イェーセンはたしかに戦略的に重要な場所で、
「……オルデンボーの兵隊は、1000程度であったそうです」
ソアラは
「ウィスカー
苦しそうに、そう言った。
「まさか、こんなことになるなんて……」
「……くっ、そっ、があっ!」
へし折れた
「急いで王宮に
「敗戦……負けたのか、
口に出して気分の
歯を食いしばりつつ現実を言葉にした
「はい。世界は……変えられませんでした……」
つかつかと歩いていき、地図を両手で
「────っ!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます