第一章 ゲーム理論で分かる! 男装王女の救いかた(6)
◯
「本当に
「はい。
ほっそりとした
そんな想像したこともなかったシチュエーションで、見たこともない立派な
兵士が乗ってきた馬を見つけて
その間、もちろん町の人にも兵士たちにも使用人たちにもじろじろ見られたが、ソアラが気にしないようにと告げただけで、なにも
これが権力、と痛感していた。
権力者であるソアラはといえば、
「
「もうっ。それ、他の人がいるところでは絶対に口にしないでくださいね!」
「あっはっは。……
コップを持つ手が小刻みに
寒いからとか、そういう理由じゃない。あれからずっと、落ち着かないのだ。
「……
「……正直に言うと、
自分の
その結果、望みどおり殺した。
死体に慣れていない現代人としては、それなりにショックだ。
それを正直に白状してみた
「無理もありません。わたしも、あんなことがあったのは初めてですし」
「それにしては落ち着いてたな」
「……
「あー」
「
「……
だから気になるのは──こんな
疑問に思っていることを口にすると、ソアラがふっと
「この国はいま、本当に
「まあそのへんはあの勢力図を読んだから、うすうすわかるよ。まさかいちばん弱い国がここだとは思わなかったけど」
「〝弱い国〟ですか……」
「おっと、気に
つい口を
「いいえ、わたしもそう思っています。しかし、わたし以外のだれひとりとして、同じことを言う人はいません。──意味は、わかりますか?」
「いや、わからない」
「この国には『戦いはやってみなければわからない』と言っているかたばかりです。父上、家臣団、敵国、そして
「あー……それはきつい」
正直な感想を言うと、ソアラは
「たぶんですが……最悪の場合、わたしは
「最悪で
兵士はただの
──という説明を、ソアラ本人から道すがらに聞いたばかりだ。
「ですから、本当に
「そんな
ソアラは首を横に
「わたしも、無理だと思っていました。だけど……あなたを見つけました」
「
どういう意味だろう。
「はい。ナオキさんは、あの
「あれはゲーム理論だ。
「ですが、それに自分の命を懸けられるほど、そのルールに確信を持っておられましたよね?」
「それは当たり前だろ? だって、数学的にはあれ以外の
数学に命を預けられるか、という話なら、
10%の確率で助かる道と30%の確率で助かる道なら、30%を選ぶ。そういう単純な話なのだから。
「不安は無かったのですか? ここはあなたのいたところとはちがう世界でしょう? そのルールが通用しないかも、とは考えなかったんですか?」
「不安はあった。だけど、それはルールが──数学がこの世界で通じないかも、という不安じゃない。
数学がここでも通用するってことは、わかってた」
「なぜですか?」
「数学は宇宙共通語だからだ。地球上で人と話すための言語は190以上ある。『こんにちは』には『Hello』と返ってくるかもしれない。だけど、たとえ宇宙の果てにいる種族であっても、『1+1=』の答えは『2』だ」
ソアラに
数学とはそういうものだ。
地の底から宇宙の果てまで、必ずそこには数字がある。
この世界に来てから、
夜という
天体の円運動が、水が上から下へと流れ落ちる重力が、物質の裏側にある数字の海を
「──ここがどこでどんな世界であっても、数学は、そこにある。絶対にだ」
だからこそ、
ソアラはぎゅっと
「それでは……この世界で、弱者が生き残るルールがあると、信じてもいいのですか?」
「少なくとも──確率はあるさ」
そう
「確率はある。あるなら……じゅうぶんです。わたしは必ず、それを見つけ出します」
そして、開いた目に熱い意志を宿して
「改めてお願いします。ナオキさん、わたしの相談役として
その
「──わたしにも、あなたと同じ世界を見せてください」
「それ、は──」
数学を愛する人を増やすために、
死んだお
「──断れないな」
「わかったよ。
「……ありがとう、ございます」
王女はそのまま窓の外に目を向けて、ぼそりとつぶやく。
「必ず──必ず、この国を生き残らせてみせます。たとえわたしひとりだけでも……」
その
いまの
その
ぷに。
「はぅっ!? な、なんですか?」
ソアラはつつかれた
「いやひとりの世界に行ってたから
「すっ、すみません。わたし、社交行事以外で人とお話しするのって、慣れてなくて……」
「
「かわいそがらないでくださいっ。──あっ、そうです! 相談役なんですから、ちゃんと解決方法を教えてください」
「
「……え、えっと」
「
水差しからふたつのコップにおかわりを注いで、
「これから他のやつらと、ふたりで戦うんだろ?」
そう言ってコップを
「ナオキさん、よろしくお願いしますね」
「よろしく、ソアラ王女
ふたりの間で、
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