第三章 撃たれる前に計算しよう! sin,cos,tan!(2)
負けた。
「
いきなり、そんな幕開けで始まった。
報告書を読んでから
「そんな……いったいなぜでしょうか。補強工事も終わっていたはず……もしや、まちがっていたのでは……」
報告書を読み進めるソアラが、表情を
「
明らかにソアラの方針と
「原因は……ウィスカー
理解できない。
そういう顔をして、報告書の文面を何度も目でなぞるソアラ。
しばらくそうしていたが、やがてインクは勝手に書き変わらないことをようやく認めたらしく、羽ペンと紙を持ち出した。
「書状を送ります。ウィスカー
「まあ、そうなるな」
口ではそう答えつつも、
「アルビィの敵の
前回の報告から、大した日も置かずに次の報告が入ってきていた。
受け取った報告書を手にして読み上げながらピンを
「野戦でしたか、それとも、敵の
戦場で働かされる記録官は働き者らしい。きちんとお
「敵の野営地を
「……戦果、というのはなんですか?」
「敵兵300の
「……そうですか」
暗い夜にどうやって
ただ、そういう部分は問題じゃない。
「この
「ええ、ええ。そのはずでした」
赤くなったピンをじっと見つめながらソアラはそう答える。
「手紙が届いていなかったのかもしれません。複数の伝令に手紙を持たせます。何か誤解されている可能性もあります」
「それなら
ずぶり、と赤いピンが地図に
「ヘッジハム
敵の船を地図の上で移動させ、
敵の勢力は基本的に二つだ。10000の本隊と、小分けにした船からの
それが、すでに3回も起きている。
「そうですか」
王女の返事は、もはやそれだけだった。
「……ソアラ?」
首を
「…………」
「……実はすごい
そう
「直接、話し合いに行きましょう。
「
「ご
暗にいまの前線が
「
「ありがとうございます。それなら背中は
「しまった。チキン発言が肉の
第一次防衛ラインが次々と破られているのが現状だ。進軍を急ぐために、兵士を荷車で運ぶという
食料その他の補給品は、国家最高権力者であるソアラ王女
アルマ市街に
市庁舎を仮の前進基地に
いまは
その日も報告書を受け取って読みつつ歩いていると、市庁舎の
「いままでに三
「
「ん?」
「少しお聞きしたいことがあるのですが……」
「聞くだけならなんでもどうぞ。答えられるかは内容によるけど。歩きながらでも?」
「も、もちろんです」
「じゃあ行こう。なんの用で?」
歩みを再開しつつそう
「そのぅ……
『エルデシュ数』という話がある。数学者同士の共著論文による結びつきにおいて、ポール・エルデシュという数学者とどれだけ近いかを表す
簡単に言うと、「有名人と会うために何人の知人が必要か?」という数だ。ちなみにまったく知らない人でも6、7人くらいで有名人を引き当てることができる。
つまり、外国の王やその側近に関する話を聞くのに、そんなに多くの人間は必要無いのだ。オルデンボーの血船王とやらに手紙を届けることも、必要とあればできるだろう。
ともあれエルデシュ数からしても、評議会のだれかひとりがそう思っていれば、
「あのな、どこの
「いえいえめっそうもない! ただ、率いてきた兵隊さんは昨日まで農民だったような男ばかりですし、王室
「いちばん不安な
「王女
ちょうどその時に部屋に着いたので、
「話は終わりか? 終わりでいいよな。じゃあな」
「えっ!? あの、
「入るな」
「聞くだけ聞いてやっただろ。ついでに、
「ちょっ、待ってくださ──」
「……どうかしましたか?」
ソアラがきょとんとした顔で
「べつに。
「なにかあったのですか?」
「公定価格で麦を売っていたら、
その報告に、ソアラが目を見開いた。
「なんてことを……いったいどうしてですか?」
「
「そんなことをしている場合では……」
頭痛をこらえるように頭を
まるで世界そのものが悪意を持って、
歯を合わせない歯車は
その日の報告で、
敵軍は、最終防衛ラインの一歩手前まで近づいてきていた。
「
勝つことを
いまさら
「ナオキさん……」
「わかってる。まだ負けてない。
「決定的な土地、ですか」
「そうだよ。
「まだ、ここから、ですか」
「まだ、ここから、だ」
地図をにらむ。
やりたいのは
方法は必ずある。
「……わたしも」
「ん?」
ソアラが、手を
「わたしも、
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