第二章 オークションにかける! ぼっちな姫の癒やしかた(5)
◯
最初にめちゃくちゃ
「それでですな、大司教のつてをたどれば1500領の
老人比率高めの評議会から報告される数々の提案。その最後を
「……いかがですかな、
いままですべての意見を聞き終えるまで、ずっとソアラは無言を
ソアラは手元に書き留めた家臣たちからの意見をじっと
「どれもわたしが望むものではありません」
「「「……はぁ」」」
あからさまなため息があちこちから聞こえてきた。
どこかから声が上がる。
「
「方針は先の会議でお話しました。わたしたちのほうが兵が少ない。それを前提にしたうえで、戦う方法を探し出すことです。それが『あなたの不利になるのは目に見えていますが、こちらに兵隊を移動させてください』とお願いするような、こちらの希望どおりに敵が動いてくれればどうこうできる、という話ばかりです。
そんな、都合のいい敵などいません。だから苦労しているのです」
「しかし
「戦って勝つことは無理です」
王女
「ですが、オルデンボーの軍勢を退けることはできます」
続けて言われたことに、あからさまに
「敵はわたしたちより多くの兵隊で
「……ど、どういうことだ……!?」「
ついにうろたえた声さえ上がる。
議会の全体を
これはあの時のソアラだ。
──必要とあらば
腹の底がしびれるような
「で、
「そのお気持ちはよくわかります。ですが、敵の兵隊は増えることはあっても減ることはありません。それに追いつくほど増やすことも訓練することも、わたしたちにはできません。
ですから──長く戦います。これしかありません」
「長く……ですか」
「そうです。敵には倍給兵を多く
いきなりこちらに
家臣団の目が全部こちらを向いて、全部うさんくさそうにしていた。いやな
「あー……およそ2.46倍だ」
ざっと暗算して答えると、ざわめきが起きた。ソアラは続けて言う。
「戦力の差は?」
「歩兵だけの試算なら1:1.831くらいと予想できて、
「聞きましたか? 戦力は2倍ではないのに、経費は2.46倍です。わたしたちが勝つためには、この差を利用するしかありません」
「なんだって……?」「どういうことだ」「数字が
どよめく家臣団たちが、会議の最初から置かれていたのに無視していた配布資料を
「ソアラ王女
ウィスカー
対してソアラはにこやかに答える。
「ナオキさんです。わたしの相談役です。ご存知ですよね? そして──いまのはわたしがずっと言っていたことです。『ルールを変える』のです」
王女が身を乗り出して全員の顔を
「この戦争を長引かせます。平野での会戦や決戦といった戦い方は、すべて頭から捨ててください。
「それでは……この
「そのとおりです。防衛戦なら
兵隊同士の戦いではなく、土地と戦わせて進軍を
「「「むううぅ……」」」
うなり声が重なった。あまり好ましくない反応なのは
「王女
貴族のひとりが立ち上がって、資料を
ソアラは
「いま必要なのは栄光ではなく、確固たる未来です。オルデンボーの圧政をこの国へ二度と
ついにだれも反論しなくなる。
「アルマ地方を敵が
周辺に野戦
この言葉に、再び家臣団がざわめきを
「
「訓練と同時に行います。土と戦うだけなら、
ソアラはそんなことを言うが、老人たちの意見は
「そんな」「ありえん」「土木作業など、農民の仕事だ」「戦う男のやることではない」
聞こえているはずの文句をすべて聞き流して、
「さらに、
びす、とピンで王家の印章が
「戦争で商売をしようというのですか!?」「道義に反することだ!!」「神に見放される!」
その
「補給品はいつも街や村から買い付けていますよね。
ソアラが目をまたたかせて言うのに、男たちは首をすくめてまんじりと何か言いたげにする。自然とウィスカー
「
「
──なのに、
不思議だろうなぁ。
とぼけ顔のソアラに向かって意見を言わないといけないウィスカーさんが悪いわけじゃない。
聞いた話では、
たとえば日本の自衛隊に補給の専門部署があるくらいのことは、
国家存亡の時に戦の常識を外れるというのは、かなり
「不思議もなにも、そんなことをしてなんになるのです。商人たちに任せておけば良いでしょう」
「これがなんになるのか、本当にわかりませんか? わたしはずっと同じことを言っていますよ。──ナオキさん?」
「
ソアラが満足げにうなずく。
「と、いうことです。ファヴェールの国庫にも
そのために
ソアラが
「我々に相談も無く、そんなことを……」
「あなたたちにこのようなことはさせられません。それはご自分でも
「それは、たしかにそのとおりですが……よりによって王族が
「ファヴェールの王は父上が一代目です。二代目のわたしがやることを『
「……すでに決意は固まっているというわけですかな」
「はい。これがこの国の新しい方針です。わたしたちは天運に
「「「むぅぅ……」」」
「……戦は、数字ではない……!」
これは説得失敗か?
家臣団の協力が得られなければ、かなり困難な──というか実質不可能な話になってしまう。
「王の言うことが無茶だったのは、これが初めてではない」
と、そんな声が上がった。
「独立戦争前のことだ。オルデンボーの圧政に立ち向かえと説得された時、我々の市民会は無理だと言った。だが、王は見事に
我々は王に助言することはできる。しかし決断を
そんな
そして、その程度の〝空気〟で
そうしてなんとなく
「それではみなさん、言ったとおりに手配をお願いします」
具体的になにをするべきか、行動に移っているのだ。
そして、ソアラが付け加える。
「それとウィスカー
「……そんな、
「しかし王室の大金がかかったお話です。1500領もの
断固として話を
「……
「
「国王陛下にございます」
「……父上、に?」
「
「そうなのですか? わたしは聞いていませんが……」
「
それを聞いて、ソアラがこの会議の中で初めて
心当たりがあったのだろう。
以前、ソアラは使用人に国王から呼び出されたのを断っていた。たぶんあれだ。
「……わかりました。任せてください」
すぐに
──「やってしまいました」と。
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